食生活・栄養知識

「無添加」表示の規制が厳格化…無添加食品の真実とリスク

【薬学博士・大学教授が解説】「無添加」と書かれた食品は体にいいと思っていませんか? 味噌や醤油、離乳食などさまざまな製品があるようですが、実は無添加表示にはこれまで基準や決まりがなかったため、何が無添加かという肝心の情報が書かれていない製品も少なくありません。上手に安全な食品を選ぶための考え方を解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

「無添加」表示に意味はあるのか? 健康ブームと食品の安全性

無添加製品は体にいいのか

食品売り場でもよく見られる「無添加」表示。健康に良いものを選びたいとき、どの程度参考にするのがよいのでしょうか

みなさんは、手に取った食品に「無添加」と表示されていたら、何を思いますか? 「体に悪い影響のある添加物が含まれていない」と捉える方が多いのではないでしょうか。結論から言うと、その考えは今すぐ捨てましょう。大きな誤解をしています。
 
実は、厚生労働省は「無添加である旨の表示については、製造業者等の任意の表示ではありますが、消費者が誤認を生ずることのない表示が求められています」と述べていただけで、「無添加」の表示に明確な基準や義務は設けていませんでした。そのため、すべての商品がそうではないかもしれませんが、「無添加」という表示は実は何かの食品成分を保証するものではなく、ただの印象操作のために使われていたケースが少なくありませんでした。そこで、「無添加は健康で安全」というイメージが独り歩きしてしまうことを懸念した消費者庁は、この夏、「無添加」表示の規制を厳格化する措置をとりました。

これまでの「無添加」表示の何が問題だったのかを解説します。
 

味噌・醤油・離乳食などの無添加製品……まずは成分表示をチェック!

「無添加」というキーワードにして検索をしてみると、多くの関連商品が見つかります。私が調べたところでは、味噌やだしなどが多いようで、離乳食やベビーフードなども並びます。人工調味料などが加えられた商品よりも、自然素材だけで作ったものの方が、安全かつおいしいものというイメージがあるため、それをPRしているのでしょう。
 
自分の目で商品を確かめてみようと思い、実際にスーパーでいくつかの商品を手に取ってみました。たとえば、ある味噌のパッケージには大きく「無添加」とだけ書かれてあり、中身がよく分かりません。側面の成分表示を見ると、
・原材料:米(国産)、有機大豆、食塩
と書かれていました。確かに、自然素材だけを使った昔ながらのお味噌で、食してみたくなりました。しかし、よく考えてみると、食塩を「添加」して製造したわけだから、食塩も添加物ではないのでしょうか。しかもどんな食塩か分かりません。無添加をうたう商品に添加されている食塩は、「天日塩」といって、海水から水分を蒸発させて塩を結晶させて作られたものを使用しているケースが多いようですが、そうした自然塩には、主成分である塩化ナトリウム以外にも、不純物がたくさん混じっています。余計なものが何も入っていないとは言えないのではないでしょうか。
 
別の味噌を手に取ってみると、「無添加」の隣に、「無加熱、無殺菌」とまで書かれていました。一切何も手を加えていない、完全な自然食品とアピールしたいのかもしれませんが、そもそも味噌は自然にできるものではなく、人間が手を加えて製造するものです。その過程で菌が混入する可能性もあります。なのに、何の処理も施さずに提供していいのだろうか、かえって危険性はないのか、という疑問も湧いてきます。
 
また、近くに売られていた、「無添加」のふりかけも手に取ってみました。とてもおいしそうでそのまま買いたくなりましたが、心を鬼にしてパッケージ裏の表示を見てみると、
・原材料:調味顆粒(国内製造(乳糖、鰯煮干粉末、食塩、砂糖、鰹節エキス粉末、酵母エキス、蛋白加水分解物、醤油))、いりごま、味付しらす(しらす、食塩、醤油)、味付鰹削り節(鰹削り節、砂糖、醤油、食塩、その他)、味付ごま(いりごま、砂糖、食塩、抹茶、蛋白加水分解物、酵母エキス)、のり、(一部に小麦・乳成分・ごま・大豆を含む)
のように書かれていました。無添加をPRしているのに、ずいぶんと色々なものが入っている印象もあります。帰宅後に詳細を調べてみると、食品添加物の化学調味料、着色料、酸化防止剤を一切使わず、素材本来の味を追求した商品のようでした。しかし、細かいようですが、製造過程で使用される食塩、砂糖、醤油、エキス粉末などの品質は不明なので、本当に食品添加物が一切混入していないとも言い切れません。しかも、「その他」の文字も気になります。一体何を使っているのかは本当のところはわかりません。
 
重ねて申し上げておきますと、私はこうした商品自体が悪いと言いたいわけではありません。問題なのは、「無添加」という文字を見ただけで「いいもの」と短絡的に解釈してしまう、私たち消費者の「無知さ」です。改めて「無添加」の文字が何を意味するのか、その表示の何が問題なのかを押さえておきましょう。
 

無添加表示の問題点1. 何が無添加なのかわからないものが多い

さきほどのスーパーで私が見た商品のうち、あるトマトジュース缶に「食塩無添加」と書かれていました。このような場合は、「食塩が添加されていない」とわかります。しかし、多くの無添加商品では、単に「無添加」としか書かれていません。成分表示を見ても、何を指して無添加と言っているのかわからないものもあります。

つまり、「無添加」の3文字は、中身を説明しているとは限らず、ただのキャッチコピーとしての役割を果たしているだけなのです。それを見た消費者が詳細はわからないけれど勝手に「いいもの」と解釈して買ってくれるだろうという販売者のねらいがあるのかもしれません。
 

無添加表示の問題点2. 「無添加」表示に基準や決まりがなかった

「食塩無添加」と書かれていれば、「塩分を控えられるから安心」と思うでしょうが、よく考えてみると「食塩以外の食品添加物は入っている」かもしれません。「保存料無添加」と書かれていても、甘味料や着色料が使われている可能性があります。

また、私たちは「無添加=何も添加されていない」と思いがちですが、ある特定のものが加えられていなければ「無添加」になります。つまり、ある一つの成分が無添加だった場合にも「無添加」と書くことができてしまいます。本当は「○○が無添加」と書くべきところを省略しただけーということもあり得るのです。

さらに、人工の化学調味料、着色料、酸化防止剤などを一切使っていないという意味で「無添加」と書いてあったとしても、その代わりに天然の着色料や動植物のエキスなどが加えられているかもしれません。安全性が確認されているものなら大丈夫でしょうが、何か得体の知れない天然素材が添加してある「無添加」商品だったとしたら、その方が何だか気持ち悪く感じるのではないでしょうか。
 

無添加表示の問題点3. 無添加のリスクやデメリットが忘れられがち

前記事「自然食品は体にやさしい?「人工物は有害」という考えが危険なワケ」で解説したように、自然のものにまったく手を加えずに食することほど危険なことはありません。

例えば無添加と書かれたお店の手作りジャムなどもよく見かけますが、長期間にわたり保管しながら楽しむ場合、消費者もそのリスクも知った上で衛生面に気を配らねばなりません。フルーツからジャムを作るときに砂糖を加えて煮詰めるのは、消毒や防腐のためでもあります。清潔にしたビンに詰めて冷蔵庫に保管したとしても、長期間経つとカビが生えて食べられなくなってしまいます。それを防ぐために使われるのが、防腐剤です。事前に安全性が確認された防腐剤などを使うことは、私たちの健康を守るためにも必要なことでもあるのです。

防腐剤に限らず、添加物は、本来は食の安全を確保し私たちの健康を守るために入っている成分であることを忘れてはいけないと思います。
 

無添加表示の問題点4. そもそも何も添加しない加工食品は幻想に近い

生肉や生魚、生野菜などを除き、ほとんどの加工食品の場合、たいてい何かが添加されているはずです。なぜなら、何も添加しないで加工食品を作ることは不可能とも言えるからです。

たとえば、無添加をうたった豆腐があります。大豆を擦り潰し、濾して得られる液体が「豆乳」で、加熱した豆乳に凝固剤を加えて固めた加工食品が豆腐ですから、こうした工程の中で「何も添加していない」ということはないでしょう。

鶏卵にしたって、産み落とした鶏がどのように育てられたか(たとえばエサ)によっては、何も添加されなかったとは言えません。「無農薬」をうたう生野菜でも、農薬以外の何が使われていたのかも重要です。私たちが勝手に期待する「無添加の加工食品」というものは、科学的に考えれば幻想であり、実際にはあり得ないように思います。
 

食品添加物は危険なのか? 正しい知識で安全な食品を選ぶポイント

食品添加物については、とくに第二次世界大戦後に、様々な人工化合物が利用されるようになり、一部で死者が出るなど社会問題となったことがあります。そのような歴史から、人工合成された物質の安全性を疑う風潮が今も続いているのは確かです。

しかし、繰り返し説明しているように、人工だから危険ということはありません。むしろ、天然には存在していなかった化合物が合成され、それを食品添加物として利用する場合には、予め安全性を確かめる十分な試験が実施されなければなりませんので、逆に言えば、使用が認められているものは安全性がある程度保証されているということです。それに対して、天然由来の添加物は、「自然に存在するものから作ったものは安全である」という人間の先入観から安全性を確立しないまま認可されてしまったものもあります。つまり、どちらかと言うと、天然添加物の方が気をつけなければならないことを知っておきましょう。

あわせて、本記事で解説した通り、「無添加」という言葉は、「人工」「合成」を嫌う消費者心理を逆手にとったマーケティング上の言葉とも言え、決して「体に悪いものが何も入っていない」という意味ではないことを心得ておく必要があります。

本当に自分が口にする食品にどんなものが含まれているのかが気になるなら、「無添加」という言葉は無視して、販売者が公開している原材料や栄養成分表示などを丁寧に読むことです。万が一、何も詳しい表示がなく、「無添加」と印字しているだけの商品があったとしたら、それこそ気を付けるべき商品ではないかと考えることも大切です。

また、この夏から始まった消費者庁による規制によって、正しい「無添加」表示がなされるように改善されることを期待しましょう。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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