「飯がマズい」妻と夫の大バトル
『妻の飯がマズくて離婚したい』という漫画が話題になっている。昔から「キッチン&ベッド」はカップルの相性を図る上で大事だとされているが、味覚の一致のみならず「食への意欲」という点は見過ごせないのかもしれない。
とはいえ、子どももいる家庭で、「飯がマズい」はどの程度、重視されるものなのだろうか。
妥協案を探った
「うちは妻が専業主婦だったので、一時は食事についてものすごいバトルを繰り広げました」
そう言って苦笑するのはユウイチさん(40歳)だ。つきあっているときから妻があまり「食」に興味がないのはわかっていた。
「デートして何を食べたいか聞くと、ラーメンとかカレーとか。当時は僕も若かったから、めんどくさくなくていい、気を遣ってくれているのかなと思っていたけど、妻は本当に『何でもいい』と思っていたようです」
それでもおおらかで明るい彼女に惹かれ、彼女の妊娠を機に婚姻届を出したのが30歳のとき。現在は10歳、7歳、5歳の3人の子がいる。
「離乳食はほとんど缶詰だったし、子どもたちが小さいときは僕の夕食は用意されていなかった。だから帰宅後、自分で作っていました。すると妻が『そういえば、私も今日、菓子パン1個しか食べてない』と。子育ては大変だなあと思っていました」
子どもたちが大きくなっていっても、妻の行動は変わりなかった。毎日、同じものを食べても平気、おかずは1種類でかまわないというタイプなのだ。
「いちばん多いのは冷凍餃子と、具だくさんの味噌汁。あるいは肉野菜炒めだけ、とか。肉類と野菜があれば栄養的には大丈夫だと思っているようです」
漫画『妻の飯がマズくて離婚したい』に登場する妻は「お腹に入っちゃえば同じ」が口癖なのだが、ユウイチさんの妻もそうだった。なんとか妻に興味をもってもらおうと、子どもたちを預けておいしいものを食べに行ったりもしたが、「高いよ、もったいないよ」と言うばかり。
「これ、おいしいよね。隠し味に何が入っているのかな?なんて言っても会話は弾まない」
しかたなく、ユウイチさんは週末、自分で料理を作る。子どもたちには大好評だが、妻からは「お金がかかりすぎる」と文句を言われる。
「ずっと我慢してきましたが、3年くらい前に子どもが『友だちの家で食べた卵焼きがおいしかった』と言ったことがあって……。妻は『いいのいいの、卵なんて食べれば一緒』と卵かけご飯を出している。それを見て、卵焼きくらい作ってやれよと言ったら、そこから大バトル。僕も10年間の不満を一気に爆発させてしまいました」
妻に不満をぶつけて、はっきりしたこと
お互いに言いたいことを言い合った結果わかったことは、妻は本当に食への興味がないこと、食を文化だとは思っていないこと、栄養が満たされていればいいと考えていることだけははっきりしたと彼は言う。「文化の違いだと割り切るしかないと思いました。そこで、もっとさまざまな冷凍食品や惣菜を活用すること、そのために妻がパートに出ることで折り合いがついた。妻はもともと働くのは大好き、子どもはかわいいけどストレスもたまっているから働きたいと」
2年前から妻はパートで働くようになり、かつてのおおらかさが戻ってきた。平日、家ではご飯を炊くだけ。味噌汁までもインスタントになった。ユウイチさんが早く帰れるときと週末は彼自身が料理することで、子どもたちのリクエストにも応えている。
「妻は自分が働いた分で家計が楽になり、貯金も増えたと喜んでいます。彼女自身、父子家庭で育っていて料理をする習慣も、手作り料理にも関心を持てずに育ったんですよね。だからそういう妻を責めてもしかたがないのはわかっているんです」
ただ、子どもたちが大きくなって家を離れたら、「食を文化だとする観点がない妻」とふたりきりでやっていけるか、今から不安を感じると彼は言う。
「おいしいものをおいしいと思えない、食べることが楽しいと思えない妻と、長い人生をどうやって過ごしていけばいいのか……。なんとか興味をもってもらえるようにしたいのが今の僕の願いです」
味覚が一致しないのではなく、もともと食に興味を持てない人に、どうやって興味をもってもらえばいいのか。むずかしい問題なのかもしれない。
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