20代の「出世欲のなさ」が話題だが、「成長しない日本社会」では当然との見方も?
一方、最近の若者の間では、「出世したくない」「成長に興味がない」という意見も増加中という。このような状況・社会に対する、人材コンサルタントの見解は。
「出世したくない」20代が約8割。理由は「責任を負いたくない」
もし「出世しても給料が変わらない」としたら、あなたは出世したいだろうか。つまり、仕事の難易度が高く責任も重くなったが、待遇は変わらないということだ。たとえば、「みなし管理職(名ばかり管理職)」が問題になったことは記憶に新しい。みなし管理職とは、肩書は管理職でありながら、管理職の権限を持っていない従業員のことである。出世して管理職になっても、給料がほとんど上がらなかったケースも実際にはあったようだ。将来なりたい職業ナンバーワンは「みなし管理職」である―これはブラックジョークの利いたパロディ映画やお笑い芸人のコントには登場する話だろうが、現実ではありえないだろう。
原則として、出世は昇給や業務に対する責任とセットである。これは本来当たり前の話だが、実際には、出世したが新しい仕事と役割・責任に対して昇給分が少なすぎて、これでは割に合わないと社員が嘆くケースが増えているという。
「出世欲がない」20代が約8割に上る
出世したい派の理由は「給料を上げたいから」が大多数を占める
出世したくない派の理由は、「責任のある仕事をしたくない」「プライベート重視」が多い
部下がサービス残業をしている状況や管理職なのに担当者と同じ仕事をせざるを得ないような人材不足が激しい職場など、組織にはあらゆる個別の事情によるゆがみがあり、出世したくなるような会社ではない、このような職場や仕事の状況で責任を取らなければならないような地位に自分は就きたくないという、いわば損得勘定の問題が発生しているのかもしれない。
現実の職場環境を見た上で、若手社員は「自分は出世したくない」と結論づけているのだ。このような事態を迎えている責任は、良い手本を若手に示せないでいる管理職やベテラン世代にあるのではないだろうか。
「出世したくない」のは、出世した人の現状の姿に共感できないからか
人が出世を望まなくなる理由はほかにもある。本来「出世」とは、人よりも早く、より責任の重い仕事につくことであり、それは名誉なことであるとみなされてきた。努力の末、社内競争に勝った証でもあり、報酬として好待遇や周囲からのリスペクトも期待できた。頑張って獲得するだけの価値が出世にはあったということだ。当然ながら、出世した人には周囲からも期待が集まる。仕事の難易度やリスクが高く、さまざまな難しい判断や決断が求められるがゆえに、能力や人望を携えた優秀な人材が出世することが会社や社員にとって望ましい。つまり、人よりも優れた能力を持つ人には、その力を自分のためだけでなく、広く他の人のためにも使ってほしいのである。
しかし、必ずしもそうはならない事例が目立つ。社長や管理職が引き起こした不祥事は絶え間なく続き、逮捕者まで出る始末である。スキャンダルまみれの大臣の更迭、辞任も続いている。もちろん、そのような人たちは昔の時代から一定数はいたが、最近になって私利私欲をあからさまに優先させるリーダーが目立つようになったのではないだろうか。
たとえば五輪汚職、スポーツの祭典の裏舞台で、いわゆる政財界の立場あるリーダーたち、まさに出世の最前線にいるような人たちが自分たちだけが得すればそれでいいという言動を重ねてきたことが明らかにされつつある。利権を得た人たちが、自分に対してあからさまに利益誘導をしているのであり、その結果出世することに汚いイメージがついてしまっているとしたら、これは社会の活力を奪いかねない深刻な事態である。
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