頼れる夫が、どこかみすぼらしく見えてきた?
「夫が22歳年上なんです。結婚したとき、私は25歳、夫は再婚で47歳でした。あのころの夫は頼れる人だったけど、あれから20年。今の夫とは一緒に歩きたくないと思ってしまう。私は冷たい人間なんだと思います」そう言うのはノブコさん(45歳)だ。夫は67歳になった。もともとは職場の上司と部下の関係で、父を早くに亡くしたノブコさんにとっては「優しくて頼りになる大人の男」だった。
「当時、夫は離婚したばかり。私とはときどき食事に行くような関係でしたが、男女の仲にはならなかった。私から猛烈にアプローチして1年がかりで口説き落としてつきあうようになったんです」
ノブコさんの妊娠を機に結婚。彼女は退職し、出産を経て別の会社に再就職した。夫は常に優しく、家事育児も率先してやってくれた。
「ここ5年くらいは私のほうが圧倒的に仕事が多忙。夫は今もまだ働いていますが、時間的には余裕があるので、家事はほぼ夫の担当になっています。ひとり娘は大学生になっていますが、夫は娘と私のためにスイーツまで作ってくれる。ありがたいとは思います」
感謝しつつも、ノブコさんは夫をすでに男として見られなくなって10年以上たつとこぼした。50代を越えてから夫は顔に大きなシミができるようになった。手の甲のしわ、薄くなってきた頭、すべてに「生理的な気持ち悪さ」を覚えるのだという。
「もちろん私だって老いていく。それはわかっているんですが、夫の劣化が激しい。それを実感すると苦痛で……。もともとあまり運動をしない人だからか、最近はすっかり背中も丸くなっている。スポーツジムに行くよう勧めても、あまり興味がないみたいで」
今どきの60代は元気な人も多い。ノブコさんの夫も特に持病があるわけでもなく健康体ではあるのだが、「見た目の劣化」に妻である彼女は納得できずにいるようだ。
「劣化」という言い方が失礼だとわかっている
人間に対して「劣化」という言い方は失礼だ。ノブコさんはそれもわかっている。わかった上であえて使っている。「シミだって今は美容皮膚科で対応してくれる。近くにそういう皮膚科があるので、夫に行くように勧めました。だけど行こうとしない。夫の劣化が嫌なのではなく、それに対して抗おうと努力しない夫に対して、私は敬意をもてないんだと思います」
エイジングケアは経済的にも時間的にも大変だ。だが、せめて最低限、加齢にあらがってほしいと妻が思うのは不思議ではない。ただ、67歳になって働きながら家事を担い、妻と娘のためにスイーツまで作る夫は、妻にそんなふうに思われているとは感じていないだろう。少し気の毒な気もするが……。
「夫はすっかり枯れ果てていますが、私は自分で言うのもヘンだけど今が女盛りだと思うんです。でも夫とはもちろん性的な関係もないし、ハグやキスもしない。したくないですし。それでも私の中で『女が悶々としている』気がする。夫とは手もつなぎたくないのに、誰かと抱き合いたい。そんな思いが強まっているんです」
自分の中に持て余すエネルギーを、どう発散すればいいのかノブコさんはわからなくなっている。ひとりで性的欲求を満たす習慣もない。彼女が家にいる時間は、ほとんど夫もいるのでひとりでエロティックな気分に浸ることもできないという。
「ふらふらと誰かになびいていきそうな自分が怖い。でも仕事上、私もそれなりに責任ある立場にいるし、社内で妙なことはしたくない。出会い系とか女性用風俗に興味もありますが、実際に知らない人に身も心も許せるとは思えないし。本当にこの数年、悶々としています」
代わりにせっせとジムに通っている。無駄な肉がそぎ落とされたが、心の中はすっきりしない。恋をしたいわけではないと最近、気づいた。
「性的欲求を安全に解消したいのかもしれません。そういう場所が女性にはあまりないし、あったとしてもまだまだハードルが高いですよね」
夫の“劣化”から見えてきた自分の欲望。女性たちにとっては大きな問題なのではないだろうか。