亀山早苗の恋愛コラム

【実録・飯がまずい妻たち #6】「おいしい」がわからない!味覚音痴な妻の“魂の叫び”に、夫は…

『妻の飯がマズくて離婚したい』という漫画が話題になっているが、実際に「料理が苦手」な妻が、「何がいけないのか」と反論している。彼女には手料理を強制される苦しさが日常的にあるというのだ。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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「料理が苦手」で何が悪いんでしょうか?

メシマズ妻

『妻の飯がマズくて離婚したい』という漫画が話題になっているが、実際に「料理が苦手」な妻が、「何がいけないのか」と反論している。彼女には手料理を強制される苦しさが日常的にあるというのだ。

 

手料理を作らない母に育てられて

「うちの夫も、きみの飯はまずいってよく言っていました」

笑いながらそう言うのはリカさん(42歳)だ。結婚して10年、8歳のひとり息子がいる。紆余曲折を経て、ここ数年は日常の食事はすべて夫が作っている。ただ、夫の料理がおいしいのかまずいのか、リカさんにはよくわからない。彼女は「ほぼ味覚音痴だと思う」と自ら言うのだ。

「もちろん、甘いとか塩辛いとかはわかりますが、おいしいってどういうことなのかはっきりつかめないんです」

彼女はほとんど手料理を食べずに育った。家が小さな町工場を経営しており、両親は朝から晩まで身を粉にして働いていた。

「朝は卵かけご飯を食べて学校へ。給食は楽しみでした。他の子がおいしくないと言っていても、私には給食のすべてがおいしかった。夜は近所の商店で買った惣菜でご飯。3人きょうだいだったのですが、うちは貧しかったんでしょうね。惣菜一品でご飯を食べていた記憶があります」

たまに店屋物をとることもあったが、ラーメンと餃子、チャーハンなどだった。彼女が鰻やステーキを食べたのは自分が社会人になってからだ。

「食べるのは大事なことだし、動植物の命をいただくものだという認識もあります。だからおいしいだのまずいだの言ってはいけない。母は自分が作らなかった言い訳なのか、よくそんなことを言っていましたね」

両親が必死に働いたおかげで、リカさんたちきょうだいは3人とも大学を卒業できた。学生時代、彼女も学業とアルバイトで生活費を稼いだ。家で卵かけご飯を食べて出かけると、昼食はとらない生活を送っていたという。

社会人になって初めて、社員食堂でランチをとった。「豪勢すぎて泣ける」と思った。同僚たちは外にランチに行くこともあったが、彼女はいつも社食にいたという。

同じように社食派の他部署の同期と2年つきあって結婚した。

結婚当初、リカさんも共働きで時間がなかったせいもあり、ご飯と惣菜一品というメニューを食卓に出していた。インスタント味噌汁をつけたこともある。

「社食みたいにはできないと思いました。でも夫が作るときは、おかずがいくつかあったり常備菜みたいなものがあったり。すごいなあと思っていましたが、自分がそれらを作るという発想はなかった。食事を作るのはごく一部の人たちがやることだと思い込んでもいました」

夫は文句は言わなかったが、リカさんが作った食卓を見て、「ちょっと寂しくない?」と苦笑いしたこともあった。

 

料理が“無理”な妻、ストレスに耐えかねた夫

メシマズ妻

自分が特殊な食事事情で育ったことは夫に話してあったが、実際に生活を始めると、夫は夫なりにストレスがたまったようだ。子どもが生まれるとさらにストレスが増した。

「私も早くから子どもを保育園に預けて仕事復帰したのですが、そのころ夫はよく会社の先輩の家で食事をごちそうになっていたみたい。先輩が心配して連絡をくれたことがあります。自宅で食べるのが嫌で、人の家で夕飯をとるなんてオトナとしてどうよと思いましたが、夫は夫で食にまつわるストレスに耐えられなかった、と。一時期はひどいけんかもしたし、もう一緒にいたくないとまで思ったけど、『とにかく腹を割って話そう』と夫が言ってくれて。どうしたらいいか、現実的に話し合うようになったんです」

リカさんは正直にぶちまけた。料理をするのは無理、がんばってもできないしやる気もない。出来合いの惣菜がひとつあればご飯3杯は食べられる。そういう生活しかしてきていないのだ、と。味の善し悪しもわからない。どうにもならない。

「魂の叫びでしたよ(笑)。おいしいものを食べに行こう、という言い方自体が私にはよくわからないんですから。それがそんなに楽しいことなの?と言いたくなるくらい」

夫は、食事は楽しいものだと言い張った。おいしいものを作ったり食べに行ったりするのはうれしいじゃないか、と。家族でどこかに出かけるのは大好きなリカさんだが、一緒に食べれば何でもおいしいとしか思えなかった。

「わかった、と夫は言いました。それからはほぼ食事は夫が担当しています。朝はそれこそ卵かけご飯ですけど、夫はちゃちゃっと味噌汁を作ってくれる。夜は夫が週末に1週間分、下ごしらえしておいたものを私が焼いたり温めたりするだけ。そのために最新の冷凍冷蔵庫を買いました。週末は、夫のアシスタントとして料理の手伝いを息子とふたりでするんです。それは案外、楽しいですね。料理が楽しいのではなくて、家族3人で一緒に何かをするのがうれしいんだと思う」

料理ができなくて何が悪いのか、と逆ギレしたこともあったリカさんだが、今はようやく心穏やかな日々を送ることができるようになった。

「つい先日、夫が料理を作りながら言ったんです。『リカの両親は、料理よりまず教育だと思ったんだろうね。だから必死に働いて3人の子を大学まで出した。すごいことだと思うよ』って。それを聞いて私、号泣してしまいました。実はやはり私の心の中では、味がわからないとか料理ができないことへのコンプレックスがあった。少しだけど両親を恨む気持ちもあったのかもしれない。だけど夫の言葉で、私のコンプレックスや親への複雑な思いもすべて流されていった。うれしかったですね。息子の前で夫に抱きついちゃいました(笑)」

飯なんてまずくてもいい。作れなくてもいい。家族が仲良く暮らす方法を編み出せばいい。リカさんは今、心からそう言いたいと笑顔を見せた。


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