大学受験

新しい成績評価に疑問の声…大学受験でも「内申点」が重要に⁉高校でさらに進む「内申インフレ」とは

2022年度から高校でも小中学校と同じく「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に向かう態度」の3観点で評定が付けられることになりました。しかし早くも「評定がおかしい」という声が……。大きく変わった高校の成績の付け方と、その問題点を取り上げます。

伊藤 敏雄

執筆者:伊藤 敏雄

学習・受験ガイド

2022年度から高校でも通知表の付け方が大きく変わったが……。

2022年度から高校でも通知表の付け方が大きく変わったが……

2022年度から高校でも成績の付け方、つまり通知表が大きく変わりました。定期テストの答案用紙をよく見てみると、100点満点の配点のうち「知識・技能 ○点」「思考・判断・表現 ○点」と内訳が書かれていることがわかります。

これに加えて授業での発表やレポートなどへの取り組みが、「主体的に学習に向かう態度」の観点として、評定を決める判断材料になります。つまり幸か不幸か、高校でも定期テスト以外の取り組みが通知表の評定に含まれるようになったのです。
 

高校の新しい観点別評価はどうやって付けられるのか?

まずは、高校の評定の付け方について取り上げたいと思います。ある私立のM高校では、英語の評定の付け方は次のように決まっています。

・提出物など:3割
・パフォーマンステスト:2割
・定期テスト:5割

提出物は、授業での振り返りやエッセイなどのライティング課題。基本的に提出さえすれば悪い評価にはならないため、高評価が取りやすい項目です。
 
パフォーマンステストは、授業中に行うリーディング、リスニング、スピーキング、ライティングなどの小テストのことです。出題範囲が広くないため、事前に対策すれば、ほぼ満点がとれる非常に易しいテストです。まめにテストをすることにはメリットもありますが、悪くいえば、丸暗記や一夜漬けによる対策が可能ということです。パフォーマンステストが終わってしまえば、忘れてしまう可能性が高いのが難点です。
 
定期テストに関しては、これまで通りと思って間違いありません。出題内容が「知識・技能」か、「思考・判断・表現」の観点のいずれかにあてはまるという程度の変更です。

このように中学校と同様に高校でも、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に向かう態度」の3つの観点をそれぞれABCで評価し、これらの組み合わせで5~1といった評定が決まるようになったのです。
 

しかし早くも「評定がおかしい」という疑問の声!? 

ところでここで一つの疑問がわいてきます。例えば次のように、総合得点は75点で同じAさん、Bさんでも、パフォーマンステストや提出物と定期テストの点数に大きな違いがあった場合です。

Aさん:
・パフォーマンステスト:30/30点
・提出物:20/20点
・定期テスト:25/50点*(*100点満点で50点のテストを50点満点換算)
・総合得点:75/100点 

Bさん:
・パフォーマンステスト:25/30点
・提出物:10/20点
・定期テスト:40/50点*(*100点満点で80点のテストを50点満点換算)
・総合得点:75/100点

Aさんは、パフォーマンステストも提出物も満点で、定期テストだけが100点満点中50点。Bさんは、パフォーマンステストが25点、提出物が不十分だったので10点、定期テストは100点満点中80点だった場合、これだとどちらも評定が「4」になる可能性があるのです。定期テストで50点のAさんと80点のBさんとでは、学力が同レベルとは到底言い難く、同じ評定にするには疑問が残ります。

そこで実際、いくつかの高校の生徒の成績表を見せてもらいました。すると、観点別評価の組み合わせが「BBB」なのに評定が「4」の子もいれば、「ABB」で「3」の子もいたり、さらに同じ生徒でも、教科や科目によって評定の付け方がばらばらだったのです。どうも中学校のように観点別評価の組み合わせによって、評定が決まっているわけではないようです。
 
もともと高校の評定は、定期テストで8割以上解けていたら「5」や「4」がつくといった、比較的アバウトなものでした。それを今回の変更で観点別評価を取り入れていたはずなのに、評定の根拠はあいまいなままなのです。
 

「内申格差」は今まで以上に問題に

そうなると今まで以上に問題になるのが、高校間の「内申(評定)格差」です。高校の中には、平均点が80点に近い易しい問題を出すところもあれば、平均点が30点台や40点台は当たり前という難しい問題を出すところもあります。

また超がつくほどの進学校もあれば、商業科や工業科など専門学科の高校もあります。オール1でも入ることができる定員割れしている高校や、「指導困難校」と呼ばれる高校もあります。つまり中学校以上にテストの難易度に開きがあるのです。

高校の中には、生徒に評定を稼がせるために定期テストを易しくしたり小テストや提出物などの平常点の割合を増やしたりしている学校が少なからずあります。実際、化学基礎の平均点が94.5点というある高校があり、さぞみんな勉強したのだろうと思いきや、定期テストは1枚のテスト対策プリントからほぼ丸々出題されていたのです。このような高校では、いともたやすく「5」の評定がとれてしまいます。いわば評定に下駄を履かせているのです。
 
そのような高校はもともと大学受験とは無縁な子が多いため、これまであまり問題視されませんでした。しかし最近は私立大学を中心に、一般選抜ではなく推薦型選抜で合格者を出す高校が増えています。そのため「良い評定を出す高校が大学受験で有利になる」という現象が起こっており、実際、受験生の間でも疑問や不満の声があがっているのです。
 
一方で進学校と呼ばれる高校では、国公立大学へ合格することが至上命題とされ、“推薦で大学に合格するのは邪道、一般選抜で合格してこそ大学受験”という風潮があります。このため定期テストでは、大学受験を意識した難しい問題が出題される傾向にあります。必然的に高い評定をとることは難しくなり、推薦で大学に合格することが難しくなります。
 

高校の内申インフレの影響で“大学受験が不公平”に

つまり「大学合格実績が高い進学校」よりも、「定期テストが易しい中堅の高校や専門学科の高校」へ進学した方が、内申点が稼げて結果的に大学受験に有利になるというおかしな現象が起こっているのです。

実際、模試では「E判定」なのに、推薦型選抜で大学に合格していく受験生がいることは各地で報告されています。全国的に名が知られている大学であってもです。

そこで、東京、大阪(京都、兵庫)、愛知の主な私立大学について、推薦型選抜や系列校からの入学者を除いた、一般選抜での入学者の割合を調べてみたところ、衝撃の事実がわかりました。それをまとめたのが次の表です。
慶應義塾、早稲田、明治、青山学院、立教、中央、法政、関西、関西学院、同志社、立命館、南山、中京、愛知、名城大学の一般選抜(推薦型以外)の合格者の割合

慶應義塾、早稲田、明治、青山学院、立教、中央、法政、関西、関西学院、同志社、立命館、南山、中京、愛知、名城大学の一般選抜(推薦型以外)の合格者の割合

上智大、関西学院大、中京大は、一般選抜の入学者の割合が5割を切っていて、半分以上が推薦型選抜(系列校からの進学も含む)だったのです。他にも、一般選抜が5割程度の大学が多々あります。逆に、明治大学のように約4分の3が一般選抜での入学者というところもありますが、そのような大学は多くはありません。
 

大学受験対策は「高校での学びのあり方」から始まっている

もちろん、必ずしも「推薦型選抜=学力不足」というわけではありません。基礎学力が高くて志望動機もはっきりしている受験生が、推薦型選抜を活用することに問題はありません。しかし基礎学力が不十分にもかかわらず、まるで抜け道のように推薦入試で大学に合格できるとしたら問題ではないでしょうか。

少なくともいえることは、「一般選抜ではなく、推薦型選抜での合格を目指した方が有利」という大学が存在することは、大学受験の公平さにも関わる大問題ということです。
 
ならばどうすべきか。これは高校の成績の付け方が変わったことを機に、大学受験に対する意識そのものを変えなればいけないということです。一般選抜でも合格できるような基礎学力をもちながら主体的に学ぶ意欲がある子は、積極的に推薦型選抜を活用した方がよいということです。そのためには教科の勉強にとどまらず、高校生のときから教科の枠組みを越えて学ぶ必要性が出てきます。
 
さらに大学選びも、受験偏差値にとらわれるのではなく、今後は「自分が学びたいことは何なのか」「どんな学びが得られるのか」という学びのあり方を重視した大学選びが、ますます問われるようになるでしょう。

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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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