めんどうな義実家
自宅が妻の実家に近いため、お盆と正月は夫の実家に行くことが暗黙のルールになっていたと言うのは、アヤカさん(40歳)だ。結婚して9年、7歳と4歳の子を共働きで育てている。「ふだんは私の実家が子どものめんどうを見てくれるので、両親も『お盆やお正月はなるべくあちらの実家に行ってあげなさい。孫の顔も見たいだろうから』と言うんです。私は正直言って、最初から夫の実家はあまり好きじゃなくて」
アヤカさんはそう言って肩をすくめて笑った。孫のめんどうは見ても、夫婦の関係にはいっさい口をはさまない自分の親に比べて、夫の両親や親戚は人がいいのはわかるが、土足で踏み込んでくるところがある。
夫曰く「人との距離感が近いんだよ」というが、それが必ずしも親近感を覚える要因にはならないことをわかってくれていない。
「最近では子どもを使って、あれこれ聞き出すんですよね。お父さんとお母さんは仲がいいのか、ふだんは何を食べているのか、あっちのおじいちゃんおばあちゃんは、どんなことを言うのか、などなど。それを聞いてどうするのかと思うんですが、何か気になるんでしょうかね」
実両親とは日常的に会っているが、子どもの教育や夫婦関係にはいっさい口を出さないでと最初から言ってあるし、そういう話をする両親でもない。
「そもそも、それほど遠いわけでもないのにお盆と正月しか来ないというのもおもしろくないんでしょうね。義父母にとって孫はうちの子たちだけ。夫には弟妹がいますが、弟は長く同棲している女性がいるけど結婚はしない、子どももいらないと言っている。妹は学生時代から外国暮らしで、結婚離婚を繰り返して子どもはいない。だからうちの子たちともっと親しくしたいのだと思う。それはわかりますけど、今年のお正月に義実家から帰るなり、上の子が『パパとママはもうひとり子どもがほしいの?』と言い出した。どうやら義父母に入れ知恵されたみたい。聞いてみなさいって。そういうことを言われるのが嫌なんですよね」
なんともいえない嫌悪感を覚えたとアヤカさんは言う。さらには夫の私服のセンスが悪いとか、子どもたちの言葉遣いが大人びていてよろしくないとか。
「めんどくさいと叫びたくなることばかりです」
だからこの夏は帰省をやめた。理由はコロナだ。第7波がおさまるまでは、と夫から言ってもらった。
「おかげでとっても気楽な夏休みを過ごしています」
アヤカさんの声が弾んでいた。
夫と孫だけ帰ってくればいいという義母
帰省したくはないが、「来なくていい」と言われるのもモヤモヤすると言うのは、ナミさん(39歳)だ。結婚して5年、3歳のひとり息子がいる。息子が生まれたとき、「あなたのことは好きじゃないけど、よくやったと言ってあげる」と義母に言われてから、ずっと苦手意識が抜けない。「コロナ禍であまり帰省はしていませんが、この夏はどうしても帰ってこいって言ってると夫が困り果てたように言うので、私も覚悟を決めたんです。そうしたら私に直接、義母から電話がかかってきて、『ナミさんは仕事が忙しいんでしょう? 大丈夫よ、息子と孫だけ来てくれればいいので。あなたもひとりで羽を伸ばしたらいいわ。ね、いい考えでしょ』と言われました。そうですね、そうしましょうと答えたし、確かにホッとしたんですが、来なくていいと言われるのはおもしろくはないですね」
夫に言うと「渡りに船、よかったじゃん」とノーテンキな答えが返ってきた。確かにそうだけど、それでいいのと夫につい絡んでしまった。
「夫には妹がいますが、結婚して遠方にいます。最終的に親をどうするかは私たちにかかってくると思う。私を大事にしておかないとあとが怖いよと夫を少し脅してしまいました」
夫婦の間にはそういう駆け引きも必要だと思うと彼女は言う。夫は少し嫌な顔をしながら、息子を連れて実家へ行った。
「無事に到着したと夫から連絡がありました。その後、義母から『あらあ、あなたも来ればよかったのに』と電話がきたんです。来るなと言っておいてどういう気持ちで、ああいう電話をかけてくるのか……。苦手意識はますます募りますね。最近、義父の体調がいまひとつだと聞いていますが、本当に具合が悪くなったとき泣きつかれても、私は彼らのために動くつもりはありません。そのことを機会を見て夫に言っておかなければと思っていますが、こういうことを言うとそのつど、夫婦間に亀裂が入っていくのがわかる。夫とは仲良くしたいけど義実家は本当に嫌い。どうしたらいいのか」
「嫌い」に込めた力が、彼女の本音を物語っていた。