「神は細部に宿る」の言葉どおりに
ドイツの建築家ミース・ファン・デル・ローエの言葉として有名な言葉だが、実はそれ以前にもアインシュタインやル・コルビジェ、ニーチェ等がその言葉を使っているようなので、本当の出処は謎のままだ。「God is in the details(神は細部に宿る)」
この言葉は「ディテールを疎かにしては全体の美しさを得ることはできない」、「ディテールのこだわりこそがその作品の本質を決める」といった意味で捉えられる。それは建築やインテリアデザインだけでなく、ファッションや料理にもあてはめることができるだろう。
一つひとつの素材、スパイスや調味料、調理方法、ソースだけでなく、食べる(提供される)順番、盛り付ける器に至るまでの場と時間を合わせたものが料理だ。
その言葉の一文字目「G」を取った「G:LINE」というビルトインキッチン家電ブランドをご存知だろうか。現在はドミノ式の1口ガスコンロ、2口ガスコンロ、2口IHクッキングヒーター、ビルトインオーブンというラインナップだが、その商品のどこにもブランドロゴが入っていない。
謎のベールに包まれているようなブランドだが、実はガスコンロ大手のリンナイ株式会社が手がけている。といっても、リンナイ株式会社のホームページを見ても通常の商品ラインナップにはG: LINEの商品群は見当たらない。通常商品とは別に、G: LINEの世界観を表現した専用のホームページを立ち上げ、そのブランディングは徹底している。
男心をくすぐるデザイン
ヨーロッパの機器によく見られるドミノ式と呼ばれる組み合わせが自由なクックトップ。G:LINEが最初に選んだアイテムが、このドミノ式のクックトップだ。1口と2口のガスコンロと2口のIHクッキングヒーターから選ぶことができる。1台だけでもいいし、2台、3台と組み合わせることができる。その並び順も自由なので、組み合わせ方は無限である。
ガスコンロはコントロール部以外の全面を鋳物の五徳で覆ったデザインが特徴だが、これは男心をくすぐる。コロナ禍でキッチンに立つことが増えた男性も多いが、そんな男性料理人が泣いて喜ぶようなデザインである。加えて五徳の下のプレートはガラスなのでさっと一拭きで汚れを落とすことができる。
使うことの楽しみだけでなく、キッチンで重要視される清掃面にも気を配ったクックトップである。日本製なので、もちろんSIセンサーが搭載され、他の機器類と同様の安全面は担保されている。魚焼きグリルの設定もないので、設置場所の自由度も高く、シンプルな納まりも期待できる。
待望の“国産”ビルトインオーブンが登場
G:LINEの展開が始まったのは4年前。3種類のクックトップで展開し、輸入キッチンやオーダーキッチンなど、デザインを重視するクライアントを中心に徐々に人気が高まってきた。そして2021年、満を辞してビルトインオーブンが市場に登場した。これまでビルトインオーブンといえば、輸入ブランドの独壇場であったが、ようやくその対抗馬となる商品が国産メーカーから出たのは嬉しい。まず目を引くのがそのフロントフェイスのデザインだ。ガラスとステンレスという素材に何も装飾を施さない潔いシンプルなデザインはどんなキッチン面材にも合わせることができるだろう。もちろんG:LINEの世界観が崩れることはない。
機能面でも申し分ない。今や家電オーブンでは当たり前となった過熱水蒸気によるスチーム調理ができる。加えて電子レンジ機能も搭載されているので、家電オーブンと同じ感覚で使うことができるだろう。
輸入ブランドのオーブンと比べて大きな違いはこれだけではない。私が注目するポイントはふたつ。ひとつは奥行き寸法が45センチであるということ。
輸入オーブンでは奥行きが60センチ必要だが、その奥行きの食器棚は深過ぎて使いづらいと感じることがあるが、45センチでいいということは、食器棚に無理なくビルトインできる。もちろん輸入のそれと比べると庫内寸法は小さくなるが、家電オーブンに慣れている我々にとっては大きな問題になるとは思えない。
そしてもうひとつは電源が100Vであるという点。いずれにしても単独回路にしなければならないので、ブレーカーの交換で済む話なのだが、リノベーション案件ではできるだけ既存の設備を使いたい場面があったりと、100Vであるメリットは大きいだろう。
キッチンの風景を整える
G:LINEのホームページを見ると次のような文言がある。まさに、私がAllAboutの記事でも、日頃の講演でもここ数年、頻繁に口にしている言葉である。キッチンに立っている時間はせいぜい3時間。残りの21時間はキッチンを外から眺めることになる。ましてや家族全員分の時間で考えるとさらにその割合は大きくなる。「現代のキッチンスタイルは“使う”時間よりも“観る”時間が長い」という気付きから生まれた、「G:LINE」。
だからキッチンは生活の風景の中に溶け込まなければならない。インテリアの一部として、家具のように、洋服のように扱われなければならないアイテムなのだ。
G:LINEでは商品の隅々まで気を配ったデザインをしているが、それはG:LINEがビルトインされるキッチンの一部(ディテール=細部)となり、そのキッチンはインストールされた空間の一部となり、その部屋は家もしくは居住空間の一部となる。「ディテールのこだわりこそがその作品の本質を決める」とはまさにこういうことを指すといってもいい。
久々にデザインがいい日本製家電を見た気がする。これからのキッチンの風景を変える可能性を秘めたG:LINE。新しいアイテムの投入など更なる展開に期待できる注目のブランドである。
【参考】
- G:LINE(リンナイ株式会社)