既婚であることを10年も知らずにいたことに驚きの声が上がっているが、携帯電話が出まわるようになってから、そういうケースは珍しくなくなっている。櫻井氏本人がプライベートを明かさなかったのは、結婚と不倫を両立させるための術だったのだろうか。
既婚だと知らずに5年
同じように相手が既婚だと知らずにつきあっていたというのは、サリナさん(37歳)だ。「出会いが偶然だったので、もともと共通の知り合いがいなかった。私の場合は、そこがネックだったのかもしれません」
出会いは6年前。映画館での「ナンパ」だった。どうしても観たかった映画が上映最終日だったので、仕事帰りにひとりで観に行った。終了後、感動のあまり、なかなか立ち上がれずにいたのだが、やっと立ち上がったとき数列先にいた男性が何気なく振り返り、目が合った。
「もうほとんど人がいなくなった館内から私が先に出ると、彼が後ろから『いい映画でしたね』と話しかけてきた。思わず『ええ。ギリギリだったけど来てよかった』と言ったら、『僕も無理矢理仕事を切り上げて来たんです』って。同じですと言ったら、『いきなりで申し訳ないけど、軽く一杯やりながらこの映画の話をしませんか』と」
サリナさんも、誰かと感動を共有したかったので近くの居酒屋へと赴いた。彼は同世代、学生時代は映画研究会に入っていたと聞き、彼女は「私も」とうれしくなった。大学は違うが、おそらく同じ時期に同じ映画を観ていたはずと意気投合した。
「楽しかったですね。好きな映画は違っていたけど、それぞれの映画への思い入れがわかりあえる。就職してから、なかなかそういう相手に巡り会っていなかったので久々に映画愛を語り合えて満足でした」
帰り際、彼は「また会いたい」と言った。サリナさんはうなずいて携帯電話の連絡先を交換した。
会社に電話はかけない……
あとで気づいたら名刺交換はしていなかった。彼が勤めている会社の名前は聞いたが、携帯電話の番号とLINEやメールアドレスを聞いていれば、連絡をとるには何の問題もない。「それからも彼とは定期的に会っていました。私がひとり暮らしだったので、彼が私の部屋に来るようにもなった。彼は『僕は弟と一緒に暮らしている』と言ってましたね。私も家には固定電話がないし、彼もないと言ってた。でも毎日、LINEで連絡をとりあっていたから疑念の持ちようがありませんでした」
彼はときどき出張することもあり、必ずお土産を買ってきてくれる。伊勢志摩方面に行ったときは素敵な本真珠のネックレスをもらった。彼女の誕生石が真珠だったからだ。
「出会ったとき、私は31歳。特に結婚願望が強かったわけではないけど、つきあいが長くなってくると、このままでいいのかなと思うこともありました。3年たったころ、『この先、どうする?私たち』と言ってみたんです。すると彼は『一緒になりたい。ただ、今、社会人だった弟が、やはり研究者になりたいと大学院に入ったところなんだ。だからもう少しだけ弟に寄り添ってやりたくて』と。いいお兄さんなんだなあと感激して、『じゃあ、いつか一緒になろうね』と」
ときには週末、彼が泊まっていくこともあったし、週末、一泊で旅行をしたこともある。彼女は何も疑っていなかった。いつも愛されていると充足していたのだ。
ところが5年たったころ、ふたりで食事をしていると、「おにいさん」という声がした。振り返った彼の顔がみるみるうちに青ざめて目がうつろになったのをサリナさんは見逃さなかった。
「30代前半くらいの女性が私たちのテーブルに近寄ってきて、『おにいさん、お久しぶり』と。彼は慌てて立ち上がって彼女を向こうに連れていこうとした。それを遮って、その女性が『こんばんは。この方、私の義理の兄なんです。この人の妻が私の姉ってこと』と私に言ったんです。彼はそのまま彼女と少し席を外しました。私は事情がよくつかめず、彼が戻ってきたときも呆然としていたと思います」
どういうことなのと尋ねた彼女に、彼は涙目になりながら「ごめん」とつぶやいた。
「10年前に結婚していた、ひとり娘もいる、と。妻も仕事をしていて、妻の母親が同居しているから自分は比較的、自由に過ごすことができた。私にはどうしても結婚していることを言えなかったって」
このままいつまで黙っているつもりだったのかと聞いたが、返答はなかった。彼が返事をする前に彼女が席を立っていたのかもしれないが、あのときの前後の記憶があいまいだと彼女は言った。それだけショックが大きかったのだろう。
「もちろん別れました。義妹に会ったというからには、おそらく彼の妻にも、彼が私と会っていたことは伝わっているでしょうね。でもそれだけでは不倫の証拠にはならないから、ごまかせたんじゃないでしょうか。私はショックがひどくて、その後、半年くらいは荒れた生活を送っていたけど、あんな男に人生を狂わされてたまるかと今は思っています」
とはいえ、精神的には揺れることもあるという。あっさり別れずに復讐してやればよかったとか、どうして彼の友だちに会わせてもらわなかったんだろう、そうすればもっと早くわかったかもしれないのにとか、後悔ばかりしている時期もあったそうだ。
「ようやく少しずつ立ち直ってきました。あれもひとつの恋愛だったと笑い飛ばせる日が来るよう、がんばっていこうと思えるようになった」
今の時代、相手の家に行ったり友人に会ったりしない限り、なかなか既婚かどうかは見抜けない。こういう事態は少なくないのだ。