エッセンシャルワーカー以外は、程度の差こそあれ在宅勤務を実施しているようなイメージがあったが、実態はそうでもなかったようだ。 そして在宅勤務を経て、男女関係は何か変化があったのだろうか。
再度、出社しはじめて関係がギクシャク
「ふたりとも在宅ワークだったころは、いい感じだったんですよね」そう言うのはアキホさん(34歳)だ。半年ほどつきあっていた同い年の彼と、コロナ禍直前に一緒に住むようになった。
「ちょうど私のアパートが更新時期だったので、彼が『うちに来ちゃえば?』と。彼の部屋は2LDKでけっこう広い。それで同棲に踏み切りました」
最初はとても楽しかったという。もともとグループで飲みに行く仲間のひとりだった彼とつきあい始めて半年ほどがたっていた。だがその間、お互いに忙しくて、なかなか会う時間もままならなかったからだ。
「彼のほうが早く在宅勤務となり、その1カ月後には私も在宅に。朝食を一緒にとってからそれぞれの部屋で仕事をし、昼食も夕食もかわりばんこに作ったりしながら暮らしていました。ときどき散歩したり、週末はサイクリングしたり。こういう暮らしもいいよね、それなら住むのは都会じゃなくてもいいのかも、なんていう話も出たりして」
ところが一昨年の秋、彼に出社要請があった。最初は週に3日ほどだったが、すぐに以前と同じ5日勤務に。残業もするようになり、昨年初めからは完全に元通りとなった。
「その間、私はせいぜい週1の出社。ひとりで家で仕事をしているのはなんだか士気が上がらなかった。それに彼は夕飯を食べると言いながら、結局、残業しながらお弁当を食べちゃったとか、飲食店が開いている時期は夜中近くまで飲んできたりとか。ずっと一緒だった生活が変わってしまったので、寂しかったですね」
彼がいないと生活がつまらない。彼女はそう感じ、早く帰ってきてと彼にせがむようになり、彼が少しうっとうしく思い始めているのも感じていた。
「在宅勤務」が根づかない理由
昨年からは、アキホさんも通常出社となった。「それでも、希望する人は在宅でも働けるようになりました。お子さんが小さい同僚は、むしろ働きやすくなったと喜んでいましたね。今も1割弱くらいは在宅なんじゃないかな。私は久々に会社でみんなに会って、自分が生き返るような気がしました。家でひとりで仕事をしているのは私には向かなかった。同僚たちと無駄話したりしているうちに仕事のアイデアが浮かんでくることもあるし、軽く一杯飲んで帰るのが楽しかったりもする」
アキホさんが言うとおりだからこそ、在宅勤務は根づかなかったのだろう。住宅環境のよくない日本では家族がいれば仕事をしづらいし、逆に1人暮らしだとメリハリがつかない。満員電車に乗らなくてすむから在宅がいいという人もいれば、やはり会社へ行かないと仕事が捗らない人もいる。
「結局、彼とはこの春、別れました。私も出社するようになったら、彼とは時間的にすれ違いばかりだし、週末もそれぞれ友だちと会ったりして、なんだか一緒にいる意味がわからなくなっちゃったねということになって。今でもときどきデートはしているけど、完全に友だちモードですね、お互いに」
友だちから始まった関係が元に戻っただけかもしれないと彼女は笑う。
「私もすでに10年以上、仕事をしていますし、今、仕事がすごく楽しいんです。在宅から出社に戻って、もっと自分にできることはあると思うようになった。家ではなかなか新しいアイデアは出てこないから、新たな気持ちで取り組めています。周りもけっこうみんな、新鮮な気持ちで働いているように見えますね」
向き不向きはあるだろうが、やはり仕事は最終的には「人との関わり」が大きい。現在、在宅勤務を実施している企業も、従業員の1割程度が在宅だという回答がいちばん多い。業種にもよるが、家で仕事ができる内容は限られているのだろう。
「もう在宅勤務はこりごりです。夏は暑いから会社に行きたくないと前は思っていたけど、今は、暑くても同僚と帰りに冷たいビールを飲もうと思える状態になっていることがうれしいくらいです」
人が動くと書いて「働く」。やはり人が動き続けなければ、仕事は活性化しないのかもしれない。