うつ病の四大症状…抑うつ・意欲低下・不安や焦燥・自律神経症状

うつ病の脳で起きていること

うつ状態にあるとき、脳内では神経伝達物質の異常が起こっています

うつ病の症状は様々ですが、代表的なのは以下の「四大症状」と言われるものです。
  • 抑うつ気分(理由もなくふさぎこむ)
  • 意欲の低下
  • 不安や焦燥
  • 自律神経症状(不眠や食欲不振など)
四大症状の他にも、以下のような症状も伴います。
  • 微小妄想(自己に対する過小評価):
  罪業妄想(自分が生きていると他人に迷惑がかかるという妄想)
  貧困妄想(事業の失敗などで無一文になり将来餓死するといった妄想)
  心気妄想(治る見込みのない重病に罹ってしまうなどの妄想)
  • 自殺企図
  • 病識欠如
  • 仮性認知症(意欲低下のために一見知能が低下しているように見えるが、認知症のような本質的な認知・記憶障害はない)

「抑うつ気分」と「憂鬱」の違い……うつ病における気分の落ち込み

このうち、主症状となる「抑うつ気分」については、多くの方が「嫌なことや辛いことがあって、悩んだり落ち込んでいる状態」と解釈しているかもしれませんが、それは間違いです。

私たちは失敗したり嫌なことを体験すると、ショックを受けて落ち込みますが、これはいわゆる「憂鬱(ゆううつ)」です。嫌な体験をして憂鬱になるのは、当たり前の反応であって、そうならない方がおかしいですね。心や体がちゃんと反応しているということですから、憂鬱になるのは必ずしも悪いことではありません。そして、たいていは時間が経つと忘れたり、他に良いことがあると気が晴れたりして、解消すれば何も問題はありません。

うつ病の方は、実は「何も理由がないのに」気分が沈みこんだ状態が続いているのです。もちろん、嫌な出来事がきっかけとなることはありますが、それがすべて解決して普通なら「ああ、よかった」と気分が元に戻るはずなのに、なぜかその後も気分が晴れず、周りに特に問題が残っているわけでもないのに、ふさぎこんだ状態がずっと続いているというのが、うつ病における「抑うつ気分」なのです。
 

うつ病に見られる自責の念……実際とは違う思い込みで自分を責めてしまう

うつ病で最も問題になるのが、自殺してしまうことがあるという点です。その根底にあるのが、上に挙げた「微小妄想」です。その方は誰にも迷惑をかけているわけでもなく、実際に失業したり、深刻な病気を抱えたりしているという事実はないのに、そうなるという思い込み(妄想)をしてしまうことで、自分を責めて命を絶つという悲しい結末に結びついてしまうことがあります。

多くの方が、うつ病の方を救いたくて、励ましたり気分転換を勧めたりするかもしれませんが、それは解決にはならず、逆に悪化させることがあるので注意しましょう。「頑張ろう」という言葉は、それまで頑張ってきたご本人にさらなるプレッシャーをかけることになります。また、カラオケや旅行に行って楽しい思いをした後に、ふっと寂しくなる(楽しいことがなくなったと感じる)ことがみなさんにもあることでしょうが、それと同じように、うつ病の方に一時的な気分転換を勧めると、その直後に抑うつ気分がひどくなり自殺してしまう方もいらっしゃいます。

「家族や周囲のことを考えたら、自殺はできない」と言う方もいますが、それは正常な状態での発想です。うつ病の方は、自分が生きていることが周りに迷惑をかけるという妄想によって、周囲のためにその選択をしたのかもしれないと理解する必要があります。

うつ病は、脳の病気であることを認識し、解決にはきちんとした医学的対応を必要とします。周囲の方は、他の病気と同じように、薬物治療によって必ず軽快することを説明し、積極的に薬物治療に取り組むよう配慮すべきです。
 

うつ状態の脳で起きている神経伝達物質の異常

要因が何であれ、最終的にうつ病を発症したとき、脳の中はどうなっているのでしょうか。そのメカニズムを解くカギは、薬の研究から得られました。

インドでは、古代から、キョウチクトウ科の植物インドジャボク(学名:Rauwolfia serpentina)の根を精神病や不眠・錯乱などの治療に用いていました。1952年にドイツの研究者がその有効成分を単離し、レセルピン(reserpine)と名づけました。その後、レセルピンは、精神抑制作用だけではなく、血圧を下げる作用があることが明らかとなり、精神病や高血圧の治療薬として用いられるようになりました。しかし、このレセルピンには重大な副作用がありました。使い続けていると、うつ状態を生じ、自殺を招くことがあったのです。そして、レセルピンの薬理作用が詳しく研究された結果、脳内のノルアドレナリンやセロトニンなど、いわゆる「モノアミン系」と総称される神経伝達物質の量を減らすことが分かりました。

一方、1950年代初めに、スイスの研究者たちが見出したイミプラミンという薬には、精神賦活作用が認められました。1956年にうつ病の患者に用いたところ、抗うつ効果が確かめられ、偶然発見された最初の抗うつ薬として実用化されました。日本でも1959年に発売され、現在も使用されています。はじめはどうして効くのは分かりませんでしたが、その後の詳しい薬理作用の研究から、イミプラミンには、脳内のシナプスにおけるノルアドレナリンやセロトニンの量を増やす作用があることが分かりました。

これらの事実を合わせると、「脳内のシナプスでノルアドレナリンやセロトニンが働かなくなるとうつ病になる」と考えられます。これが「モノアミン仮説」です。この仮説は完全に証明されたわけではありませんが、少なくともこの仮説に基づいて生み出された数々の治療薬が、実際に患者さんを救っていることは、紛れもない証拠と言えるのではないでしょうか。
 

心の盛り上げ役である「ノルアドレナリン」と「セロトニン」

脳内で、ノルアドレナリンとセロトニンは、それぞれ青斑核(せいはんかく)と縫線核(ほうせんかく)にある神経細胞によって作られています。その神経細胞は、自律神経の中枢である視床下部(ししょうかぶ・詳しくは「視床下部の役割は?自律神経系、内分泌系を調節する重要な機能」を参照ください)や、感情や意欲を司る扁桃体(へんとうたい)ならびに内側前頭前野(ないそくぜんとうぜんや)まで軸索を伸ばし、その終末からノルアドレナリンやセロトニンを放出しています。

私たちは嫌なことや辛いことを体験したときには憂鬱になりますが、その気分を元に戻そうとするときに、ノルアドレナリンやセロトニンが分泌されます。つまり、ノルアドレナリンとセロトニンは、心の盛り上げ役なのです。

ときどき憂鬱になるくらいなら問題ありませんが、過度のストレスによって、頻繁にノルアドレナリンやセロトニンが働き続ける状態になると、脳に異変が起きてきます。

ノルアドレナリンやセロトニンは「頑張れ」という励ましの声に相当し、あなたがその声がけをする側だと考えてみてください。ときどき声がけをするのは問題ないでしょうが、同じことに対して何度も何度も声がけをしなければならないとしたらどうでしょう。そう、疲れてしまい、声がけしたくなくなりますよね。逆に、あなたが声をかけてもらう側だと考えてみてください。同じ状況で、何度も相手から「頑張れ」と繰り返し言われ続けたらどうでしょう。そう、同じことは聞きたくなくなりますよね。過度のストレスが続くときには、脳内でこれと同じことが起きているのではないでしょうか。ノルアドレナリンやセロトニンの分泌低下が起こるとともに、その信号を受け取る受容体の働きも低下してしまったのが、うつ病の状態です。

ノルアドレナリンやセロトニンがうまく働かなくなった状態を元に戻すためには、単なる気晴らしや気分転換では効果がなく、ノルアドレナリンやセロトニンの働きを正常化できる薬の力を借りる必要があることを理解しましょう。
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