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アイス界のアサシン!?中国に出回る高額アイスの謎

中国都市部では今、高額なアイスが数多く出回るようになっています。人々はその値段に驚きながらも、新しいコンセプトを持つ商品に興味津々。今回はその実情をご紹介しましょう。

執筆者:All About Japan 編集部

レジで初めて値段が分かる、アイスの刺客!

 
上海にあるスーパーの冷凍庫。値段がはっきり記載されていない商品もある

上海にあるスーパーの冷凍庫。値段がはっきり記載されていない商品もある


2022年6月12日、中国版「TikTok」——「抖音(ドウイン)」でユーザー「哆啦暖暖」はアイスの値段が高すぎることについて投稿でツッコミました。「该管管雪糕届这些刺客了(今こそアイス界のアサシンたちを抑制するときだ)」というコメントは大きな注目を集め、6月23日までの約10日間で41万の「いいね」を獲得しました。
 
近年、中国本土では新しいアイス商品がたくさん登場しています。コンビニで値段も見ずに好きなアイスをレジに持って行くと、驚くような値段になります。

中国人はメンツを重視するので、レジでの決済時にお会計が想像以上の高額になっても買うのをやめたりはしません。内心「うわ、高すぎる!どうしよう・・」と思ったとしても涼しい顔で買うのです。
 
そこで出てきたのが「アイスアサシン」という言葉。レジで突然購入者の心を刺す高額なアイス=アイスアサシンですね。値段がよく分からないアイスを買って刺されることを「アイスアサシンに暗殺されたか?」などとツッコミ合い、SNSで盛り上がりを見せています。
 
出典:「抖音」ユーザー「哆啦暖暖」の投稿

出典:「抖音」ユーザー「哆啦暖暖」の投稿
※「雪糕刺客(アイスアサシン)」:数多くのアイスクリームに隠されているので目立たないようですが、決済する時に「致命的な打撃」させる高額なアイスクリームのことです。
※「该管管雪糕届的这些刺客了」:今こそアイス界のアサシンたちを抑制するときだ。


百花繚乱の網紅アイス

若者層が集まっているネットプラットフォームを検索すると、さまざまな「網紅アイス」が現れ、単価は天井知らずです。アイスアサシンとはまさにこのこと。
※網紅(ワンホン):中国ネット上で人気のあるものやKOLのこと 
 
桜をイメージとするアイス 出典:VCG(视觉中国)

桜をイメージとするアイス 出典:VCG(视觉中国)

Taobao(中国のオンラインモール)で「雪糕(アイス)」というキーワードで検索すると、最も売上が高い店舗で「鐘薛高(ジョン シュエ ガオ)」というアイスブランドの「少年シリーズ」アイス(10個セット)は180元(約3600円)、一個平均18元(約363円)で、毎月平均7万セットを売り上げています。
 
中国の通常のアイス単価(3~5元程度)の3~4倍ですが、「非常に高い」とまでは言えないかもしれません。同じ「鐘薛高」ブランドの「杏余年(シン ユィ ニェン )」アイスは160元(約3,222円)で、その値段を知らないまま購入した中国人女性ユーザ「地位极高硬气鑫」は、家に帰って泣いてしまった動画を「抖音」に投稿しました。「サイズが大きいから20元以上はすると思った。それどころか160元もして、買った自分が自分がバカみたい」とコメントしています。
 
出典:「鐘薛高」アイスを販売しているTaobao店舗

出典:「鐘薛高」アイスを販売しているTaobao店舗


値段の高いアイスが次々と登場し、ネット上で新しい「網紅アイス」を追いかけている人が増え、アイスアサシンに刺されても「食べてみたい」という声もネット上でたくさんあります。
 
さきほど紹介した「杏余年」は、輸入ナッツ×牛乳×フルーツ×高たんぱく質×砂糖少なめという、良い素材を使った高級感が感じられるアイス。こういった高級路線だけでなく、何かとコラボレーションしている商品も「網紅アイス」になり得ます。

「アイス×〇〇」のコラボレーション例には以下のようなものがあります。

「アイス×博物館」
中国では伝統文化復興がトレンドなので、アイスも各地の博物館などとコラボをして、文物や、建物を原型とした商品が作られ、値段が高くても人気が集まっています。中国国家博物館とコラボした「文化財アイス」は、チョコレート味の「説唱傭」、抹茶味の「雲紋犀尊」があり価格はどちらも1本15元(約301円)です。湖北省武漢市にある有名な観光名所「黄鶴楼」をそのままかたどったアイス(1本19元、約382円)はネット上で大きな話題になりました。
 
「敦煌莫高窟九层塔」アイス  出典:VCG(视觉中国)

「敦煌莫高窟九层塔」アイス  出典:VCG(视觉中国)


「アイス×問題集」
中国人にとって、6月の大学入学試験「高考(ガオカオ)」は非常に重要で、中国メディアによると、2022年は1120万人以上の受験生が6月7日と8日の2日間にわたって「人生が決まる」試験を受けました。受験生なら誰でも知っている「高考」の問題集『五年高考三年模拟』(5年分の過去問題と3年分の模擬問題)とのコラボアイスは現在ミルク味、グレープ味、ドリアン味、抹茶味などがあり、価格は14元(約282円)です。安くはないですが、「食べたら試験問題ができるようになるのかも?」という好奇心をもって買う人もいるようです。
 
出典:Taobao店舗

出典:Taobao店舗


「アイス×お酒」もあります。中国の貴州省特産の茅台(マオタイ)酒とコラボした「茅台アイスクリーム」は133元(約2,677円)、日本の「獺祭」酒とコラボの「獺祭アイスクリーム」(1個約1,000円)も話題。要するに、アイス商品に「斬新なコンセプト」があると、特にSNSで話題になりやすく、消費金額が増えるため、価格も高くなる傾向があります。
左から:「茅台アイスクリーム」、「獺祭アイスクリーム」 出典:Taobao店舗

左から:「茅台アイスクリーム」、「獺祭アイスクリーム」 
出典:Taobao店舗

 

アイス市場でわかる、中国の「消費のアップグレード」

中国のリサーチ会社「前瞻産業研究院」の統計データによると、2015年から2021年にかけて、中国のアイスクリームの市場規模は900億元未満から1,600億元(約3,200億円)に成長し、6年間で90%増加しました。
 
アイスの「消費アップグレード」トレンドも明らかです。中国「新京報」記者の調査によると、北京のコンビニで5元(約100円)以下のアイスは非常に少なく、10元(約200円)以上の商品が半分程度を占めています。「中国冰淇淋(中国アイスクリーム)」雑誌の編集長祝宝威さんはインタビューで「2021年の中国本土のアイスは2元~3元(約40~60円)がメイン。一方で一級都市(北京、上海、広州、深圳、武漢、重慶、杭州、成都など)ではコアなアイス商品は3元を超え、コンビニではさらに価格が上がっていました。2022年になるとアイス商品全体の小売価格が5元にまで上昇しています。値上がりの原因は、消費力の上昇、原材料の値上げと宣伝広告費などです」と指摘しました。
上海のある路地の中の小売店でみつかった「安い」(3~5元)アイス

上海のある路地の中の小売店でみつかった「安い」(3~5元)アイス


高単価な「網紅アイス」の登場は、「アイスアサシン」のようなSNSでのツッコミも生みました。これをテーマにしてたくさんの動画、weibo投稿も出ましたが、実はすべてネガティブな評価であるわけではないのです。
 
世論観察プラットフォーム「識微商情」の分析(6月14日から21日15時までのネット世論)によると、「アイスアサシン」に関するネット投稿が表す感情を分類すると、51%はポジティブ、34%はマイルド、15%はネガティブでした。つまり、ほとんどのネットユーザーは「アイスアサシン」に批判的ではなく、面白く、驚きであり、「ネットミーム」として扱っているのです。
「アイスアサシン」に関するネット投稿が表す感情 出典:「識微商情」

「アイスアサシン」に関するネット投稿が表す感情 出典:「識微商情」


アイスの高額化や多様化は中国アイス業界の成長トレンドを示していると言えます。健康に配慮した原材料、高級感あるコンセプト、キャラクターとの意外性あるパッケージ化……中国人の消費傾向およびニーズは、かなり差異化され、細分化されてきています。

これは今後、アイス業界に留まらないかもしれません。


執筆者:王 黛青(All About Japan 簡体字 編集リーダー) 
【All About Japan編集部記事について】
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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