夫の思考回路が理解できない
なくて七癖という。思考回路にも、人によってさまざまな癖がある。だが、やはり理解できないものは理解できないと嘆く女性がいる。
恋愛中は「おおらかな人」だと思っていた
コズエさん(33歳)が、同じ会社の別部署に勤務する男性と結婚したのは29歳のとき。同期だったが、入社して数年間は彼が関西支社に勤務していたため、ほとんど話したこともなかった。
「私が28歳くらいのときかな、彼が東京に転勤になって。それで部署は違うけどときどき食事会などをするようになったんです。ものごとにこだわりがなくておおらかだなというのが最初の印象でした」
同期が、神経質な上司の愚痴をこぼしたことがある。すると彼は、「顔を見て聞いているふりをして、頭の中ではランチ何にしようかなと考えていればいいじゃん」と言い放った。
「大事なこと以外はどうでもいい、というスタンスの人なんです。おもしろいなと思いましたね。つきあうようになってからも、そのへんは徹底していた。彼はデートに全力で取り組むんです。いつも真剣にデートコースを考えると言っていました。『コズエちゃんを楽しませたいから』って。ただ、ネガティブなことはあまり好きではないみたいで、私が愚痴を言ったり悩んだりしても、あまり受け止めてくれませんでしたね。『前向いていたら、後ろのことは忘れるよ』って。まあ、確かにそうなので、私も悩まない体質になっていきましたけど」
明るく前向きでおおらかな彼。一言でいうとそうなるのだが、細かく神経を使わないということは相手の気持ちに寄り添えないことでもある。コズエさんもそのあたりは薄々感じてはいた。だが、それが結婚への障害にはならなかった。
「猛プッシュで結婚を迫ってきましたから。『コズエちゃんと結婚しないと、仕事に本腰を入れられない』というのが彼の言い分。そんなに大事に思ってくれているんだとうれしかったけど、今思えば、結婚してしまえば私のことは二の次になるという意味でもあったのかと」
コズエさんはそう言って苦笑した。
「仕込んできていいよ」
結婚してすぐ、自分が二の次になっているとコズエさんは感じるようになった。「とにかく仕事優先になってしまったんです。結婚して新居に越したものの、彼は毎晩遅い。そのうち平日は夕食を別々にしようと言い出した。共働きだからそれでもいいんですが、なんとなく寂しいですよね。だけど彼と同じ部署の人に聞くと、確かに忙しいのは本当らしい。結婚して仕事に全力で取り組むようになったと部署の評判がいいとも聞きました」
とはいえ、コズエさんは子どもがほしいと考えていたのだが、彼はいっこうにその気にはならないようだった。
「基本的に淡泊なのか、結婚前も性的な関係は少なかったんです。結婚してから最初にしたのは2カ月後。このままセックスしないんじゃないかと私が悩んで、彼に『どうしてしないの?』と聞いたら、『そうだよね、忘れてた』って。は?と思いました」
「忘れてた」が言い訳なのかどうなのかは定かではない。ただ、新婚なのに「甘さ」のかけらもない生活になっているのがコズエさんには寂しかった。そんな寂しさをわかってくれるとも思えなかった。
「何度か言ったんですよ。新婚なのに一緒にいる時間が短すぎるって。だけど彼はどこ吹く風で、『一生一緒なんだから、そんなこと言わないで』と。当たっているようで微妙にずれてる。私の今の気持ちをわかってくれない」
それでも週末は一緒に出かけたり、彼が食事を作ってくれたりすることもある。彼女の父親が倒れたとき真っ先に病院に駆けつけたのは彼だった。決して冷たいわけではないのだ。
「なんとなく彼の思考回路がわからないと思っていましたが、彼はおそらく、今、優先させるべきことは何かと考えて動くタイプみたいですね。その順番に間違いはないんだけど、そこだけで満足してしまうというか……。父が倒れたときも真っ先に病院に行ったのはいいけど、医師と話して今晩が山ですと聞いたら、そのまま仕事に戻っていた。仕事に戻る彼と外回りをしていて病院到着が遅れた私、ばったり病院入り口で会ったんですよ。夫は私に説明だけして行ってしまった。私がどう思っているかまでは気が回らない。回っていてもフォローしない。その夜、今晩が過ぎれば結果は自ずと出るわけだから、じたばたしてもしかたがないでしょと言われました。正論だけど。結局、父は助かって元気になったのでよかったけど」
そして極めつけが、つい最近、言われた言葉だ。
「そろそろ子どもがほしいなと思って夫に言ったんです。相変わらずまれにしかしないので。そうしたら夫が、『外で仕込んできてもいいよ。オレ、大事に育てるから』って。外で仕込んでくるってどういう意味よと反応して一方的に責めました。彼は『わかっていると思うけど、ああいう行為そのものがあまり好きじゃないんだよね。だから回数が少なすぎて妊娠しにくいのかなと思って』と。外でしてこいということではないけど、子どもがほしいなら回数を増やしたほうがいいと思ったとも言っていました。いや、あなたの子じゃないと意味がないでしょと言ったら、『コズエちゃんの子に変わりないでしょ』と。そうだけど、なにかが違う(笑)」
いったい、彼はいい人なのかそうではないのか、自分の頭がこんがらがってしまうとコズエさんは言う。
「でもなんだか、そういう人なんだと思ったら少し気が楽にもなりました。いざとなったら誰かの子を妊娠すればいいという選択肢があるということなので……。夫と一緒にいると、こちらまで非常識になるような気もしますけど」
最後まで、コズエさんは苦笑しっぱなしだった。