電話を切っていたら問題視されて
「小さな子をふたり抱えての共働きなので、在宅で仕事ができるのは助かります。今は私が週2回程度の出社、夫は3回くらいですかね。3年前に購入した家が都心から離れていることもあって出勤に1時間半はかかっていたので、往復3時間が浮いたのもありがたいです」ミキコさん(38歳)は結婚して9年、7歳と4歳の子がいる。家で仕事ができるようになって仕事の効率は上がったという。だが一方で17時までの勤務時間を越えても会社から連絡があるのは釈然としないとか。
「以前は会社を出たらもう連絡はなかった。在宅ワークのときは連絡は17時半までと、一応、部内で決めたはずなんですが、19時とか20時とかでも上司から『あの仕事、どうなった?』と電話がある。せめてメールにしてほしいと言ったんですが、『急いで確認したかったから』と。子どもたちをお風呂に入れて寝かせようとしているところにそういう電話があるので困っています……」
出社している人としていない人との間には、微妙な仕事への温度差があるのかもしれない。年末のある日、ミキコさんは携帯を切ってしまった。
「29、30日の夜だけですよ。でもその間、業務用のLINEグループでは私と連絡がつかないとちょっとした騒ぎになったみたいで、上司にあとから注意されました。私には携帯を切る自由もないのかとちょっとモヤモヤしましたね」
携帯を切る自由はもちろんあるはず。在宅ワークにはこんな落とし穴もあるのだ。
会社と家が近いばかりに
仕事をずっと続けるために、会社から近いところに住んでいるというマサヨさん(43歳)。同い年の夫との間に、12歳と6歳の子がいる。「私は自転車で10分、夫は電車を使いますがそれでも20分ほどで出勤できる距離。職住接近で家庭の時間を大事にしようと中古マンションを購入したんです。ところがコロナ禍、『家が近いから』という理由だけで職場から呼び出されることが多くなりました。週2回程度の出勤ですんでいるのはありがたいけど、呼び出される回数は格段に増えた。いっそ毎日出社すればと言われたりもしますが、うちは上の子が中学受験を控えているんです。感染のことも気になるし、この1年は特に子どものことだけを考えて暮らしていたいと思っていました」
当然、時間外の連絡も増えた。18時以降は困ると言ってあるのに、LINEならいいでしょとばかりに部署内の連絡が飛び交う。
「うちの部署、仲がいいんですよ(笑)。業務上のことだけではない連絡も飛び交っていて、朝になると遅くなったことを詫びながらせっせとLINEを打つ日々。かえって業務に差し障りがあるのではないかと思うこともあります。でもせっかくの和を乱したくないし」
男性と独身女性が多い部署で、子どものいる女性はふたりだけ。だがもうひとりは親と同居しているため、家事育児もサポートしてくれている。
「うちは夫が通常と同じように毎日出社しているので、在宅の私がほぼワンオペ状態。一時期よりは手がかからなくなったけど、それでも下の子はまだ就学前ですしね。毎日出社していたときは、会社を一歩出ればあとは家のことだけに集中できたけど、今はそういう区切りがない分、常に家庭と仕事に追いまくられているような気がします」
公私の区別がつけづらくなり、仕事をしているのに家事が気になったり、子どもの世話をしているのに仕事の連絡が来たりと「脳内がいっぱいいっぱい」になることも多々あるとマサヨさんは嘆く。
「どちらがいいのかわかりませんが、これからもうちの会社は在宅ワークを維持するらしいので、現状のままでは正直つらい。程度の問題だと思うんですよね。時間外の連絡は絶対にダメだ、嫌だと言っているわけでもない。一大事ならその日のうちに対応したほうがいい案件もありますし。どうしても今日中にという線引きをどこでするのか。それが問題だと思います」
「つながらない権利」、これからどうなっていくのだろうか。