離婚届を突きつけられた義母
「オヤジが言うには、おふくろが不倫していた、と。それはおふくろも認めているんだそうだよ。オヤジが怒ったらおふくろはふてくされた。それで離婚届を突きつけたら、サインして家を飛び出してしまった。だけど結局、不倫相手にも捨てられたと。その男とおふくろは以前からの知り合いだったらしいけど、そういう関係に発展したのは急だったみたい」夫はそんなふうに説明した。義母に確認すると「まあ、そんなところね」としれっと言った。
「いい年して何やってんだよと夫は怒っていましたが、顔を見たら涙目になっていました。夫もショックだったんでしょう。義母は『いくつになっても女は女ね。いいこと言われて口説かれて、その気になっちゃった。ミサキさんならわかってくれるでしょ』と女全開のねっとりした目で同意を求められて困りました」
義父は絶対に許さないと憤っており、このままだと義母の行き場所はない。離婚届は提出してしまったようで、財産分与も何もないままだ。
「とりあえず弁護士を入れて財産分与だけでも話し合おうと夫が言ったのですが、義母は『めんどうね。いいわよ、どこかで住み込みで働くわよ』って。70代で雇ってくれるところなんてありませんよ。どこか世間知らずなんですよね。どうにかなると思っている義母がだんだん腹立たしく思えてきて。でも夫は母親を放り出すわけにはいかないと」
義母には妹がいるのだが、妹には頼りたくないという。あなたたちの世話にはならないと言いながら、出て行く気配もない。1カ月たつころには、娘たちもイライラしてきたのがミサキさんには伝わってきた。
「夫はさんざん悩んでいたようですが、『やっぱり一緒には住めないよな』とポツリと言いました。私たち家族のリズムが崩れているのは夫もわかっていたようで、このままだと娘たちがストレスをためるし、私も家事ひとつしない義母に少しイラついていると正直に言いました。お義母さんを邪魔にするわけじゃないけど、このスペースで一緒に暮らすのは無理だと思う、あなたには残酷な言い方だとわかっているけどと告げました」
夫はアパートを契約して、母親をひとり暮らしさせることにした。そして母の妹にもすべて話した。夫にとって叔母にあたる彼女は「うちも一緒に暮らすのは無理だけど、行き来することはできる」と言ったため、叔母の家と自宅の中間地点にアパートを借りた。
それから9カ月。今、義母はようやくひとり暮らしに慣れ、週に数回、息子が来るのを楽しみにしているとか。
「高齢になって離婚して、ひとりで行き場がなくなると周りに迷惑をかけますね。恋をするなとは言わないけど、義母みたいにすぐバレて、あげくダメになるような恋なんて、なんだか悲しい。夫は、母親が恋愛して離婚したことでショックを受けているのに、それでもやはり母親の味方なんですね。夫の気持ちを考えるとなんだか切ないです」
確かに自分で責任をとれないなら恋などしてはいけないのかもしれない。それでも恋をしてしまった母、そんな母に傷つきながらフォローする息子。それを見ているミサキさん。誰もが切ない思いを抱えている。