脳の大きさ・シワだけではない! 人間の脳と他の動物の脳の違い
他の動物の脳とは決定的に違う、人間の脳の特徴とは
「脳が大きいほど頭がよい?脳の大きさ・シワの多さと知性の関係」でも詳しく解説しましたが、私たち人間の脳は、他の動物よりも大きく、たくさんシワがあります。しかしこの2点だけが、人間の脳を特徴づける決定的な要素とは言えません。
人間の脳は他の動物と何が決定的に違うのか……。
それはずばり、「古い脳と新しい脳がバランスよく機能している」という点です。みなさんの頭の中には、はてなマークがたくさん浮かんでいるかと思いますので、人間の脳は何がすごいのか、丁寧に解説していきましょう。
人間の脳の4つの役目……高度な能力と創造性はどこからくるのか
私たちの脳は頭蓋骨の中にあります。大人の脳はだいたい1.2~1.5kgで、下の図のような形をしており、役目の違いからいくつかの部分に分けることができます。脳の役割の違いと聞くと「右脳」「左脳」という分け方を思い浮かべるかもしれませんが、脳全体の役目から考えると、脳は「脳幹」「大脳辺縁系」「大脳新皮質」「前頭前野」の4つに分けることができます。それぞれの特徴と役割を解説しましょう。 ■脳幹(のうかん)……生きるための脳
脳幹(のうかん)は、脳の中心にある部分です。脳全体を樹木に見立てると、脳を支える幹のように見えることから、「脳幹」と名付けられています。呼吸や心臓の動きなど生命維持に欠かせない体の働きをコントロールしています。事故などで脳幹が損なわれると、私たちは死んでしまいます。つまり脳幹は「生きるための脳」です。私たち人間と下等な動物の脳幹に大差はありません。
■大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)……たくましく生きるための脳
脳幹の上には「大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)」があります。大脳の端が折り畳まれてできた部分なので、そう名付けられています。外敵から自分の身を守るために必要な本能、感情、記憶などに関係しており、「たくましく生きるための脳」と言えます。
■大脳新皮質(だいのうしんひしつ)……うまく生きるための脳
大脳辺縁系を覆うように「大脳新皮質(だいのうしんひしつ)」があります。たくさんのシワがあり、果物の皮のように大脳の外表を覆っています。他の動物に比べて、私たち人間はこの大脳新皮質が大きく発達したため、高度な能力をもつことができたと考えられています。大脳新皮質は、「うまく生きるための脳」です。
大脳新皮質はさらに、「前頭葉(ぜんとうよう)」、「頭頂葉(とうちょうよう)」、「側頭葉(そくとうよう)」、「後頭葉(こうとうよう)」という4つの部分に分けられます。それぞれ異なった役割を担っていますが、その点については後続の記事で順次お話ししていきましょう。
■前頭前野(ぜんとうぜんや)……賢く生きるための脳
前頭葉の中でも特に前の方は「前頭前野(ぜんとうぜんや)」と呼ばれ、理性や思考、創造力などに関係しています。サルに比べて人間の方がおでこが広く前にでているのは、前頭前野がより大きく発達しているからです。前頭前野は「賢く生きるための脳」です。宗教、芸術、文化、科学など、私たち人間だけの高度な知的活動は、すべて前頭前野が生み出したものです。
脳のしくみを知り、人間らしい毎日の暮らしに活用を
動物の進化の過程で考えると、脳幹や大脳辺縁系は、比較的古い脳と言えます。厳しい環境で、弱肉強食の世界を生き延びるために、動物が獲得した機能です。今この地球上で生きている動物たちはみんな、こうした古い野性の脳をもっています。それは、これらの脳の働きが、天災や外敵と戦い、打ち勝つために必要なものだったことを物語っています。一方、大脳新皮質やそれに含まれる前頭前野は、新しい脳です。肉体的に強いだけでは限界があるため、より上手に生きていくために、哺乳動物が発達させた脳の働きです。とくに前頭前野は、サルから人間へと進化する過程で、大きく発達しました。
私たち人間はこうして、「生きているための脳」、「たくましく生きるための脳」、「うまく生きる脳」、「賢く生きるための脳」のすべてを手に入れることができました。しかも、これら4つの部分は、独立してバラバラに働いているわけではありません。全世界をつなぐインターネット網のように、脳の各所は神経細胞どうしがつくるネットワークによってつながっており、連携しながら働いています。
古い野性の脳と新しい理性の脳を上手に連携させることができるのが、私たち人間の優れたところなのです。でも、私たちは時々、それを生かしきれずに色々な問題を引き起こしますね。多くのトラブルや事件などは、突き詰めて考えると、脳の問題とも言えるかもしれません。毎日の暮らしをより楽しく生き生きとさせるためにも、人間を人間たらしめた「脳」について理解を深め、うまく使いこなす工夫をしていきましょう。