脳科学・脳の健康

脳科学的に異議あり!私が「脳の活性化」ブームに違和感を覚えるワケ

【脳科学者が解説】脳を活性化させる方法として、食べ物、トレーニング、即効性のあるツボなどさまざまなものが紹介されています。しかし「脳の活性化」という言葉自体、実は脳科学の知識があれば、非常におかしな言葉なのです。また、「活性化」することが、必ずしも脳にいい状態とも思えません。その理由をわかりやすく解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

脳科学には存在しない「脳の活性化」という造語

脳の活性化とは

「脳が活性化する方法」を知りたい人は多いようです。しかしそもそも脳科学に「脳の活性化」という言葉はないのです

今から30年以上前、私が脳の研究に取り組み始めたころ、「脳の活性化」といった言い回しは誰も使っていませんでした。しかし今はテレビや雑誌、インターネットなど、多くの健康情報の中で「脳を活性化しましょう」という表現を目にします。

振り返ってみると、このような表現が広く使われ始めたのは、15年程前に「脳トレ」が流行語になってからと思います。「ゲームや簡単な音読や計算などの繰り返しによって、頭を使うことが脳の機能低下を防ぐことにつながる」というアイデアに基づいて、いろいろな商品が開発されブームとなりました。つまり、「脳の活性化」は、脳科学的な専門用語ではなく、ビジネス上の戦略として生み出された造語と言えるでしょう。

とはいえ、脳トレのゲームなどで健康を害するなど、マイナスになることもあまりないでしょうから、それほど目くじらをたてる必要はありません。一般の方が「何となくのイメージ」で「脳が活性化する」と言ってもかまわない気がします。しかし専門家であるはずの医師や研究者が「○○を食べたり、△△を行ったりして、脳を活性化しましょう」などと安易に言うのは、非常にまずいと私は思います。

今回は、「脳の活性化」という言葉を使うべきではないと私が考える理由を説明します。
 

「脳の活性化」という表現に感じる、「ポジティブ」な印象操作

まず私がもっとも気になるのは、「活性化」という表現が作為的だということです。
 
これまでに「脳トレ」や「脳の活性化」を裏付ける科学的データ(と説明されているもの。実際は違う)は、たいていがfMRIなどの脳スキャンによって得られた画像です。「fMRIの限界と欠点…説得力がある脳画像、時に誤った使われ方も」で詳しく解説したように、fMRIは、脳の神経細胞(ニューロン)の電気的活動を直接見ているわけではなく、活動に伴う神経代謝や脳血流量の変化を間接的にとらえているに過ぎません。もっと正確に言えば、fMRI信号が大きくなったことで分かるのは「酸素と結合したヘモグロビンの量が増えているだろう」ということだけです。また、酸素と結合したヘモグロビンの量が増えるときには、その周辺に分布する細胞が酸素を消費してエネルギーを使っていると考えられますから、「酸素もしくはエネルギーが消費されている」と言い換えることもできます。
 
このことを踏まえたうえで、音読をしたり単純な計算をしたときに観察されたfMRI信号を画像化して示し、「ほら、脳が活性化しているでしょ?」と説明してもいいのでしょうか? 何かおかしいですよね。
 
しかし、実際のデータが示す通りに正確な言い方をして、「あなたの脳ではたくさんのエネルギーが消費されました!」と言われても、喜ぶ方はあまりいないでしょう。「もしかしたら酸欠になって脳が障害されるかも……」と心配になって、「音読や計算は危険」と感じてしまう方すらいるかもしれません。ところがこれを「脳が活性化されている」と言い換えただけで、良い印象に変わります。「活性化=元気に働いている」という感じがするからです。つまり、この表現を最初に思いついた方は、画像を見た人が「いいね」と感じるように誘導できる言葉を選んで、あえて言い換えたのでしょう。
 
脳の局所で酸素がたくさん消費されることは、必ずしも良いことは限りません。むしろ悪影響をもたらすこともあり得ます。たとえば、あまりやり慣れていないことを行ったときには、脳の多くの場所で酸素が消費され、疲れを感じることもあるでしょう。fMRI信号がたくさん増えた画像は、脳が過活動状態に陥っていることを反映しているかもしれません。一方で、fMRI信号が変化しないことは、脳が活性化していない悪い状態ではなく、精神が安定した、良い状態を反映しているかもしれません。

fMRI信号の変化が何を意味しているかが本当はわからないのに、それを「活性化」という言葉を使って、よいものであると印象付けるのは、「印象操作」です。少し強い言葉で言うなら「詐欺まがい」の表現ですし、フェアではないと私は思います。医薬品の臨床試験や実験科学の世界なら、「データ捏造」と疑われても仕方ないようなことが、一般社会で許されていいのでしょうか?
 
私自身も以前、あるテレビ番組から脳科学にまつわる実験として、「○○という結論にしたいので、△△のような実験をやってくれますか?」と打診を受けたことがあります。端的に言ってしまうと結論ありきで、それに辻褄が合いそうな素材を用意してほしいということです。私は協力を断りました。
 
すべての脳トレがそうだとは思いたくありませんが、お金儲けや話題性ばかりが目的になり、そのために科学的な研究データが都合よく利用されてしまうのは、とても悲しいことです。研究者が努力を重ねて取り組んで得た成果を、軽んじるようなことは止めてほしいと私は思います。
 

「脳の活性化」でよく使われるfMRI画像の数字トリック

「脳の活性化」を疑うべき理由は他にもあります。
 
何か作業を行ったときに得られるfMRIの画像データに示されているのは、その作業を行う前後での「変化の割合(変化率)」だけです。
fMRI,神経活動,血流量

左右どちらの場合が、より「活性化した」と言えるだろうか?

上図のような場合、血流量の増加分は左右でほとんど同じですが、作業前の血流レベルが違うために、左では変化率が400%増、右では75%増と計算されます。変化率だけから、左の方がより脳が活性化したと言ってよいのでしょうか。

数字のトリックにひっかからないように、注意深くデータを解釈する必要があります。
 

神経活動の減少もまた正しい脳の働き……複雑さについて正しく理解を

脳科学の視点で正確に考えるならば、「必要に応じて神経の活動を抑える」こともまた、重要な脳の働きです。たとえば、脳の神経回路が過剰に興奮しているときに、抑制性神経がその活動を制御し、神経活動が低下した場合も、「脳の活性化」の一側面を表していると考えるべきではないでしょうか。

fMRIの信号が増えたら活性化、増えていなければ活性化していないと決めつけるのは、正しくありません。脳の働きを正しく知って、たくさんの情報と上手につきあっていただければと思います。
【編集部からのお知らせ】
・「20代男性俳優」について、アンケート(2024/5/31まで)を実施中です!(目安所要時間5分)

※抽選で30名にAmazonギフト券1000円分プレゼント
※回答上限に達し次第、予定より早く回答を締め切る場合があります
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※当サイトにおける医師・医療従事者等による情報の提供は、診断・治療行為ではありません。診断・治療を必要とする方は、適切な医療機関での受診をおすすめいたします。記事内容は執筆者個人の見解によるものであり、全ての方への有効性を保証するものではありません。当サイトで提供する情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当社、各ガイド、その他当社と契約した情報提供者は一切の責任を負いかねます。
免責事項

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます