食生活・栄養知識

ヤマイモと誤食して死亡例も…グロリオサの球根の毒性と食中毒症状

【管理栄養士が解説】「ヤマイモ」は、ナガイモ、ジネンジョ、イチョウイモなどのさまざまな芋を指し、形もさまざま。ヤマイモに似た形の球根を持つ植物として、美しい花を咲かせるグロリオサの球根があります。毒性があるため誤食による食中毒事故も多く、死亡例も報告されています。見分け方と注意すべきポイントを解説します。

平井 千里

執筆者:平井 千里

管理栄養士 / 実践栄養ガイド

ヤマイモとは……ナガイモ・ジネンジョ・イチョウイモなどの一般的総称

美味しくて栄養価の高いヤマイモ。いずれの品種も皮に毛が生えていて、ゴツゴツしています

美味しくて栄養価の高いヤマイモ。いずれの品種も皮に毛が生えていて、ゴツゴツしています


ヤマイモ(山芋)には、丸いものや長いもの、イチョウのように広がったものなど、さまざまな形のものがあります。しかしこれらは実際には「ナガイモ」「ジネンジョ」「ダイジョ」「イチョウイモ」などの芋で、それぞれまったく別の種類のものです。しかしいずれもヤマイモの一品種かのようによく似ているため、一般的にはこれらを総称して「ヤマイモ」と呼ぶことが多いようです。
 

ヤマイモの栄養素・主な食べ方

ヤマイモを、日本食品標準成分表2020年版(八訂)で確認すると、イチョウイモ、ナガイモ(ナガイモ)、ナガイモ(ヤマトイモ)、ジネンジョ、ダイジョの5種類があります。ツクネイモはヤマトイモの仲間です。

ヤマイモの栄養素は、表1に示す通り。
 
ヤマイモの栄養素・カロリー

(表1)ヤマイモの栄養素・エネルギー


ナガイモ(ナガイモ)以外は100kcal程度のエネルギーを持っていますが、ナガイモ(ナガイモ)だけは、64kcalです。その他、多く含む栄養素は、食物繊維は1.0~2.5g、カリウムは430~590mgです(数値はいずれも「可食部100gあたり」)。

ナガイモ(ナガイモ)は生と水煮を比べてみても、大きな差は見られません。加熱をしても栄養素は保たれると考えて大丈夫です。

食べ方としては、すりおろして「とろろいも」にしてもおいしいですし、お好み焼に混ぜてもふっくらしておいしいですね。すりおろしたり一口大に切って揚げ物にしたり、短冊切りや千切りにしたものを酢の物にしたり、しょうゆとおかかをかけるだけでもおいしいです。また、蒸してもおいしくいただけます。大きめにカットしたものは、茶わん蒸しにも合いますね(茶わん蒸しに入っているのを見つけると、得した気分になるのは筆者だけでしょうか?)。
 

ヤマイモに似たグロリオサの球根・過去の誤食事故と死亡例

根がよく似ているグロリオサの花。とても華麗な花ですので、見たことがある人も多いのでは?

根がよく似ているグロリオサの花。とても華麗な花ですので、見たことがある人も多いのでは?


グロリオサとは、ユリの一種(キツネユリ)です。真っ赤できれいな花ですので、公園などで見かけたことがある人も多いのではないでしょうか。自宅で育てているという人も少なくないかもしれませんね。そんなきれいな花を咲かせるグロリオサですが、球根の見た目が食用のヤマイモとよく似ており、誤食をしてしまう事故が時折、起こります。グロリオサの球根にはアルカロイド類の「コルヒチン」という成分が多く含まれているため、誤食すると中毒症状を起こしてしまいます。

コルヒチン食中毒の主な症状は、嘔吐、下痢などの消化器症状、呼吸困難、急性腎不全、出血、脱毛などです。死亡例も多く見られます。

グロリオサは、寒冷地では屋外での越冬が難しいため、冬期は掘り起こして球根を保存する必要があります。食中毒の原因は、この状態のものをヤマイモと誤って食してしまうパターンがほとんどです。

グロリオサが自生しているスリランカやインドなどでは、グロリオサの球根が自殺目的に利用されてしまった報告例もあります。グロリオサの球根は身近に入手できるため危険性を感じにくいと思いますが、実際には簡単に致死量に至る毒性を持っているため、取り扱いはくれぐれも慎重に行ってください。

家庭では、食用のヤマイモとグロリオサの球根が混乱しないよう、それぞれをキッチンと倉庫などにしっかり分けて保存しましょう。また、グロリオサの球根のほうは認知障害を持つ人や小さな子どもなどの手が届かないところに保存することも重要です。ヤマイモとグロリオサを家庭で育てる場合も、場所が近いと混乱してしまいますので、しっかりと離しましょう。
 

ヤマイモとグロリオサの見分け方……ひげ根と粘り気の有無も確認を

ヤマイモと似たグロリオサの球根。ひげ根も粘り気もありません

ヤマイモと似たグロリオサの球根。ひげ根も粘り気もありません


生の状態のヤマイモには「ひげ根」と呼ばれる根が生えていますが、グロリオサの球根にはこの「ひげ根」がなく全体的につるつるしています。

日本における誤食はすりおろしたグロリオサ球根の生食によるものが多いのですが、グロリオサの球根をすりおろしても「粘り気」は出ません。「知り合いからもらったヤマイモをすりおろしてみたが粘り気が出ない」という場合は、残念ですが、食べないほうがよいでしょう。知り合いの方にもすぐ連絡をして教えて差し上げたほうがよいかもしれません。
 

グロリオサ食中毒の対処法・治療法

グロリオサを誤食して中毒症状が出てしまった場合、特異的な治療法はありません。誤食をしてしまったことに気づいた場合は、できるだけ早期に病院で診察を受けて、内視鏡的に除去する以外、対処方法がありません。
 

誤食を防ぐための心構え・注意点

先述の繰り返しになりますが、
 
  1. ヤマイモやグロリオサを一緒に育てる場合は、離して植える
  2. ヤマイモとグロリオサの球根の保存場所は離しておく
  3. 特にジネンジョなど、自生しているヤマイモを食べる際には、少しでもすりおろしてみて「粘り気」があるかどうかを確認する

などに、注意してください。

グロリオサの球根は死亡事故も多く、ヤマイモもグロリオサの球根も「身近な場所」に普通にあるため取り違えてしまい、食中毒事故も起こりやすいです。ヤマイモを食べる際には、食の安全に注意しながら、おいしくいただきましょう。
 
■参考
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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