今や40代の独身は珍しくはないが、地域やコミュニティによっては希少かもしれない。「世間の大多数の人と同じことができない」人に対して、世の中は冷たい。「できないのではなくてしない。ひとりで何が悪い」と割り切って鋼のメンタルで生きていける人もいるだろうが、周りから批判されて生きるのがつらくなっていく人もいるだろう。
どんな人にもあらゆる選択の自由があるはずだ。
独身の姉は家族行事に参加しない
3人姉妹の末っ子として育ったマリさん(35歳)。長姉は43歳、独身だ。正社員として仕事をしながら実家で70代の両親と暮らしているが、仕事にやりがいを見いだしているわけでもなさそうだという。「次姉は結婚して遠方にいます。私も既婚で5歳と3歳の子を共働きで育てています。実家とは1時間の距離なので、親に頼るわけにもいかず、ときにはシッターさんを頼みながらの共働き。経済的にも苦しいですね」
なのに長姉は、とてもお気楽。会社に行き、たまに残業して給料は家には入れず、コロナ禍前は海外旅行ばかりしていた。
「母に聞いたら、洗濯も食事も母任せ。すごくケチなので、うちの子たちはお年玉ひとつもらったことがない。そもそも正月とか法事とか、親戚関係が集まる場に出席しないんです。母は『どこか肩身が狭いんだと思うから、そっとしておいてあげて』と言うけど、母がそうやって甘やかすから姉は常識はずれなことをするんじゃないかと思う」
昨年、父が倒れて入院したことがあった。姉はマリさんにその事実を伝えなかった。コロナ禍で見舞うこともできなかったのは事実だが、知らせてくれてもよかったはずだとのちにマリさんは抗議した。
「だっておかあさんが知らせるなと言うから……って。母は私たちを心配させまいとしてそう言ったかもしれないけど、それでも知らせるのが常識でしょと言ったら、『命に関わる病気ではないんだから、いいんじゃない?』と。あの人はおかしいとぷんぷん怒っていたら、夫が『自由に見えるお姉さんが羨ましいの?』と言うので、ますますイライラが募りました」
マリさんの夫は「高齢になっていく両親と一緒に暮らしているだけで、お姉さんにもストレスがあると思うけどなあ」と言うのだが、彼女は納得できないと憤る。
家は誰のものになるのか……
マリさんは、「姉は両親のめんどうを見ているわけではない」と夫の意見に反論する。むしろ姉はいまだに親を頼って生きているのだ、と。「私は専門学校を出て20歳でひとり暮らしを始めました。次姉は大学を出て就職、勤務地が遠方だったのでそのままそこで結婚、うちと同じく共働きで頑張っています。うちと次姉は子どもも2人ずついる。ちゃんと次世代を担う子どもを産んでいるわけです。でも姉は子どもも産まず、適当に働いて家事は親に頼り、給料を自分のためにだけ使っている。家族のためにも社会のためにも役に立っていない気がするんです」
独身子なしを敵に回す発言だが、これはマリさん個人の本音なのだろう。自分が大変だから、人がのらりくらりと生きていると腹が立つという気持ちもわからなくはない。
「夫は『僕らは子どもがいて、大変だけど成長するのを見守る楽しさがある。でも義姉にはそれはない。気楽だとマリは言うけど、将来を考えたら不安かもしれないし』と。どうして姉の味方をするのかとケンカになったこともあります」
それに、実際、親の介護が必要となったとき、長姉はおそらく自分を頼ってくるだろうとマリさんは感じている。
「財産などほとんどないと思いますが、自宅はある。いざとなったら長姉は家を売り払って両親を施設に入れようとするんじゃないかと思います。あるいは自宅に居座ったまま、両親の介護には見て見ぬふりをするか。いつでも自分は楽なところにいようとするから」
次姉は「私はマリの味方だから」と言ってくれているらしいが、そもそも姉妹で敵も味方もないだろう。とはいえ、きょうだいで親の介護について意見が割れて大変な思いをするのはよくある話。誰もが自分の正義を貫こうとするからだ。
「自分で親と連絡をとりあって、何かあれば力になると伝えておけばいいじゃないか、今から財産がどうとか家がどうとか言うマリの神経がわからないと夫には批判されました。夫は長姉のことでイライラしている私がおかしいと言うけど、私に言わせれば長姉のほうがおかしい。自分だけ楽をしないでほしいと思っています」
誰もが自分の選んだ人生を送る権利はある。姉妹が独身だろうと既婚だろうと、それはその本人が選んだこと。親に関してはいかに協力していけるかを優先的に考えたほうがいいのではないだろうか。客観的に見ると夫の言い分が正しいと思うが、渦中にいるマリさんは周りが見えなくなっている。