脳科学・脳の健康

脳卒中の早期発見にも有効!CT・MRIなどの脳画像検査技術

【脳科学者が解説】脳の中の健康状態や病変を知るために、かつては大がかりな外科手術をするしかありませんでした。しかし現在では、一般的な健康診断にも「脳ドック」などの検診コースが加わり、レントゲンやCT、MRIなどで、手軽に脳の中の様子を知ることができます。脳卒中や脳萎縮の早期発見にも役立つ、脳画像検査技術の魅力をご紹介します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

レントゲン・CT・MRI…脳画像検査技術で可能になった脳検査

CTやMRIによる脳検査

撮影技術の発達により、外科手術をしなくても脳の中の状態を見ることができるようになりました

大脳の機能局在は、1860~1870年代にブローカやウェルニッケによる失語症患者の研究に端を発し、いろいろな脳損傷患者の症例研究から本格的に解明され始めました。また、1930年代ごろからは、ペンフィールドらによる外科的介入研究も大きな助けとなりました。しかし、脳損傷患者の症例を集めたり、おおがかりな外科手術を行わなければならないのは、たいへんです。調べられることにも限界があります。そして、何より調査対象となるのが主に病気にかかった方ですので、このような研究を続けていても、健康な人の脳がどうなっているのか、本当のところはわかりませんでした。

この問題点を解決したのが、近年めざましい進歩をとげた「脳画像検査技術」です。

今では、一般的な健康診断にも「脳ドック」という検診コースが設けられていますので、CT検査やMRI検査を受けたことがあるという方も少なくないでしょう。これらは脳卒中や脳萎縮といった脳疾患リスクの早期発見に役立ちますので、まだ受けたことがないという方には、機会があれば一度受けてみることをお勧めします。

今回は、脳画像検査技術の素晴らしさと、それぞれの違い、メリット・デメリットについて解説します。
 

様々な脳画像検査の種類・メリット…体への負担が少なさも魅力

CTやMRIが優れているのは、外科手術のような全身麻酔をかける必要もなく、もちろん頭蓋骨を開いて脳を直接覗き見なくても、脳の内部まで透かして調べることができる点です。また、健康な方でも受けられるので、普段私たちが何かをしているときに脳のどこか働いているかといった、かなり基礎的な脳研究にも利用できるようになりました。

よく知られているのはCTやMRIですが、これまでに確立されてきた脳画像検査技術はこれらだけではありません。脳血管撮影(DSA)、SPECT、PET、光トポグラフィー検査などがあります。それぞれに特徴があり、分かることと分からないことが違いますので、疑われる疾患などにあわせて、検査方法を組み合わせていくことになります。

今回は、最も基本的なCTとMRIに焦点をあて、測定原理とメリット・デメリットの基本をわかりやすく解説します。
 

そもそも体を透かして撮影できるのはなぜ? レントゲンが見つけたX線とは

今では当たり前のように行われている画像検査の数々ですが、どうして体を切り開くことなく、中を透かして見ることができるのでしょうか。考えてみれば不思議ですね。多くの方がご存知だと思いますが、その源流となる大発見をしたのは、1901年の第1回ノーベル物理学賞 を受賞したドイツの物理学者ヴィルヘルム・コンラート・レントゲンです。

1895年にレントゲンは、放電管を用いて「陰極線」というものの研究をしている時に偶然、陰極線とは異なる未知の線が放電管から出ていることに気づきました。そして、目に見えない謎の線という意味で「X線」と名付けられたこの放射線には、面白い性質がありました。可視光線を通さない紙や木は透過しますが、人の骨や鉛は透過しなかったのです。レントゲンは、試しに妻の手を写真乾板の上に置き、15分間X線を照射したところ、手の骨と金属の結婚指輪だけが写った写真が撮れました。人体を透かして見た最初の「X線写真(レントゲン写真)」でした。面白い写真が撮れるということで、レントゲンはX線の写真館を開店して、人気を博したそうです。

その後、この「物を透かして見ることができる」という画期的な技術の重要性に気づき、X線は医学に応用されることになりました。具体的には、肺や心臓の異常を見つけるための「胸部X線検査(レントゲン検査)」や、バリウムを飲んでから腹部にX線を照射して食道や胃の異常を見つける「胃X線検査」が確立されました。私自身も毎年の人間ドックでお世話になっています。

X線は、医学以外の分野でも役立ち、金属など異物を見つける空港の手荷物検査や、ツタンカーメンの黄金マスクなど歴史遺産の分析にも使われました。

X線が物体を透過できるかどうかは、それを構成する原子の大きさや、密度や厚みによって決まります。私たちの体は主に、炭素(原子番号6)、水素(1)、酸素(8)、窒素(7)など、比較的小さな原子が集まってできていますが、骨は原子番号20のカルシウムを含んでいるので、X線を通しにくいのです。胃の検査に使われるバリウム(56)や、金属の鉄(26)などもX線を通しにくいので、影として写真に現れるのです。
 

脳検査におけるCT検査……血腫・脳内出血を見つけるのが得意

X線写真の技術は画期的なものでしたが、細かい部分の判別はX線写真だけでは不十分です。脳内出血の有無などをX線写真だけで正確に知ることはできません。そこで、X線を用いて得られた多数の画像データをコンピュータに蓄積し再構築することで、組織中の「断面」の状態を画像化できるようになった技術が「CT(Computed Tomography、コンピュータ断層撮影)」です。

CT検査は、非常に短い検査時間で、体への負担もなく、脳内の様子を調べることができます。特に血のかたまりである「血腫」が白くはっきりと映りますので、脳内出血があることを確かめるには最適です。

しかし、放射線を浴びる量が多いことから頻繁には行わない方がよいこと、また、頭部CTにおいては脳底部分の検査はやや苦手で、小さな病変は見つけることができません。詳しくは「頭部CT検査とは…レントゲンとの違い・メリット・デメリット」をご覧ください。
 

脳検査におけるMRI検査……がん・脳梗塞の発見の他、脳動脈瘤の経過観察も

MRIはX線やCTとは全く違った方法で、体を傷つけることなく内部を見ることができます。

放射線を使いませんので、その健康被害を心配する必要がなく、がんや脳梗塞によって細胞が腫脹した場所を見つけることができます。CTよりも細かく見ることができますし、CTではっきりわからない脳梗塞も簡単に見つけることができます。脳動脈瘤の経過観察などにも使えますし、CTが苦手とする頭蓋骨近辺の病変も検査できる点も魅力です。

検査には10~20分ほどの時間がかかるほか、ペースメーカーなどの金属が体の中に入っている人は検査を受けられないといった制限もありますが、日々技術は進歩しています。詳しくは「頭部MRI検査でわかること…CTとの違い・メリット・デメリット」をご覧ください。

かつて脳の中を調べるには頭蓋骨を開いてみるしかなかった時代の人々から見れば、まるで魔法のような技術ですね。こうした技術が使える現代の私たちは、そのメリットを活かして、健康維持に役立てていきたいものです。
 
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