「年収と幸せ」は関係するの?
「年収1000万円」という言葉を聞いて、どのように思いますか?「年収1000万円くらいあれば、幸せになれるのに」と思う人や、「そもそも年収1000万円なんて無理。だから幸せになれないんだ……」と思っている人もいるかもしれません。
幸せの定義は、人それぞれ。お金がたくさんあること自体が幸せだと感じる人もいれば、高級なものを手に入れることで幸せを感じる人、お金とは関係なく一人でのんびりすることが幸せだという人もいるでしょう。
幸せとはどんなことかと一口ではいえませんが、もし生活するためのお金がほとんどなく、やりくりに不安があれば、心に余裕がなくなってしまうものです。そのため、一般的には「年収が1000万円くらいあれば、家計にゆとりができて、心もゆとりが生まれて、幸せになれるのではないか」と考える人が多いのではないでしょうか。
そこで今回は、年収別に「家計のゆとり」について見ていきましょう。金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査]」(2021年)の「生活設計策定の有無、家計全体のバランス評価、家計運営の評価」より、年収別に「家計運営の評価」をチェックしていきます。
年収1000万円以上で「家計にゆとりがある」のは何割?
収入について見ていくときに、家族と一緒に住んでいる人では、自分だけでなく、家族の収入も影響するので、条件をそろえるために、“一人暮らしの人のデータ”を見ていきます。年収別に、家計運営の4つの評価(思ったよりゆとりがある、思った通り、思ったより苦しい、意識していない)が、どんな割合になっているか、チェックしていきましょう(一部、筆者がデータを再計算して掲載しています)。
●年収300万円未満
思ったより、ゆとりのある家計運営ができた……6.2%
思ったような家計運営ができた……23.1%
思ったより、家計運営は苦しかった……36.6%
意識したことがない……34.0%
●年収300万~500万円未満
思ったより、ゆとりのある家計運営ができた……10.2%
思ったような家計運営ができた……28.1%
思ったより、家計運営は苦しかった……26.4%
意識したことがない……35.4%
●年収500万~750万円未満
思ったより、ゆとりのある家計運営ができた……17.0%
思ったような家計運営ができた……27.5%
思ったより、家計運営は苦しかった……18.0%
意識したことがない……37.5%
●年収750万~1000万円未満
思ったより、ゆとりのある家計運営ができた……33.3%
思ったような家計運営ができた……25.5%
思ったより、家計運営は苦しかった……11.8%
意識したことがない……29.4%
●年収1000万円以上
思ったより、ゆとりのある家計運営ができた……36.4%★
思ったような家計運営ができた……21.2%
思ったより、家計運営は苦しかった……9.1%★
意識したことがない……33.3%
いかがでしょうか。年収別では、一番上の「思ったより、ゆとりのある家計運営ができた」が年収が上がるにつれて増えていることがわかります。
では、実際に年収1000万円以上のケースを具体的に見てみましょう。★印に注目してください。
意外なことに、「思ったより、ゆとりのある家計運営ができた」割合は、36.4%と、3人に1人の割合と、非常に多くはありません。
一方で「思ったより、家計運営は苦しかった」という割合が、9.1%。他の年収の人に比べてこの割合が少ないとはいえ、それでも1割近くの人が「苦しかった」と答えているわけです。
一人暮らしなら、例えば子どもの大きな教育費を負担している人はいないでしょう。基本的には自分のためにお金を使っているケースが大多数だと思いますが、一人暮らしで年収1000万円以上でも、誰もが心も家計もゆとりがあって幸せを感じているわけではない、ということがわかりますね。
「家計運営に満足している」かは、年収に比例しない
さらに、「家計運営に満足している人」は、年収別にどれくらいなのかを見ていきます。「思ったより、ゆとりのある家計運営ができた」と「思ったような家計運営ができた」の両者を足したものを「家計運営に満足している人」として、計算してみました(一部、ガイド西山がデータを再計算して掲載しています)。
「家計運営に満足している人」
●年収300万円未満……29.3%
●年収300万~500万円未満……38.3%
●年収500万~750万円未満……44.5%
●年収750万~1000万円未満……58.8%★
●年収1000万円以上……57.6%★
★印を見てください。年収750万~1000万円未満の人は、58.8%と僅差ではありますが一番高い数値です。年収1000万円以上の人(57.6%)と、年収750万~1000万円未満の人(58.8%)の人と数値はほとんど変わらず、むしろ年収1000万円以上の人の方が低い数値です(ちなみに前回のデータでも、さらには前々回のデータでも、年収750万~1000万円未満の人がトップでした)。
“家計運営の満足度は、必ずしも年収に比例しない”ことがわかりますよね。
年収が増えると、たくさんお金も使うことが当たり前に?
ではなぜ、年収が高ければ高いほど、幸せに比例するわけではないのでしょうか。ガイド西山が感じることは、「人は慣れる生き物である」ということ。子どものときを思い返してみても、初めてのお小遣いで「100円」をもらったときは、きっと大喜びだったはずです。
ところが、100円を使うことに慣れてしまうと「もっとほしい」「もっとお金があれば他のものを買えるのに」と、200円、300円と、欲求がどんどん高まっていきます。
お金を使うことで新たな経験ができることは素晴らしいことですが、今あるお金に物足りなさを感じて、現状に満足できなくなってしまう危険性があります。
また、収入が増えていくにつれて、「せっかくだから、いろいろお金を使おう!」と支出も増えていくものです。収入アップのスピードよりも、支出アップのスピードの方が増してしまい、収入が高くなっても追いつかなくなってしまうことがよくあります。
収入が増えたとしても、満足感は増えず、貯蓄も思ったようにできなければ、「いざというときのお金」がなく、「今後の大きな支出」に対応することができず、不安感が高まっていくのではないでしょうか。
つまり、年収と支出はいたちごっこのような関係になり、「年収が高ければ高いほど、幸せになれる」とは、決していえないのです。
いかがでしょうか。「年収が高い人はいいな」と、うらやましく思っていたとしても、そこから何も始まりません。まずは、現状の収入に対してのお金の使い方を見直してみるといいでしょう。自分の今後のライフプランを考え、必要なお金に対して貯蓄などで備えつつ、無駄な支出はそぎ落とし、同時に自己研鑽などで収入アップを目指してみる。また、家族や友人など、大切にしたい人と大切な時間を過ごすことも、お金の多い少ないとはまた別の軸で、価値を感じるものです。
年収の多い少ない以外のところに注力して考えることが、自分にとっての幸せに、少しずつ近づいていけるのではないでしょうか。