脳科学・脳の健康

心肺停止でも助かる可能性があるのはなぜか…脳幹のはたらきと蘇生

【脳科学者が解説】事故や事件の報道で「心肺停止状態」と耳にしたとき、「死亡」と解釈する方が多いようですが、それは正しくありません。脳が不可逆なダメージを受けていなければ、心臓と呼吸が止まっていても蘇生できる可能性があります。しかし時間が重要です。AEDの役割、脳科学的に見た「心肺停止」の正しい意味と、心肺停止から蘇生できるケースがある理由を、わかりやすく解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

「心肺停止」と「死亡」の違い…心臓・呼吸が停止しても死亡ではない理由

心肺蘇生と死亡の違い・蘇生の可能性

心肺停止は死亡という意味ではありません。脳が深刻なダメージを受ける前に迅速な処置を受けられれば、蘇生の可能性があります(画像はイメージ)

事件や事故に関するニュースなどで、「心肺停止の状態で病院に搬送されました」といったフレーズを耳にすることがあると思います。この場合の「心肺停止」とは、一般に心臓と呼吸が止まっているということを意味しますので、多くの人が「死亡」と解釈しがちです。しかし、実際のところはそうとは限りません。

皆さんがよくご存じの通り、心臓は全身に血液を循環させるポンプの役割を持ち、肺は体内に酸素を取り込む役割を果たしています。これらが機能しなくなると、確かに生命維持が困難になりますが、それだけでは死亡したことにはなりません。私たちの生命を維持している中枢は、脳の中の「延髄」という場所にありますから、見かけ上心肺停止になっていても、まだ脳が生きていれば、死亡したことにはならないのです。

心肺停止状態にあると判断された人がその後の処置によって回復した場合に、「心肺停止状態から生き返った」などと表現されることがありますが、その場合は単に「脳が生きていたので、まだ死亡していなかった」ということです。心臓と肺が機能しなくなり、最終的に、脳の延髄に不可逆的な障害が生じた時に、死亡に至ります。

生命維持に果たす脳の役割を念頭において、「心肺停止」と「死亡」の関係を正しく理解できるよう、わかりやすく解説しましょう。
 

「脈なし」=心臓停止ではなく、心室細動が起きていることも多い

救急の現場で、まず行われることは、意識、呼吸、脈の有無を確認することです。脈がとれない場合に「心停止」と判定されるわけですが、特に事故などに伴う失血から「脈なし」の状態になった時は、実際には心臓は止まっておらず、むしろ「心室細動」(ventricular fibrillation, VF)と呼ばれる、心臓が異常に速く動いている状態にあることが多いです。

大量の失血があると、体中に酸素や栄養分を送り届けていた血流が減るわけですから、全身が酸欠状態になります。私たちの体には、このようなピンチの状態になると、心臓の動きを速くして、少しでも血がまわるようにしようとする「反射」の仕組みが備わっています。そして、その仕組みを担っているのは、脳の中の延髄という場所にある「心臓血管運動中枢」です(詳しくは「脳幹の機能……生命維持に欠かせない脳幹の構造とはたらき」をご覧ください)。この脳の指令によって、心臓がどんどん速く動くようになります。また、心臓自身も、酸素不足になると、過剰に興奮して不整脈を生じるようになります。そうして心拍数が350/分を超えたケースを一般に「細動」と呼びます。あまりにも速すぎて、小刻みにピクピクとけいれんしているだけで、ポンプとしての機能を果たしていませんから、心臓が静止しているのと同じとも言えなくはないのですが、厳密には「心臓が止まっている」のではなく、「心臓が暴れている」と理解するのが正しいです。
 

AEDとは…暴れる心臓に、正常な拍動リズムを取り戻す「自動体外式除細動器」

心室細動が起きたときには、たいてい本人に意識はありません。すみやかに救急車を呼ぶと同時に、心臓マッサージと人工呼吸による心肺蘇生、そしてAEDが用いられます。AEDは、自動体外式除細動器(Automated External Defibrillator)の略で、心室細動を起こした心臓に対して体の外から電気ショックを与え、正常な拍動リズムに戻すための医療機器です。機器が自動的に心電図の解析を行い音声指示を与えてくれるため、非医療従事者でも使用できるものです。

みなさんの中には、AEDを「止まってしまった心臓を、電気ショックで蘇らせて動かす機器」と誤解している人がいるかもしれませんが、まったく逆です。「除」細動器ですから、けいれんしている心臓のピクピクとした動きを取り除いて、治めるものです。もう少し砕いて言うと「暴れている心臓に喝を入れて鎮める機器」が正解です。
 

肺はもともと動かない臓器…脳の延髄の指令で起こる呼吸運動

「心肺停止」という言葉が使われているものの、実は医学的には「肺が停止する」というのは奇妙な表現です。なぜなら、肺はもともと自分で動くことはなく、その意味では停止している臓器だからです。

肺は、ただの空気を入れることができる袋、ちょうど風船のようなものです。風船が自分で勝手に膨らんだり縮んだりすることがないのと同じように、肺も自分では動きません。では、私たちが息をしているときに、肺が膨らんだり縮んだりしているのはなぜでしょう。何が動かしているのでしょうか。そうです、胸郭に備わった、横隔膜、肋間筋、首や肩の筋肉などのさまざまな筋肉を動かすことで、私たちは肺を大きくしたり小さくしたりしているのです。そして、その指令は、脳から与えられています。具体的には、脳の延髄にある「呼吸中枢」が「胸郭の筋肉を動かす」という指令を絶え間なく出し続けることによって、「呼吸運動」が成立しているのです。

大量の失血があると、脳に酸素や栄養分を送り届けていた血流が減り、脳が障害されると、呼吸運動を起こす指令が出せなくなり、自発呼吸が停止するのです。ただし、延髄の呼吸中枢が一時的に働かなくなっている状態、つまり、まだ不可逆的なダメージに至っていない状態ならば、人工呼吸装置などを使って強制的に肺の中に空気を出し入れすることを続け、その間に血液循環が回復すれば、呼吸中枢の機能が戻ることがあるというわけです。
 

心肺停止からの後遺症なき蘇生は時間勝負…5分で脳に深刻なダメージ

なお、「心肺停止」が「死亡」に至るかどうかは、時間とのたたかいです。心臓がけいれんを起こし、血液の循環が止まってから、およそ5分で不可逆的な脳障害が生じると言われています。これ以上の時間、脳に酸素を送る処置ができなかった場合は、命を落としたり、深刻な後遺症が残ったりすることになります。

命を救うためには迅速な処置が必要であることは、言うまでもありません。
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