節子の好きだった「あのドロップ」が……
先日、『サクマ式ドロップス』を製造販売する佐久間製菓が、2023年1月20日をもって廃業するとの報道がありました。サクマ式ドロップスといいますと、アニメ映画『火垂るの墓』では主人公・清太の妹、節子の好物としてドロップ缶が描かれていました。アニメの一場面をプリントした缶入りドロップスも販売されていますので、ご存じの方は多いと思います。
ところが廃業のニュースが流れてから、オークションサイト等で缶入りのサクマ式ドロップスが高値で転売されるという現象が起きています。子どもの小遣いでも購入できるくらいの価格の品なのに、結構な値段が付いていました。
ここまで書くと、もうサクマ式ドロップスは入手できないのかと思われるかもしれませんが、缶入りは難しくても、袋入りなら入手可能です。新潟在住の筆者は、ドラッグストア(ドラッグトップス)と100均(Can★Do)で購入できました。製造が終了し流通が途絶えるまで、サクマ式ドロップスをはじめとする佐久間製菓の商品は、プレミア価格でなくても購入できるでしょう。
サクマのドロップスは赤?緑?
今回の報道で、サクマのドロップスには、赤い缶と緑の缶の2種類があることに気づいた方もいらっしゃるでしょう。袋入りでも、赤色基調の袋と緑色基調の袋の2種類があります。パッケージをよく観察しますと、赤いほうは「佐久間製菓のサクマ式ドロップス」、緑のほうは「サクマ製菓のサクマドロップス」となっています。そう、サクマのドロップスは2社から販売されているのです。
佐久間製菓とサクマ製菓の関係は?
『サクマ式ドロップス』(発売時は佐久間式メッキスドロップ)は、1908年に佐久間惣治郎氏の興した会社が製造販売を開始しました。氏は、クエン酸を加えることにより、溶けにくく透明感のあるドロップを作ることに成功しました。串間勉著『ザ・おかし』(扶桑社、1996年)によれば、配合したクエン酸を『お薬』と呼び、秘薬として金庫に保管していたとのことです。1913年には缶入りも販売されました。その後、第二次世界大戦中の企業整備令により、1944年に佐久間製菓は廃業しますが、終戦後に佐久間製菓と関係の深かった実業家、横倉信之助氏が佐久間製菓を、廃業時の社長だった山田弘隆氏の三男、山田隆重氏がサクマ製菓を興し、裁判の結果、佐久間製菓が『サクマ式ドロップス』の商標を使用することとなりました。
なお、現在サクマ式ドロップスの商標は2社の共同所有となっています。戦前の赤い缶は佐久間製菓が引き継ぎ、サクマ製菓は緑色の缶を使用しています。
なくなるのは「赤いほう」と憶えておく
各袋の左下に両社の商標も拡大してみました。佐久間製菓は三本の菱形の線に囲まれたヨットが描かれていて、ヨットは貿易船を、菱形の三本の線は日本の三大港(横浜・神戸・長崎)を表しています。対して、サクマ製菓は王冠の中にヨットと『しぶや』(創業時の本社のあった渋谷区から)の文字が描かれています。船がモチーフになっている点は同じなんですね。
「赤缶」のサクマ式ドロップスは佐久間製菓の廃業により、入手できなくなることが予想できますが、「緑缶」のサクマドロップスはサクマ製菓から今後も販売されます。くれぐれも「赤缶」と間違えて、「緑缶」を買い占めないようにしてくださいね。清太から「節子、ちゃうで。それはサクマ製菓のサクマドロップスや!」と言われてしまいますよ。
佐久間製菓、廃業の背景は
では、佐久間製菓の廃業について、少し考察してみます。東京商工リサーチの報道によれば、佐久間製菓としては新型コロナウイルスの影響による販売減、原材料やエネルギー価格の高騰、人員確保の問題などを廃業の理由に挙げていますが、それ以外にこの記事では、安価製品との競合やヒット商品に恵まれなかったことも記されています。筆者としては、後者の理由のほうが大きいのではないかと思います。今回、執筆にあたって、自宅や勤務先近辺のスーパー、コンビニ、ドラッグストア、100均を巡ってみましたが、ほとんどの店舗はカンロ、扇雀飴本舗、UHA味覚糖などの製品で占められており、佐久間製菓製品を置いていた店舗は2店のみでした。
これらの3社も製飴メーカーとしては老舗ですが、カンロやUHA味覚糖などは、昔ながらの定番商品だけでなく、新製品の数が多いことに気づきました。定番品も大事ですが、来店者数を増やしたいスーパーやコンビニとしてはアイキャッチとなる新製品も求めているわけで、東京商工リサーチの記事のとおり、そのニーズに応えられなかったことがシェアを伸ばせなかった理由ではないでしょうか。
商品サイクルが非常に短くなっている製菓業界、定番品だけでは生き残ることができないことを痛感したのが、今回の佐久間製菓廃業のニュースでした。
前述の通り『サクマ式ドロップス』の商標はサクマ製菓との共同所有であること、八王子の工場は医薬品製造ラインがあることから考えますと、法人としての佐久間製菓は消滅しても、サクマ式ドロップスや長年培った医薬品製造技術は引き継がれ、消滅しないのではないでしょうか。
>こんな缶のドロップスもありました!佐久間製菓とサクマ製菓の商品を紹介します!
<参考>
佐久間製菓
サクマ製菓
東京商工リサーチ:赤色の缶の『サクマ式ドロップス』で知られる佐久間製菓(株)が廃業へ、原材料高騰が影響(2022年11月9日)