食生活・栄養知識

大根の辛み成分の役割と健康効果・辛味を調整する方法

【大学教授が解説】大根の辛味成分には、健康効果や抗菌作用があります。この辛み成分は、大根の若さや部位、品種によっても含量が異なりますが、調理法によっても調整することが可能です。大根の辛味の原理と、食卓でも使える辛味を調節する大根の選び方・調理法のコツをご紹介します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

大根の辛味は消さない方がいい? 健康効果・抗菌作用

大根の辛味の調整法

大根のピリッとした辛み成分の効果と役割は? 大根の選び方や調理法で辛味を調整することもできます


大根には独特な辛味があります。特にお子さんの場合は、この辛味が原因で大根が苦手になってしまうことも多いようです。ほとんど食の好き嫌いがない私でも、子供のころは、大根おろしや刺身のつまとして添えられた大根の千切りなどのピリッとした辛味が苦手でした。しかし、不思議なことに、大人になってからは辛い大根の方がおいしいと思うようになり、辛味がないと物足りない感じさえします。

実は、大根に含まれる辛味成分には、重要な役割があります。健康効果や抗菌作用などが報告されています。苦手な人のために、辛味を除く工夫をして調理することがありますが、食べる前に辛味成分を失わせてしまうということは、その効用を捨てることにもなります。したがって、辛味を残して食べたほうが本当はいいのです。

今回は、大根の辛味成分の正体と役割、大根の部位や品種によっての違いをわかりやすく解説します。
 

大根の主な辛味成分はイソチオシアネートの一種

大根は、アブラナ科の植物です。アブラナ科に分類される植物は他に、キャベツ、白菜、ブロッコリー、クレソン、カブ、そしてワサビなどがあります。強弱の違いはありますが、みんな辛味をもっています。そして、それに共通した成分は「イソチオシアネート」という化合物群です。

「イソチオシアネート」という呼び名は特定の化合物をさすのではなく、-N=C=S という構造を持つ化合物の総称です。大根の中には、数種類の異なるイソチオシアネートが含まれていますが、そのうち主要なものが「4-メチルチオ-3-ブテニルイソチオシアネート(以下、4MTB-ITCと略記します)」です。参考までに、その化学構造を下図に示しておきます。
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大根の辛味成分が作られる化学反応

ちなみに、大根の辛み成分は、わさびと同じ「アリルチオシアネート」と解説した情報も出回っているようですが、これは正しくありません。4MTB-ITCとは別ものです。アブラナ科の野菜は、それぞれが少しずつ化学構造の違うイソチオシアネートを発生させて、固有の辛みを生じています。

インターネットや雑誌で科学記事は手軽に読むことができますが、中にはこのように間違った情報が一般化していることもありますので、正しい情報を知りたいときは、実際にその分野の研究を行っている専門家の方が書かれた原著論文などをしっかりと読むことが大切です。大根の辛み成分についての詳細は以下の論文に詳しく書かれています。J. Japan Association on Odor Environment Vol. 44 No. 5, 307-314, 2013
 

大根が辛味成分を持っているのは、虫や細菌から身を守るため

大根をはじめとするアブラナ科の野菜は、なぜ辛味成分を含んでいるのでしょうか。それは「外敵である虫や細菌から身を守るため」だろうと考えられています。ただし、辛味成分が強く作用しすぎると自分自身も傷つけてしまうことがあるので、常にもっていることはできません。そこで、アブラナ科の野菜は、必要な時だけ辛味成分を発生させる特別な仕組みを用意しました。

その仕組みは植物種ごとに微妙に違うのですが、大根の場合は、細胞内の別の場所に、辛味成分の元になる「グルコシノレート」と、それを分解する酵素「ミロシナーゼ」をもっています。ちなみに、グルコシノレートという名前は、辛味成分に糖が結合した形の化合物の総称で、200種類以上が発見・報告されています。大根の辛味成分4MTB-ITCの元になるグルコシノレートは、「グルコラファサチン(4-メチルチオ-3-ブテニルグルコシノレート、4MTB-GSL)」というもので、大根細胞の液胞中に存在しています。一方のミロシナーゼ(別名:β-チオグルコシダーゼ)は、グルコシノレートのグリコシド結合を加水分解し、糖と硫酸基を切り離すことでイソチオシアネートを作り出す酵素で、大根細胞内の細胞質中に存在しています。

普段は、同じ細胞内でもグルコシノレートとミロシナーゼが出会うことはないのですが、組織や細胞が物理的な損傷を受けると、これらが混じり合い、ミロシナーゼの酵素反応によりグルコシノレートが速やかに分解されて、辛味成分が発生するのです。この化学反応は、上に示した図中にも載せておきましたので、参考にしてください。

さらに補足しておくと、この仕組みの中で、ビタミンC(アスコルビン酸)も重要な役割を果たしています。大根細胞内の液胞中には、ミロシナーゼとともに高濃度のビタミンCが含まれていて、ミロシナーゼが働かないように抑えています。しかし、細胞が壊れると、ビタミンCが漏れ出して周囲に拡散し、ビタミンCの濃度が下がることで、ミロシナーゼに対するブレーキが外れ、辛味成分を作り出す反応が一気に進むことになります。つまり、ビタミンCは、辛味成分を作り出す反応を調節する役割を果たしているのです。

最終的に生成された辛味成分は、害虫に対する「忌避物質」として作用することで、大根が自分の身を守る防御物質として役立っているようです。
 

大根の辛味がもつ抗菌作用

「外敵である虫や細菌から身を守るため」に、大根自身が作り出す辛味成分は、私たちが食として利用するときにも役立つ可能性があります。
 
食中毒を完全に防げるほどではありませんが、大根の辛味成分である4MTB-ITCに抗菌活性があることは様々な試験によって確認されています。ただし、そのメカニズムについては、イソチアネート(-N=C=S)の構造が化学反応性に富むことが関係していると推定されているものの、詳細は不明です。
 
焼き魚や天ぷらに大根おろしを添えて食べることが多いですが、これには、口の中をサッパリさせる、消化吸収を助けるなどに加え、殺菌効果が期待されるためとも考えられます。
 
抗がん作用があるという報告もありますが、大根を食べていればがんを防げるというほどの効果ではないと思われますので、詳しい解説は割愛します。
 
ちなみに、大根を煮込んだ場合には、熱によって酵素(ミロシナーゼ)が失活してしまうので、辛味成分はできません。おでんなどの大根が辛くないのはこのためです。辛味成分の効能を期待するならば、生で食べる必要があります。
 

大根の辛味成分に差があるワケ……いろいろな要素で変わる含量

大根の辛さは、結局のところ、辛味成分である4MTB-ITCの量で決まるわけですが、その含量はいろいろな要素で違ってきます。
 
まず、4MTB-ITCの元になるグルコシノレートは、若い大根ほど多く含んでいて、成長するにしたがって減っていきます。
 
また、同じ大根でも部位によって、4MTB-ITCの元になるグルコシノレートの量が違います。大根の先端に近づくほど多く、先端部分での量は、葉に近い部位の約10倍にもなります。その理由は諸説ありますが、先端部分がどんどん地中を深く掘り進んでいくことで大根は成長するわけですから、その大切な先端部分が虫などに食われたりしないように守るために、先端部分に辛味成分の元を多く含んでいるのではないかーという説が有力です。
 

品種で異なる大根の辛み成分……辛味大根・青首大根などの選び方

大根の品種によっても、辛さが異なります。
 
「辛味大根」をご存知でしょうか。一般的にスーパーで売られている「青首大根」よりも辛味が強いので、そう呼ばれています。具体的な品種としては、「ねずみ大根」、「親田辛味大根」、「からいね大根」、「辛吉大根」、「雪美人大根」などがあり、青首大根に比べて短く、カブのような丸っこい形のものもあります。色も、白だけでなく、赤いものや青いものなど様々です。

蕎麦やうどんの薬味として大根おろしを添えるときに、水分が多いと、つゆが薄まってしまいますし、せっかく薬味として使うのだからちゃんと辛味がほしいですよね。辛味大根は、辛味の元となるグルコシノレートを多く含んでいるうえ、比較的水分量が少ないのが特徴です。なので、辛味大根は、大根おろしにして、蕎麦やうどんにたっぷりかけて食べるのに好適と言えます。「大根おろし専用」として売っているお店もあるそうです。
 

同じ生の大根でも辛味は変わる……辛味を調整する調理法

ここまでの説明で、私があえて「辛味の元になるグルコシノレートの量が違う」という表現をしてきたのには理由があります。グルコシノレートそのものは辛くありません。大根の細胞が壊れたときにミロシナーゼという酵素の働きで化学反応が起こり、辛味の本体となる4MTB-ITCが作られないと辛味は生じません。つまり、本当の辛みは、最終的にはどう調理するかで決まるということです。先に説明したように、大根を煮込んでしまうと辛味は生じません。辛味が欲しいときは生で食べる必要がありますが、その場合でも扱い方で辛味はかなり変わります。

たとえば、大根をサラダとして食べたいときに、繊維に沿って千切りにすると、あまり細胞が壊れませんから、辛くなりません。辛味を求めるならば、おろし金を使って、しっかりとすりおろすのが一番です。おろすときも、繊維に沿って粗くおろすよりも、繊維を断ち切るようにゆっくりと丁寧におろした方が細胞がしっかりと壊れて、辛味成分がたくさん発生します。

また、化学反応が起こるには多少時間がかかりますから、大根をおろしてすぐよりも、ほんの少し間をおいてから食べた方がしっかり辛さを味わえます。ただし、4MTB-ITCには揮発性があるため、あまり時間をおきすぎると、空気中に飛んでしまって無くなるので、注意してください。逆に、大根の辛さを和らげたいと思うならば、大根おろしを作ってから時間をおいて食べるといいでしょう。

さらに、4MTB-ITCは、水に溶けますので、大根を切ってから水にさらすと、ほとんど辛味はなくなります。スーパーで売られている刺身のツマとして添えられている大根の千切りはほとんど辛くありませんが、これは、繊維に沿って千切りされたものが水にさらされ、しかも時間がたっているためでしょう。
 

大根の辛みの原理を理解して、辛味を調節するポイント

大根の辛味は、「ありすぎると嫌だけど、ないと寂しい」という微妙な位置づけにありますが、上で説明した内容をしっかり理解しておけば、うまく調節できますので、まとめておきます。

■大根に辛味を求めるとき
  • 青首大根より辛味大根を選ぶ
  • 若い大根の先端の方を利用する
  • 繊維を断ち切る方向でゆっくりとすりおろす
  • おろしたら少しおいて(ただし時間が経ちすぎないように注意)辛味が増してから食べる

■大根の辛味を減らしたいとき
  • 大根おろしにするときは、太く成長した青首大根の葉に近い側を利用し、粗くすばやくおろす
  • おろしたものをしばらく置いておき、水分を絞り出して捨てる
  • 千切りするときは、繊維方向に沿って切り、水にさらす
  • 加熱する
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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