「ステータス」を細々と変更する人たちもいる。 そもそもステータスとは「社会的身分、地位」のことなのだが、今やSNSの世界ではプライベートなプロフィールと同義語に近い。引っ越したとか再婚したとか、恋人と別れたとか、芸能人なら話題作りも必要だろうが、一般の人の中にもそうしたプライベートな「身分変更」を流さないと気がすまない人がいる。
正確に自分を知ってもらいたい
「有名人であるかどうかは関係ないんですよね。私のことをみんなに知ってもらいたいし、何かあったとき幅広い意見を聞きたい。だから私も自分の恋愛関係はけっこう頻繁に書き込んでいます」ヒロミさん(33歳)はそう言う。実際の友人以外に、SNSでの知り合いが多い彼女は、自分がどういう人間であるかを正確に知ってもらいたいというのだ。
「SNSを始めたばかりのころ、つきあっている人とケンカして、その内容を書いたことがあるんです。私と彼、どちらが正しいのか、と。けっこう多くの人たちが私が正しい、彼に言いくるめられずにがんばってと書いてくれた。それがうれしかったんですよね。自分の正しさが証明できたような気がして。そこから彼と別れた、新しい彼ができた、そういうことも書いています」
リアルな友人からはたまに批判されることもある。そんなにプライベートなことを明かすなんて「かまってほしいだけじゃないの?」と。それについてもヒロミさんは否定はしない。
「かまってほしいのは確か(笑)。私、あまり親から褒められたことがないんです。何をしても1歳違いの姉と比べられて『あんたはダメね』と言われ続けてきた。姉は20代で実業家と結婚して裕福な専業主婦生活を送っています。私は、たいして給料が高くない企業で必死に働いている。でもSNSには私を見ていてくれる人がいる。彼と別れて、新しい恋人ができたときも、SNSでは『おめでとう、がんばって』と言ってくれる人がいた。それは私の生きる力でもあるんです」
SNSをどう使おうがその人の自由である。他人を誹謗中傷しない限り、自分のアカウントでなにをつぶやこうがかまわない。賛同する人もしない人もいるだろうが、少なくとも自分の世界を作り上げることはできる。
「かまってちゃんでもいいんです。私は『いいね』と言ってもらいたい」
ヒロミさんは、ある意味で自分が生きている証をSNSに求めているのかもしれない。
誰かに支えられている実感がある
「結婚して数年たったとき、夫の嫌味に傷ついて、初めてSNSに書き込みをしました。熱を出して寝込んでいるのに夫は何もしてくれない。それどころか『メシくらい作ってくれよ』とも言われた。これっておかしくないですかと書いたこともあります。たくさんの反響がありました。『それはDVですよ』と教えてくれた人もいた。DVは身体的暴力についていうのだと思い込んでいたので、目から鱗で……。そこからDVについて勉強し、日々、備忘録のように夫の言葉を書いていったんです。身バレに気をつけてと注意してくれる人もいました」ミエコさん(35歳)のSNSは、最初は備忘録だったが、それが身の上相談になり、さらにはDV夫と離婚したルポになっていたという。離婚したいと思ってから、実際に離婚するまで3年ほどかかり、その間、折に触れて書き込んでいた。
「いろいろな人が応援してくれた。それがうれしかったですね。離婚して夫の姓を捨て、元の姓に戻ったときホッとしました。当時3歳の子どもがいたので、今のうちなら姓が変わっても大きな影響はないだろうとも思ったし。そういうことを書くと、いちいちそうだね、大丈夫だよと言ってくれる人がいた」
その数年後、ミエコさんは再婚。そのときもSNSで発表した。周りからは「いちいちそんなことを書かなくても」と言われたが、離婚のとき応援してくれた人に報告したかったのだ。だが、再婚に関しては応援してくれる人ばかりではなかった。
「子どもに悪影響がなければいいけど、と憂慮している人が多かった。それは私もじっくり考えた上で決めたこと。ただ、SNSはいつでも応援されるわけではないということも学びました。人の不幸にはやさしいけど、幸せになると急に冷たくなる人もいるんだ、と」
しょせん、他人だから面白半分に見ているだけなのだと実感することも多い。ただ、どんなときもやさしい言葉をかけてくれる人がいるのも事実。
「一般人だから、プライバシーを切り売りしているわけではありません。それでも私がちょっとうれしいと思ったこと、ハッピーだなと感じたことを書いて、それに賛同してくれる人がいると認められた気持ちになるのは確かです。職場にしろ近所にしろ、人間関係があまり濃くないところで暮らしているので、ゆるくつながることができるSNSはたぶん私にちょうどいいんだと思う」
リアルでお節介は焼かれたくないが、SNSではお互いに認め合い、癒やし合いたい。そんな気持ちが働くのかもしれない。
他人にとっては「どうでもいい」ような投稿であっても、その言葉に反応する人はいる。自分と同じような感性をもっている人と、「ゆるく」つながりたい。その気持ちは誰もが理解できるのではないだろうか。