娘が見つけた画像に言葉を失った
「夫はあまりスマホに執着がないのか、帰宅するとテーブルに置きっぱなし。そのスマホを8歳になる娘は興味津々で、よく覗いていたんです。仕事でも当然使っているんでしょうから、私は『娘がいたずらして何かあると困るから、テーブルには置かないほうがいいよ』と言っていました。夫もそうだよねと帰宅して着替えるとジャージのポケットに入れていたようです。でも先日、うっかりテーブルにまた置いてしまったようで」そのスマホを娘が見てしまったというのは、シノブさん(40歳)だ。8歳の娘と4歳の息子を育てながら共働きをしている。
「夫はちょうどお風呂に入っていたんですよ。娘が『ママー』と夫のスマホを持ってきた。見ないの、いたずらしないのと注意すると同時に、目が釘付けになりました。だって、夫と女性との結婚式写真があったから」
思わず娘からスマホを取り上げ、拡大して見たが、男性はどう見ても夫、そして隣でウェディングドレスを着て微笑んでいるのは、どこかで見たことがあるような若い女性だった。
「ちょっと頭がこんがらがりました。夫は役者でもモデルでもないよね、と自分に確認したりして(笑)。本当に驚くと、人間って発想が飛びますね」
ママ?と小首を傾げて見上げる娘に、「これはパパがお芝居しているところ」とワケのわからない説明をして、その話を切り上げた。娘は執着なく、テレビの前に座り込んだという。
シノブさんは、バスルームから戻ってきた夫に、いきなりスマホをつきつけた。
「夫は、なんだよと言いながら画面を見て、『わっ』と言ったまま黙ってしまったんです。その無言が気持ち悪かった。言い訳を考えているんだろうなと思えて」
だがちょうど食事前。「あとでね。それまでに言い訳考えておいて」と言って、シノブさんはすぐに食事にした。
言い逃れができない夫
当然のことながら、その日の夜、夫婦の寝室ではシノブさんが夫を問い詰めることに。「宴会の余興とかなんとか、適当なことを言うと思っていたんです。そうしたら夫は思いのほか真剣な顔で、『どうしても結婚式の写真を撮ってほしいというから応じた』と。どういう経緯なのか訪ねると、『彼女は勤務先に来ている派遣社員なんだけど、田舎のお父さんが重病で、娘の結婚だけを願っている。だから撮ってほしいと言われて』と言うんです。しかもなんだかしどろもどろになりながら」
他に若い男性がいるだろうに、どうしてあなたなのと尋ねると、さすがに結婚式の写真を撮るのはみんな躊躇したとか。
「彼女のお父さんはその写真を見て喜んでいたそうです。でもそんな嘘をつくのがよかったのかどうかわかりませんよね。ただ、夫としてはしかたがなかった、と。それだけですめばよかったんですが」
夫いわく、「結婚式の写真を撮ったのだから、私のこと嫌いじゃないですよね」とその女性に迫られているのだとか。
「もうね……バッカじゃないのと言いましたよ。もともとお父さんの一件だって、本当かどうかわからないんじゃないのと思わずつぶやいてしまいました。すると『そんな、嘘つくタイプじゃないと思うけど』って。いや、嘘つくために頼まれたんでしょとツッコむしかなかった」
しかもその彼女、他の派遣社員にその写真を見せたため、社内では夫が不倫しているのではという噂にまでなっているという。上司に説明、派遣社員の言い分も聞いて解決はしたのだが、派遣の彼女はときおり夫にすり寄ってくるような態度を平気でとるそう。
「とはいえ、怒るほどのことでもないし、なるべく無視しているけど気が重いって夫が言うんです。軽率ですよねえ。いざとなったら、会社の弁護士立ち会いで一筆書いてもらうからと言っていましたが、やってきたばかりでよく知らない女性を信用しすぎじゃないでしょうか。あなたみたいな人はすぐハニートラップにひっかかるよねと言ったら、夫はムスッと不機嫌になってしまいました」
妻の言い分は当たっているのかもしれない。夫自身もそう思っているのではないだろうか。
「家族がいるんだから、妙なことに巻き込まれないでよねと言って一応すませたけど、私としてはなんだか複雑。というのも、その彼女、昔、夫が好きだった女性に似ていたから」
つきあっているころ、デート中に前カノに遭遇したことがあるそうだ。前カノの記憶は強烈に残っているので、写真を見たとき、シノブさんは前カノかと一瞬思ったそう。そんな経緯があるならよけい心中複雑だろう。
夫がどこかしどろもどろだったのは、「夫も前カノに似ているとわかっているからだと思う」とシノブさん。この一件、これからも火種になりそうだと彼女は少し沈んだ表情になった。