明るくて前向きな義母が“私には”重い
結婚して10年になるマミさん(40歳)は、夫の実家から徒歩15分ほどのところに一家4人で住んでいる。共働きのため、8歳と5歳の子どもたちは義両親がめんどうを見てくれることも多い。「義父はおとなしくて穏やかな人なんですが、義母はとにかく明るくてにぎやかな人。人が来るのも大好きだから、コロナ禍以前は、いつでも家に友人知人がいる。世話好きだし面倒見がいいから人が集まってくるんでしょうね」
義父は70歳になった今も、友人が経営する会社でその右腕として仕事をしている。義母は週に3日、パートで働いている。働き者で世話好きで、いつも誰かに頼られているのが義母だ。
「いつでも前向きでポジティブ。友だちにするにはいいかもしれないけど、身内にいるとちょっとうっとうしいタイプなんですよね。もちろん相性もあると思います。私はポジティブ過ぎる人と一緒にいると、自分がダメな人間だと思ってしまうのでつらいんです」
自分も気分が前向きのときは、義母と話していて楽しいのだが、少し気分が落ちているときはそのポジティブさが重いのだ。だが、夫はそれをなかなかわかってくれない。
「つい先日も、職場で直属の上司が自分のミスを私のせいにしたんですよ。そういう人だとわかっていながら、私もガードが甘かった。同僚たちも私をかばってくれたんですが、結局、上司のさらに上の役員に呼び出されて嫌味を言われました。ああいうとき、どこまで反論したらいいかも悩むところだし、ちょっと滅入っていたんです」
その日は残業があったため、子どもたちは義母が預かってくれていた。迎えに行くと義母は「マミさん、大丈夫? 疲れてるみたい」と声をかけてくる。心配させるのも悪いと思い、簡単に「仕事でちょっとトラブルがありまして」と切り抜けようとした。
「そうしたら義母が、『いろんなことがあるだろうけど、常に前向きに乗り越えるのよ、それが人間なの』って。何も知らないのに達観したような言い方をするから、ちょっとムカッとしちゃったんですよ。『いや、そういう話じゃないんで』と思わず言い返したら、『あなたって、まじめすぎるのよねー。だめよ~、そうやってしかめっ面していると、不幸の神様が来ちゃうから、ほら、笑って笑って~』と、おどけながら言うから、さらに神経逆なでされちゃって(笑)」
前向きさや明るさを強要されると、確かに神経を逆なでされた気になるものだ。
離れるわけにもいかない関係に疲れ
義母は悪意があるわけではない。それどころか常に元気に孫たちに接してくれるわけだし、マミさんとしては文句は言えない。もちろん、もっと距離の離れたところに越したいわけでもないそうだ。「ただ、たまには静かにしていてほしい、よけいなことを言わないでほしいと思うことはありますね。最近、ますます明るすぎて元気なので、一緒にいると疲れてしまうんです。もともと私が疲れているせいもあるんですが」
ときには心にずかずか入り込むようなことはせず、黙って放っておいてほしい。マミさんのその気持ちは贅沢なのだろうか。
「そんなふうに思う自分が嫌な女だと思ってしまうこともありますね。義母が言うように確かに私はまじめすぎるのかもしれないけど、それをからかうような調子で言われることにも疲れています」
マミさんはそう言って苦笑する。元気で前向きな人は、そうでない人の気持ちを慮るのがむずかしいのかもしれない。
「夫は元気な母親に触発されるようです。私が遠回しに、義母さんといると元気過ぎて疲れるわというようなことをチラッと言ったら、『母さんに会うとオレは元気になれるけどなあ。あの人は人を笑顔にする天才だから』って。その認識はちょっと違うと思うけど……。実母と義母とでは感じ方は違いますからしかたがないけど」
どうにも避けようがない関係だけに、マミさんとしては気が重いこともあるという。これからもうまくつきあっていくために、「スルーする能力、気にしない力」を身につけなければいけないと彼女はまじめな表情をさらに引き締めた。