高額のものを買うときは「ご主人様」必須?
誰にでも家を買う権利はある。だが、「世間」は圧倒的に「一家の大黒柱である世帯主の男性」が買うものだと決めつけている。シングル女性が買うケースもあるし、シングルで子どものいる女性が買うこともあるし、そもそも「一家の大黒柱である世帯主の女性」だっているのだ。
離婚後、家を買おうと思ったら
夫の長年にわたる不倫に愛想を尽かして離婚したヨウコさん(40歳)。10歳と8歳の子を抱えたが、まずは住むところをきちんと定めようと不動産屋に向かった。
「子どもの学校のこともあるので、それまでの自宅から遠くへは行きたくなかった。2LDKかできれば3LDKの中古マンションを考えていました」
まずは物件を検索してもらったのだが、不動産屋の対応がひどかったという。
「家族構成を聞かれて、親子3人ですと言ったら、『ご主人様と奥様とお子さんですね』と決めつけてくる。いや、私と子どもふたりと言ったとたんに渋い顔。勤務先と年収を言ったら、また手のひらを返したような態度。もういいです、とすぐに店を出ました。母子家庭、なめんなよと思いましたね(笑)」
最近は独身女性がひとりで家を買うという想定がなされたマンションは少なくない。だが、家族がいる場合は、あくまでも“ご主人様”に売るのが前提になっているのではないかとヨウコさんは言う。
離婚して子どもがいるというと、ローンを組めるのか、支払っていけるのかが重要になってくるようだ。
「払えると思っているから相談に行っているわけですよね。洋服を買いに行って、まず支払えるのかと疑われることなんてない。どういう洋服が好みかが前提じゃないですか。もちろん額が違うから比べようがないけど、とにかく不動産探しでは不快な思いばかりでした」
最終的には会社の先輩に紹介された女性社長の経営する不動産屋が親身になってくれ、無事に中古マンションを購入することができた。
「その社長に愚痴ったら、『まだまだ、家を買うのは男性だと思われていることが多いですよね。すみません』と謝られてしまいました」
誰であろうと対等に扱ってほしい。それだけのことなのにとヨウコさんはつぶやいた。
夫が「主夫」で妻が「稼ぎ主」でも……
「うちは私が主たる稼ぎ主で、夫は主夫。世間ではメジャーじゃないかもしれないけど、そんなに珍しくもないと思うんですよ。だけど女性が世帯主だと何か対応がおかしいんですよね」
アキエさん(44歳)には、3歳年下の夫との間に、15歳、13歳、7歳になる3人の子がいる。二人目を産んだとき、夫婦で話し合って夫が主夫として家事育児を主にやっていくと決めた。
「私は外で仕事をするのが大好き、でも夫は会社を辞めたいと思っていた。私は家事が苦手だけど夫はてきぱき片付けられるし料理好き、しかも子どもの世話も好き。これなら世間と逆転するのがむしろ当然でしょということになりました」
以来、アキエさんは水を得た魚のごとく全力で仕事をするようになった。夫は大好きな料理に磨きをかけ、家事万端、滞りなくやっている。お互いに好きなことをしているのだからと堂々と生きてきた。
「先日、家族でキャンプに行けるような大きめの車に買い換えようということになり、夫とディーラーに行ったんですよ。そうしたらいきなり、先方が夫に向かって名刺を出してきた。私にはくれないわけ。あげく、ずっと夫の目を見て、どういう車がいいのかと尋ねてくる。夫が苦笑して、『車に詳しいのは妻、買うのも妻なんで』と言ったら、『あ、奥様に実権を握られているというわけですね』と冗談交じりに言われて。思わず夫を促して出ました。どちらが買うかということより、夫婦で来ているのだから夫婦を対等に扱ってほしいですよね」
車に詳しいのは男性、車を買うのも男性だと思い込んでいるから、そういう対応になるのだろう。
「これだから女は損だと言うつもりはないんです。もし先方が買うのが私だと知って、私にばかり話しかけてきても、きっと不快だったと思う。しかも同性のカップルが来たら、どういう対応になるんだろうと気になってしまって。相手が男性だろうと女性だろうと、どちらも自認していないという人だろうと、すべて対等に対応してほしいなと思いましたね」
夫の友人が車関係の仕事をしていることを思いだし、その人からの紹介で無事に車を購入したが、その間、夫や子どもたちともさまざまな議論を重ねた。
「紹介してもらったディーラーの方が、家族の名前を覚えて、名前で話しかけてくれるんです。どの車がいいのかを検討する家族会議にもおもしろがって、リモートで出席してくれて。疑問があるとすぐ答えてもらえたので助かりました。これからの時代、こういうフレキシブルな対応をできる人から、高額商品を買いたいと思いましたね」
これからの消費者が求めているのは、「ご主人様」を奉ってもらうことではなく、どういう家族なのかを見抜いて対応してくれる柔軟性なのかもしれない。
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