アルコール消毒が効くのはなぜ?効くウイルス・効かないウイルス

【薬学部教授が解説】コロナ禍で一般的になったアルコール消毒。店舗の入り口には手指消毒用のアルコールが置かれていますし、携帯用アルコールスプレーを持ち歩いている方も多いと思います。正確には「エタノール消毒」ですが、なぜエタノールはコロナウイルスに効くのでしょうか? エタノールで消毒できる仕組み、人体には害がないのに菌やウイルスに効く理由を解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

アルコール消毒=エタノール消毒? アルコールとエタノールの違い

アルコール消毒はなぜ効くのか

コロナで身近になったアルコール消毒。なぜ人に無害なアルコールで消毒できるのでしょうか?

人間が飲めば、気持ちよくほろ酔いになることもできるお酒。お酒の主成分はアルコールの一種であるエタノールです。エタノールは「エチルアルコール」とも言います。一般的に「アルコール」という場合、エタノールを指すと考えてよいでしょう。同じように、一般的に「アルコール消毒」と呼ばれているものは、正確には「エタノール消毒」です。アルコールとエタノールの違いを気にされる方がいるかもしれませんが、この2つは一般的には同じものです。以下では正確に、「エタノール消毒」と表記します。

コロナ禍の日常ですっかり身近になった「エタノール消毒」ですが、なぜ人体には無害なエタノールで消毒ができるのかを説明できる方は少ないかもしれません。今回は、エタノール消毒がなぜ菌やウイルスに有効なのか、その仕組みを解説します。
 

エタノールの性質・特徴と細胞の仕組み

水と油が入ったドレッシングを一生懸命振り混ぜても、すぐに分離してしまいます。頑張って振ったのに結局サラダにかかったのは油だけだった……という経験は、多くの人にあると思います。皆さんがよくご存じの通り、水と油は仲が悪く、混ざらない性質があります。一方でエタノールは水とも油とも仲が良く、どちらにも溶ける性質があるのです。誰とでも付き合える世渡り上手というところでしょうか。

そして、動植物問わず、この地球上の生物を構成している「細胞」を細胞たらしめているのは、「細胞膜」の存在です。家の中の各部屋が壁で仕切られているのと同じように、細胞膜で取り囲まれた部分が、一つ一つの細胞に相当するというわけです。そして、この細胞膜は、主に油でできています。一方、細胞どうしの間には、体液が満たされているわけですが、その主な成分は水です。つまり、水の中に、油の膜で取り囲まれた細胞が分布しているというのが生物の基本形です。

ちなみに、細菌は生き物です。自分で増殖して自分で生活できます。しかしウイルスは生き物ではありません。核酸やタンパク質が寄せ集まった、ただの構造体(いわば物質)にすぎません。たとえば、ウイルスが手に付着しても増えて害をもたらすことはありません。ただし私たちの体内に入った時には、私たちの細胞がウイルスを間違ってコピーして増やしてしまい、病気を引き起こしてしまうのです。つまり、ウイルスを増やしている真犯人は私たちだということになります。いずれにしても、細菌やウイルスは感染症の元になるので、それを排除するために、消毒薬が用いられることがあります。
 

アルコール消毒が効くウイルス・効かないウイルス

一方で、ウイルスにもいろいろな種類がありますが、大きく2分すると「エンベロープ」と呼ばれる細胞膜のような構造を持っているものと持っていないものに分けられます。

インフルエンザウイルスやコロナウイルスはエンベロープを持っています。そこで、エタノールを使うと、エタノールは水と油の両方になじみますから、ウイルスのエンベロープを溶かすことができます。つまり、インフルエンザウイルスやコロナウイルスを壊すことができるので、エタノールの使用がこれらのウイルスを消滅させるのに有効なのです。

一方、ノロウイルスはエンベロープを持っていません。なのでエタノールは効きません。
 

消毒に効果的なエタノールの濃度……濃すぎると逆効果?

みなさんが手指消毒をするときに用いるエタノールの濃度は70~80%が最適です。濃度が低いと効果が少ないのは何となく理解してもらえると思いますが、エタノールが濃ければ濃いほどよく効く気がするのにどうして100%のエタノールじゃだめなのか不思議に思いますよね。実は、90~100%のエタノールを使うと、脱水作用が強くて、細菌やウイルスに与えたとたんに、油の膜が固くなって、逆に溶けにくくなってしまうのです。いい感じで膜が溶け切ってくれるためには、エタノール濃度は高すぎないほうがいいのです。ですので、消毒を目的とするときは、エタノールの原液をほんの少し水で薄めて使った方が効果的なのです。
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