コロナに罹患、だけど人には言えない……
感染経路はわからないが、新型コロナウイルスに感染した女性がいる。ひとり暮らしの彼女は保健所の指示のもと、自宅療養を余儀なくされた。親しい友人にはSNS等でこっそりと伝えたが、あとは誰にも言えなかったという。
職場で同僚がかかって
接客業のミドリさん(32歳)が発熱したのは3カ月前のこと。熱があったので発熱外来を受診、PCR検査で陽性だとわかった。
「真っ先に思ったのは、これは人には言えないということでした。というのも職場で以前、かかった人がいるんですが、回復して仕事に復帰してからも周りが微妙に彼を避けていたんですよ。中には『彼の近くには行かないほうがいい』『接客の場に出さないほうがいい』と店長に言う人もいた。結局、彼はいづらくなったんでしょうね、契約社員だったんですが自ら退職していきました。誰だってかかる可能性はあるのに、あんな対応をされるんだというのを見ていたので、自分が陽性になったときはショックが大きかった」
彼女はたまたま、発熱前の数日間、早めの夏休みをとっていた。そのため職場内に濃厚接触者はいなかった。
「店長にはすぐに連絡しましたが、保健所からも職場での濃厚接触者はいないと言われていたので、そのことも話しました。できれば他のスタッフには黙っていてほしいと頼んだら、『わかった』と。店長も前の契約社員が辞めたことがショックだったみたいで、私については黙っていてくれることになったんです」
他のスタッフには、過労でダウンしてなかなか回復しないということにしてもらった。実際、彼女は他のスタッフの穴埋めをよくしていて、夏休み前はほとんど休みをとっていなかったので、周りは納得してくれたようだ。
「復帰したら、『あなたは働き過ぎなんだから』『大丈夫?』とみんな心配してくれて、少し心が痛みましたけど(笑)」
重症化しなかったから、今は笑える話ではある。
ひとり暮らしの心細さ
ただ、自宅療養していたミドリさんは、心細い日々を送ったという。実家の親が心配するからと連絡をしなかったので、食べ物がろくになく、買いに行くこともできない。自治体からの支援の食料は自宅療養を始めてから1週間、届かなかった。「学生時代からの親友だけには陽性だとわかった時点で連絡したんです。そのときは熱だけだったし、お米はあるからご飯を炊いて冷凍の鮭を焼いたりして食べればいいやと思っていた。だけどその後、熱が上がったり下がったりを繰り返すようになって、つらくて食事の支度なんて無理。困ったなと思っていたら、その親友がレトルトのおかゆやレンジでチンできるご飯、あっさりしたレトルトの煮物、スポーツドリンク、フルーツなどを持ってきてくれたんです。ドアノブにかけておくからと連絡があって、玄関まで這うようにして取りに行きました。味覚がおかしくなっているので、味の濃い物は嫌なんですよね。いろいろなおかゆが入っていて、それは本当にありがたかった」
その数日後に自治体からの食料が届いたのだが、カップラーメンなどは味覚がおかしくなっている彼女には「ただの苦い食べ物」でしかなかったという。
「彼女はそれからも3日に1度くらい、飲み物や食べ物を届けてくれた。この人がいなかったら私はどうなっていただろうと思いました」
家族が近くにいなくて誰にも頼れない人は多いのではないだろうか。他人に迷惑をかけたら申し訳ないという気持ちも働くだろう。
「私も素直に人に頼れないタイプなんだけど、途中から彼女が『いるものを言って。あなたが必要としないものを持って行っても意味がないでしょ』って。遠慮している場合じゃないんだよと言われて目が覚めたというか。ここは頼ろうと思いました」
その経験から、ミドリさんは「頼ったり頼られたりする仲間は必要」と心から思ったそうだ。そして親友から受けた親切は、その親友だけでなく、別の困っている人を助けることで恩返しをしたいとも思っている。
「私は病状的には軽症だったけど、それでも今も疲れやすいし、本当に体力がなくなったなと感じます。もっとひどい症状でひとり暮らしの人は、誰かに頼ってほしい。日頃からそういうネットワークを作っておかなければいけないと改めて感じました」
本来なら公助があるべきなのに、いざというとき公助は頼れない。であれば共助の関係を自ら作っておくしかないのかもしれない。コロナウイルスはいろいろなことを提示している。