20年以上小学校の学級担任を務め、1000人近くの子どもや保護者と接してきた鈴木邦明がアドバイスします。 ■相談者
はじめさん(仮名)/男性 45歳・自営業
家族構成:本人(45歳)・妻(45歳)・長男(8歳)
■相談内容
息子は近所に住む子たちと一緒に集団登校をし、帰りは同学年の友だちと帰ってきます。ある日、帰ってきた息子が泣いていたと思ったら、頭部から出血が。友だちに話を聞くと知らない上級生に叩かれたとのこと。
学校に電話をすると担任の先生はクラブ活動の指導中だったため、事故の内容と病院名、連絡先を伝言しておいたのですが、折り返しの連絡はありませんでした。
後日ようやく連絡がついたものの、加害者の上級生のことを聞いても「個人情報のため教えられない」とのこと。先生に相談のアポイントを取ろうとしても「授業中やクラブ活動の指導中」と明らかに避けられてしまい……。以前は連絡帳に言葉での返信があったのですが、事件後は「◯」や「△」などマークだけの返信となってしまい、どう理解したらいいのやら。
先生は「学校外で起きたことは、当事者同士で解決しろ」というスタンス。ようやく分かった加害児童の保護者は、困ったタイプの親で詫びてくることもありません。このような状況で先生に当事者意識をもって対応してもらえないことに、不満を抱くのは間違っていますか。
Q. “登下校中”の子ども間のトラブルは法的にも「学校の責任外」!?
A. ご相談いただきありがとうございます。お子さんがケガをした上に、学校がきちんと対応してくれないことによる精神的な辛さもあるのではと思います。こういった場合、学校によっては、加害者に対して状況を聞いたり、加害者の保護者へ連絡をしたりしてくれる場合もあります。ただ一方で「学校外のことなので」という理由から、「教員が積極的に関わることではない」と判断して関わってもらえないこともあるでしょう。
学校では、トラブルが起こった状況によって対応が違うということがあります。それは「学校教育活動」にあたる部分か、そうではないのかというところで線引きされます。校門を入ってから出るまでの時間は、休み時間なども含めて全て「学校教育活動」の時間となります。遠足や社会科見学などは校外での活動ですが、もちろん「学校教育活動」となります。
しかし、少し分かりにくいのが「登下校」です。交通事故などにあった場合は保険金が出ますし、教員が登下校指導などをしている場合もあります。ただ法的には、登下校は「保護者の責任」となっています。そのため授業中や休み時間に起こったトラブルと、登下校中に起こったことでは学校の対応に違いがでることもあるのです。
判例などでは、登下校中のトラブルでも学校の活動が原因とされる場合は、学校に責任が問われたということもあります。下校中、クラス内におけるいじめの関係の中でトラブルが発生し、ケガが生じたなどの場合です。
「放課後」の遊びの時間などのトラブルに関しては、完全に学校教育活動ではないため、学校は関わらないことが多いでしょう。ただしその場合も、登下校の例で書いたようにいじめなど学校における関係が主原因とされる場合は、関与することもあります。ただ基本的には学校外のことなので、関与しないことが多いです。
Q. 加害者の児童名は「個人情報」のため学校から教えてもらえないのか
A. 加害者の児童名などを学校が「個人情報のため教えられない」というのは、少し違うのではないでしょうか。ケガをした子どもやその保護者から見ると、加害者の名前を聞くことは大事なことでしょう。謝罪を求めたり、場合によっては治療費や慰謝料などを求めたりすることもあります。ただ難しいのが「どこで」「どのような関係において」起こったのかということです。例えば、放課後の遊びの時間や休日の運動の習い事などのトラブルの場合、学校は関与しないことが予想できます。登下校の場合も、基本的な責任は保護者にあることになり「学校は関係がないので教えられない」と伝えられる可能性はあります。
また学校外でのトラブルの場合、誰がやったことなのかが分かりにくいということはあるでしょう。学校内のことであれば、たくさんの子どもがいる空間なので、子どもたちから聞き出すことにより、誰がやったことなのかが分かることがほとんどです。しかし学校外のことは状況を調べられない場合もあり、学校も「分からない」とは言いにくく、「個人情報のため」という理由付けで教えない、教えられないということもあるのかもしれません。
Q. 子ども同士でありがち!? すり合わない被害者の話と加害者の言い分
A. ケガの程度などにもよるのですが、加害者の子どもが自分からトラブルのことを親に伝えることは少ないのではと想像します。伝えれば怒られることが多いからです。これは子どもだけではなく、大人でも同じではないでしょうか。加害者が自分から事故の状況などをしっかりと伝えられなかったとしても、そのこと自体を大きく問題にすることはしない方がいいのではと思います。また、状況を少し自分の都合のいいように話してしまうようなケースも同様です。
私は小学校の学級担任として子どものトラブルに関わる際、被害者と加害者の話が食い違うということが起こり得ると頭におきながら話を聞くようにしていました。両者から別々に話を聞き、それをすり合わせて、できる限り真実に近いストーリーを作るということが大切だと考えていました。
Q. 学校に対応を求めるのは間違っている?
A. 学校が加害者のことを教えてくれない場合、保護者のつながりの中で、相手を特定して連絡をすることなどが考えられます。また、ケガがひどい、脅してお金を巻き上げるといった状況の場合は、警察や地域の民生委員などに連絡するというやり方もあります。最終的には裁判を起こすということもあり得ます。私は公立小学校で22年間教員をしていましたが、親が弁護士を伴って校長室に来たこと、また「状況によっては法的措置を取らせてもらいます」と伝えられたことも、数は少ないもののあります。
学校はなるべく穏便に収めたいという思いがあります。しかし子ども同士のトラブルであっても、ぶったり、蹴ったりすれば「暴行(怪我のない場合)」「傷害(怪我がある場合)」です。もの隠しなどは「窃盗」。お金を巻き上げれば「恐喝」です。社会での一般的なルールで考えれば、被害者が泣き寝入りするというのは違っていると私は思います。
加害者にとっても、良いこと悪いことの分別がつかずに大人になっていくことは決して良いことではありません。物事をうやむやにせず、きちんとした形の解決までもっていくことは、被害者だけでなく、加害者にとっても意味のあることだと私は思います。