高校受験

問題の「ゼロ限補習」… 地方の公立高校に多い「自称進学校」とは?無駄な指導のオンパレード!?

進学校の中でも、生徒の学力レベルを超えて過度に大学受験を意識した指導がされている高校が「自称進学校」と呼ばれ、最近注目を浴びています。特に地方の公立高校に多い自称進学校。その問題点について考察します。

伊藤 敏雄

執筆者:伊藤 敏雄

学習・受験ガイド

自称進学校とは? 「国公立大学至上主義」がもたらす弊害

自称進学校とは、地方の公立高校に多い「是が非でも国公立大学」という半ば洗脳に近い進路指導がなされている地域のトップ校

自称進学校とは、地方の公立高校に多い「是が非でも国公立大学」という、半ば洗脳に近い進路指導がなされている学校

最近「自称進学校」という言葉をよく耳にするようになりました。

自称進学校とは、地方の公立高校に多い、過剰に大学受験を意識した指導が定番の地域トップ校や二番手校のことです。東大合格者ランキングで常に上位にいるような進学校ではないのですが、上位入りを目指してか、大量の課題や補習で生徒を拘束したり、塾や予備校の存在を否定したりといった指導が目立つ高校のことです。
 
話題になった例としては、九州の公立高校の「ゼロ限補習」。6~7時間授業では足りないため、平日の朝1時間目が始まる前に補習をおこなうことが定番化しているのです。

また、大量の課題が出されるのも特徴です。A3で両面印刷された数学のプリントが何枚も出る高校もあれば、毎週のように英単語の小テストがあるところもあります。
 
過度な指導という批判がある一方で、こうした方針は、塾や予備校に通わせる必要がないので助かるという保護者の歓迎の声があることも確かです。本当のところはどうなのでしょうか。
 

生徒の受験マインドとの乖離がある、自称進学校の進路指導

進学校の中でも生徒の半数以上が国公立大学を目指すような学校なら、極端な進路指導もそれほど問題にはならないかもしれません。

しかし自称進学校の多くの先生は、国公立大学の合格実績をかせぐという目的のために、生徒が志望する地元の私立大学ではなく、地方の国公立大学をすすめてきます。生徒の主体性よりも高校の合格実績が優先され、「是が非でも国公立大学」という半ば洗脳に近い進路指導がなされているというわけです。
 
特に問題なのは、上位1~3割程度の生徒しか国公立大学を目指さない高校です。「是が非でも国公立大学を目指せ」という教師と「私立大学でもいい」と思っている生徒のマインドの乖離が問題になっています。
 
こうした自称進学校では、文系私大志望の生徒にも、受験に必要のない数学を履修させるといった、学習意欲と進路指導との間におけるミスマッチも起こっています。

ある高校では、私立大学だけを受験する生徒にも出題傾向の違う共通テストの過去問を解かせていて、生徒から不満の声が出たそうです。国公立大学を受験する生徒のモチベーションを下げないために、すでに推薦などで合格して、もう共通テストを受験する必要がない生徒にも受験を強制する高校も少なくありません。
 
このように自称進学校では、生徒にとって無駄な補習や進路指導が問題となっているケースが多くみられるのです。
 

自称進学校では“オーバースペック”な教材を採用

また、自称進学校に共通しているのが、単語帳や参考書・問題集などが生徒の学力レベルに合っていない、いわばオーバースペックな教材を採用している点。典型的なのが、共通テスト対策のための単語帳です。
 
共通テストや地方の国立大学では、英語はそれほど難しい単語は出題されず、必須となる英単語の量もそれほど多くありません。しかし多くの自称進学校では、早稲田や慶応など難関大で要求される単語量の単語帳を採用しているのです。
 
また、表紙の色で難易度が分かれていて受験生なら誰もが知っている数学の有名な参考書についても、そもそも自称進学校では発展・応用までの数学力を必要とする生徒はそれほど多くないにも関わらず、オーバースペックな教材として問題となっています。基礎的な問題から中堅私大、地方国立大、旧帝大レベルまで網羅されている良い参考書ではありますが、自称進学校では結果的に解くことができない問題の方が多くなってしまい、こなせない生徒が続出しているのです。

生徒の学力や志望校に見合わないこのような指導では、時間を浪費するだけでなく、本番を直前にして自信を失うことにもつながりかねません。
 

自称進学校では「指定校枠」をあえて使わない

国公立大学では総合型・学校推薦型選抜で入学する生徒が12.6~29.9%となっていますが、私立大学では58.2%にも上ります。また、学部によっては8割以上が推薦で入学してくる私立大学もあります。

しかし自称進学校では、とにかく「一般選抜」で合格することが至上命令となっているのです。そのため、推薦の指定校枠が極端に少ないか、あってもあえて使わないことが定番です。
 
総合型・学校推薦型選抜と一般選抜では、どちらが優秀な受験生が集まりやすいかは一概にはいえません。しかし大学関係者の話では、一般選抜でも合格するような学力が高い受験生は、総合型・学校推薦型選抜で合格しても入学後に好成績を維持する子が多いとされています。それでも難関大や理系の大学・学部ほど、総合型・学校推薦型選抜ではなく、一般選抜で多くの学生を取る傾向があります。これは大学に入ってから、講義や演習についてこられるだけの基礎学力が求められるからです。
 
とはいえ自称進学校では、難関大を志望する生徒や理系の生徒の割合がそれほど高くなく、進路指導の方針とのミスマッチが問題となっています。条件付きにはなりますが、総合型・学校推薦型選抜を上手に活用することで、進路指導がうまくいくケースも少なくないはずです。
 

自称進学校の無理・無駄な指導に煩わされないために

では、自称進学校の無理・無駄な指導に煩わされないためにはどうしたらよいでしょうか。

まずは、高校受験の段階で志望校をよく検討することです。特に、在校生や卒業生の口コミは重要です。宿題の量はどれくらいか、補習はあるのか、大学の推薦枠がどれくらいあるのかなど、細かい情報を手に入れるようにしましょう。
 
もちろん、宿題も補習もガンガンやっても大丈夫という生徒なら問題ありません。しかし、勉強の量を重視する指導方針の高校についていけないようなら、志望校選びを慎重に行う必要があるでしょう。
 
また、意中の高校であっても、ギリギリ合格するレベルなのか、学力的に少し余裕があって入学できるレベルなのかによっても対策は異なります。よく言われるように、高校受験は合格することが目的ではありません。合格後の高校生活のことも意識して志望校を選ぶといいでしょう。


■参考資料
令和3年度国公私立大学・短期大学入学者選抜実施状況の概要
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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