緊急承認されたゾコーバとは……新型コロナウイルス感染症の治療薬
緊急承認された新型コロナ感染症の治療薬、その効果は?
今回、新型コロナウイルス感染症に対して、「ゾコーバ」という薬剤が緊急承認されました。効果と対象者、問題点について解説します。
ゾコーバの効果・対象者……早期内服により、症状が24時間短縮
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の場合、発症後数日は体内でウイルスが増殖し、発症後7日前後からは免疫による炎症反応が主な症状になると考えられています。抗ウイルス薬が効果を発揮する時期は、ウイルスが増える初期と考えられています。少し専門的になりますが、ゾコーバは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が増殖するために必要な酵素であるメインプロテアーゼというものに作用し、その働きを阻害することで、ウイルスの増殖を阻害するという効果があります。
日本、韓国、ベトナムでの治験では、重症化リスク因子やワクチン接種の有無に関わらず、1812 例において、発症から72時間未満に内服すると、鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳の呼吸器症状、熱っぽさまたは発熱、倦怠感 (疲労感)などの症状の消失までの時間が、プラセボ(偽薬)群と比較して約24時間短縮されたという結果が出ました。
投与の対象となるのは、12歳以上の小児及び成人で、1日目は375mg(3錠)、2日目から5日目は 125mg(1錠)を1日1回経口投与します。妊婦又は妊娠する可能性のある女性には投与できません。基本的には、軽症から中等症Ⅰに対して使用されます。
ゾコーバのデメリット・課題……重症化リスクを下げる効果はなし
一般に、重症化リスク因子のない軽症例では慎重に判断すべきです。また、ゾコーバの効果として、重症化抑制の報告はありません。感染状況によっては、医療のリソースがひっ迫することも考えられるため、重症化リスクの低い軽症者が、症状を24時間短縮する目的で、医療機関の受診が増加することを懸念する声もあがっています。また、有効性は症状発現から3日目までに投与開始された患者において推定されているため、新型コロナウイルス感染症の症状が発現してから遅くとも72時間以内に初回投与することが必要になります。飲んでいる薬と相互作用を起こす可能性もあるため、基礎疾患の内服薬がないかを確認することも大切です。
加えて、現時点では一般流通は行われず、厚生労働省が所有した上で、対象となる患者が発生した医療機関及び薬局からの依頼に基づいて、無償で譲渡されることになっています。どこでも処方されるわけではなく、安定的な入手が可能な状態ではありません。
新薬承認のニュースで安心せず、感染対策を続けることが重要
今回の新薬は、安全性は確認されていますが、緊急承認であることから、有効性はあくまでも推定です。治験以外のデータが乏しいのが現状です。実際にどれだけの効果があるのかに加え、使用数が増えることで治験では見られなかった副反応の報告が出ないとも言えません。「新薬ができたらしいから、かかっても大丈夫」ではなく、できれば新薬を使用せずに済む方が望ましいわけです。
新型コロナウイルス感染症にできるだけかからないように、引き続き感染対策を行いましょう。一方で流行期には注意していてもどこで感染するかわかりませんので、状況に応じてかかりつけ医と相談し、新薬の使用を検討すべきかどうかを判断してください。