認知症

アルツハイマー病と脳血管障害の合併も…混合型認知症の症状・看護

【大学教授・認知症専門家が解説】認知症の原因と種類はさまざまで、行うべき処置や適切な治療法も異なりますが、「混合型認知症」で、複数の病気が関係することもあります。特に多いのは「脳血管性認知症」と「アルツハイマー型認知症」の合併ですが、レビー小体型やアルツハイマー型と前頭側頭型の合併例も知られています。病型が変わることもあるため、変化に気を配りながら、定期的な診療とケアを行うことが大切です。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

認知症の原因と種類はさまざま……まず重要なのは正しい鑑別

認知症の鑑別と経過観察

認知症の原因は様々で、複数の病気が合併していることもあります。正しい鑑別と、変化に気を配ることが重要です

意外と知られていないようですが、「認知症」と言っても、その原因は様々です。認知症は、脳の障害によって、記憶、見当識、判断・実行機能などの知的機能が持続的に低下した状態を指しますが、原因が違えば、行うべき処置や治療法も異なります。

例えば、脳内出血や脳梗塞などの脳卒中の後遺症として生じる「脳血管性認知症」であれば、発症の引き金となる脳卒中が再発しないような治療が行われます。原因不明に脳の神経細胞が変性・脱落するアルツハイマー病によって発症する「アルツハイマー型認知症」であれば、記憶・認知力を高める効果のある薬を用いて、症状の進行を抑制するような治療が行われます。適切な処置を選択しないと、かえって症状が悪化することもあるので、何が原因で認知症症状が出ているのかを鑑別することはとても重要です。

また、認知症の症状は、「中核症状」と「周辺症状」に分けられます。中核症状は、認知症そのものですので、病型によってあまり差はありませんが、認知症とは直接関係のない周辺症状は病型によってかなり異なります。例えば、レビー小体病に伴って生じる「レビー小体型認知症」では「幻視」がよく生じ、「虫が動き回っている」「知らない人がいる」などと大騒ぎすることも少なくありません。前頭側頭葉変性症に伴って生じる「前頭側頭型認知症」では、本能的な欲求や感情のコントロールがきかなくなり、暴力をふるったり、反社会的な行動に及んで周囲に迷惑をかけることもあります。このようなケースに対して、比較的周辺症状が少ないアルツハイマー型と同じ対応は通用しません。したがって、患者ごとに適切なケアを行うためにも、認知症の病型分類は重要なのです。
 

混合型認知症とは……複数の病気が関係する認知症

認知症は、一つの病気が原因で起こるとは限りません。とくに高齢になると、一人でいくつもの病気を患うことは珍しくありませんから、複数の病気が関係して認知症を発症する人は相当いると思われます。そのようなケースを一般に「混合型認知症」と呼びます。

しかし、現実には、「あなたは混合型認知症です」と診断を受ける認知症患者はほとんどいません。なぜでしょうか。理由は2つあります。

第一に、診断結果に応じて治療やケアの方針が決められるため、医師が診断していくつかの原因が考えられ迷ったとしても、最終的には一つの診断名に絞り込むことを求められているからです。本当に「混合型」だったとしても、その通りに言う医師はほとんどいないと思います。

第二に、認知症の診断技術が十分に確立されていないことも関係しています。例えば、脳梗塞を発症し、その後遺症として認知症が出た場合は「脳血管性認知症」と診断されますが、本当に脳梗塞だけが原因とは限りません。もともとその患者は、はっきりと認知機能障害が出るほどではないけれどアルツハイマー型の脳病変が起きていたかもしれませんが、脳梗塞を起こして認知症が出たという情報しかなければ、「脳梗塞に伴う認知症」としか判断されません。潜在的にアルツハイマー病があることを症状だけから読み取ることは極めて困難です。患者が亡くなった後に解剖して脳を調べ、特徴的な脳病変(老人斑や神経原線維変化)が見つかれば、アルツハイマー病だったと推定することは可能ですが、その方が存命中にそう確定する診断法はまだ確立されていません。

もし「混合型」なら、一つの治療法だけでは十分な効果が期待できません。より効果的な治療やケアを患者に提供するためには、もっと診断技術が進歩して、医師が「あなたは○○病と○○病を合併した認知症です」といった診断できるようになればよいと思います。
 

混合型認知症の中でも多い、アルツハイマー病と脳血管障害の合併

混合型認知症にもいろいろありますが、最も多いのが、アルツハイマー病と脳血管障害の合併例です。そのパターンは3つ考えられます。

一つめは、2つが独立して併発する場合です。ただし、生活習慣が原因で併発するなど、何らかの因果関係はあるかもしれません。

二つめは、脳血管障害が引き金となり、アルツハイマー病が進行する場合です。たとえば、私たちが飲んだ薬は、胃や腸から吸収されて血流に乗り全身をめぐるうちに、血管からしみ出し、目的の臓器の細胞に到達すれば、期待した効果を発揮することになります。薬が脳に作用するためには、脳の血管を通過しなければならないのですが、とくに脳の血管は壁を作る細胞が強く結合しているため、物質が通りにくくなっています。これは「血液脳関門」(Blood-Brain Barrier; BBB)と呼ばれ、脳を守るしくみの一つと考えられています。しかし、脳血管障害によってBBBが弱くなると、アルツハイマー病の原因物質の一つと考えられている「アミロイドβタンパク(Aβ)」が末梢組織で作られて脳に移行しやすくなります。また、もともとBBBには脳内で作られたAβを排出する役割があるので、BBBが損なわれると、Aβが排出されずに脳内にたまりやすくなります。このようにして、脳血管障害のある患者の脳では、Aβ量が増えて、アルツハイマー病が発症すると考えられます。

三つめは、アルツハイマー病が脳血管障害を引き起こす場合です。アルツハイマー病では脳内Aβ量が増え、その一部が血管に沈着するようになります。専門用語では「脳アミロイドアンギオパチー」(Cerebral amyloid angiopathy; CAA)と呼び、脳出血の原因になることが知られています。軽い血管障害まで含めると、アルツハイマー病の約8割で、何らかの血管障害が合併しているという報告もあるので、アルツハイマー型認知症と診断された場合でも、血管障害の影響を無視できないことになります。
 

認知症の病型は変化することも……定期的な通院によるケアの重要性

認知症は、すぐに命にかかわる病状ではありませんから、長い年月見守ることになります。その中で、主たる病型が変わることは珍しくありません。

以前は、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症はまったく成り立ちが違うと説明されていましたが、臨床研究が進歩して、両病型は近縁の関係にあることがわかってきました。アルツハイマー病の40%で脳血管病変の合併がみられ、脳血管性認知症の40%でアルツハイマー病変を認めることが報告されています。当初アルツハイマー型と診断されていた患者が、脳卒中を起こして脳血管性認知症に移行することもあります。逆に、脳卒中後に片麻痺などの運動障害を生じたことから脳血管性認知症と診断された患者が、後にアルツハイマー型の病変を示すこともあります。混合型認知症の中には、レビー小体型と前頭側頭型の合併例、アルツハイマー型とレビー小体型の合併例なども知られています。

そのような患者さんに対しては、一度診断された病名があったとしても年月とともに変わりうることを意識して、その時々に応じた最善の治療とケアを行うことが必要です。

とくにアルツハイマー型は徐々に進行し変化が少ないので、放置されがちです。通院が大変という方にとっては、認知症の薬をまとめて数か月分も出してくれる医師をありがたいと感じるかもしれませんが、実はそのような対応はよくありません。そもそも医師が薬を長くても2週間くらいしか出さないのは、2週間毎に通院してもらい、患者さんの症状に変化がないか、薬の効き具合や副作用がでていないかなどをチェックするためです。認知症の病型が変わることもあると認識し、患者の変化に気を配りながら、定期的に専門家のアドバイスを受けて、最善の対応ができるといいでしょう。
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