人間関係

「私の10代の目標はいかに早く母から離れるか」だった。人をからかう“自称”明るい母にイラッ

【毒親の毒は消えない #4】人をからかうことが「明るさ」「コミュニケーションの高さ」と思っている……。それが自分の親だと思うと、余計に腹が立つこともある。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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親だからこそ「生き方が違う」「価値観が違う」「すべての方向性が違う」と思うとイラッとしたりするもの。他人なら知らん顔すればすむ話でも、親だとそうはいかないからだ。
 

出産してからまた交流をもつようになって

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「私の10代の目標はいかに早く母から離れるかでした。母はすぐに人をからかい、大声で笑うんです。それが明るさであり、オープンな自分だと勘違いしているタイプ」

辛辣にそう言うのはアケミさん(43歳)だ。たとえば一緒に歩いていて、彼女がちょっとつまずいたりすると、「あはは」と大声で笑ったあと、「若いと思っててもあなたも年なのよ」とからかう。その日は1日中、「今度は階段から落ちないでよ」「またつまずくよ」と言い続けるのだという。

「しつこいと怒ると、『冗談もわからないのねー』って。イラつくでしょ、こういう人(笑)。だからなるべく早く自立しようと思っていました」

首都圏に住んでいたが、大学は関西へ。就職は東京だったが、そのままひとり暮らしをしたため、母とは18歳で疎遠になった。母はその後、同じようなことをアケミさんの妹に言い続け、妹もさっさと自立していったそう。

「ところが私が29歳で結婚、30歳と32歳で出産してから、どうしても手が足りず、母を頼ることになってしまったんです。子どもがふたりいたら、夫とふたりだけでは仕事を続けていけなかった。どうしても保育園のお迎えが間に合わないとき、夫と出張や残業がかぶってしまったときだけですが、母は『いつでも頼っていいわよ』と言ったくせに『人の手を借りなければならないなら、仕事やめたら?』と言うこともありました。そう言っておきながらまた、『あ、ダンナの給料だけじゃ生活できないわよねぇ』という嫌味も。今どきの社会をわかってないから、家族を養えないような男と一緒になるなんて男を見る目がないわねと」

アケミさんのイライラが最高潮に達し、下の子が小学校に入ってからは母を頼るのをやめた。

「残業や副業をしても、母には頼らないと決めたんです。夫の実家は遠方なので助けを求めるのはむずかしい。結局、一時期は高いお金を出してシッターさんを頼みました。頼られないとなると、母は『何怒ってるのよ、イライラするとダンナに嫌われるよ』とニヤニヤしながら言う。連絡もなしにうちには来ないでと追い返したこともありました」

母と会わない時間が多ければ心穏やかでいられると夫に愚痴を言うと、「実はおかあさん、寂しいんじゃないか?」と言われた。
 

「普通の会話」がしたいだけなのに

考えてみれば、母は長く専業主婦として生きてきた。おそらく家事も育児も好きなわけではなく、生活のために主婦であり続けた人なのだ。

「家族のためになんて考えてはいなかったと思う。私、お弁当ひとつ作ってもらったことはないですからね。家の食事だって、買ってきた惣菜がほとんど。父は仕事一筋だったから、あまり家のことにはこだわらなかった。子どもたちが元気でいればそれでいいと思っていた。私たち姉妹はほとんど病気もしませんでしたから、母は『あんたがどうして子育てでヒーヒー言ってるかわからない。子育てなんて楽なもんでしょ、今は家電製品だって優秀なんだから』と言ったことがあります。まったくわかってないですよね」

年齢がいくと「記憶を塗り替える」のが得意となる人がいる。自分の過去は、すべてうまくいっていた、自分が選んだ人生は間違いではなかったと思いたがるのかもしれない。「昔はこうだったから、今はもっと楽なはず」というのも年齢を経た人の言いがちなセリフだ。

「母は客観的にみれば、専業主婦としてがんばっていたわけでもなく、何か趣味をもつわけでもなく、友だちがいるわけでもなく、夫が言ったように寂しいのかもしれません。だからといって私を揶揄していいということにはならない。自分のストレスを一生、私にぶつけ続けるのかと思うと、どうしてあの人に私の人生をからかわれないといけないのか、腹が立ってくるんですよ」

5年前、父が亡くなって母はひとり暮らしになった。アケミさんはたとえ合わないとはいっても70代になった母を心配し、ときどき電話をする。

「安否確認だけはしておこうと思って。何か困ったことはないか、体調は大丈夫かと尋ねると『人の心配より、あんたのところは大丈夫なの? 息子は相変わらず成績悪いの?』という調子です。小学生のころ、息子はやんちゃで勉強ができなかったんですが、勉強だけが人生じゃないと夫も私も思ってる。だけど母は『勉強しないと、お父さんみたいになっちゃうよ』と息子に言ったことがあった。私は本気で激怒したんですが、そのときのことを忘れているんでしょうね、そうやって息子を馬鹿にする。私は普通に会話をしたいだけなのに、母は娘相手にマウントをとってくるわけです。そういう言動はよくないと思うと注意したこともあるけど、いつも通り『冗談がわからない子ね』という一言で片づけられました」

そんな態度だから友だちもできないんでしょと言ったとき、母は目に涙を浮かべた。人をディスるのは得意だが、自分が何か言われると急に被害者意識満載になるのだという。

「ただ、私は母を常に客観的に見ることができてよかったと心から思います。あのまま母とべったり一緒にいたら、私自身もとんでもない人間になっていたはず。悲しいけど、こうなったら母のようにならないために、反面教師として利用させてもらうしかないと思っています」

心の中で母をバッサリ斬り捨てたアケミさん、今は自分の家族4人でいかに楽しく過ごすかを考えて生活しているそうだ。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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