彼の本音が見えない
「日常生活をともにするとなると、また少し何かが変わりますよね。今まで相手に見せなかった面も見せてしまう。でもお互いに許容できればいい。そう思っていました」彼もひとり暮らしが長かったので、家事はできる。どちらが何をやるということではなく、時間があるときにできるほうができることをしようとゆるやかに決めた。
「結果的に洗濯はそれぞれがやる、掃除は彼、料理は私。なんとなくそんな感じになっています。もちろん週末は彼が料理をしたり私が掃除をしたり。でも、なんだか彼はいろいろなことに不満があるような気がするんですよ。それを言わないでいる。結婚して1年たったとき、『こうしたほうがいいと思うことがあれば言って』と言ったんだけど、彼は何もない、と。だけどあまり幸せそうじゃない。以前ほど笑顔がないし。それが気になって」
何か悩みがあるのではないか、体調が悪いのではないかとマリカさんは常に彼にさりげなく聞いている。だが、彼からは「大丈夫、何でもないよ」という答えしか返ってこない。彼女に冷たい態度をとるようになったわけでもない。それでも「何かが違う」のだそうだ。
「私に気持ちがなくなったような気がする。結婚した安心感というわけではなく、何か重大なことを隠しているような……」
お互いに再婚ということもあり、双方の親には結婚後、それぞれ一度出向いて紹介しただけ。ふたりとも実家が遠方なので、それ以来、特に付き合いはない。
「彼が何を考えているのか、何を隠しているのか、どうしても気になって、あるとき、本当の心の内を話してくれなければ離婚も考えると脅したんです。そうしたら彼が、『実は離婚した妻が病気になっている』と。連絡を取り合っていたのと驚いたら、実は子どももいる、と。離婚後、転籍したので子どもの記載が消えていたんです。私を騙したのかとショックで……。彼はそういうつもりではなく、新たな人生を生きようと思い立って転籍しただけというんだけど」
若いときにデキ婚した彼の子は、現在12歳。元妻の病気は重く、入退院を繰り返している。元妻の母親が孫の面倒を見ているが、彼女も病気がちらしい。
「いざとなったら僕が引き取るしかないかもしれないと彼がつぶやくんです。私にはなんとも言いようがない。でも彼の子であることは確か。どうして言ってくれなかったのと思わず責めてしまいました。彼は『どうしても言えなかった』って。仕事が遅くなるとか出張とか言っていたのも、実際は元妻と子どものために時間を割いていたみたい」
その事実が判明してから半年ほどが経つ。元妻の病状は変わらず、今も入院中だという。生活資金もないため、マリカさんの夫が援助しているようだ。
「やっぱり私が身を退くのが一番いいんじゃないかと思えてきました。でもそれを言うと夫が泣くんです。僕を見捨てないでほしいって。ただ、この状態では先が見えない。私もタイムリミットを考えると、1カ月でも早く子どもがほしい。わかっていると夫はまた泣く。お互いに相手のことを考えれば解放してあげたほうがいいのかもしれないけど、決断がつかない。そんな感じなんです」
夫と離れたくはないが、この先を考えると希望がもてない。日々、心の奥に鉛がたまっていくように重い。マリカさんはため息しかでないと苦笑した。