ワクチン「打った」「打たない」で人間関係に変化
新型コロナのワクチン接種については賛否があるが、それによって人間関係がギクシャクしたり、ときには険悪になったりしているコミュニティもあるようだ。なかには「その件はタブーになっている」ということも。持病の関係で「打てない」人もいるのだが、「打たない」人だと思われてつらいと嘆く人もいる。
「ばい菌」と言われて
フリーランスで、さまざまなNPO団体などで活動しているマユコさん(41歳)。毎日のように出かけるし、日々、さまざまな人にも会う。それが仕事だからだ。自身の事務所があるわけではないので、民間のワーキングスペースなども頻繁に利用している。
「ワンルームの狭いマンションに住んでいるので、自宅にいるのも息が詰まる。それに都心のワーキングスペースを使うと、すぐにあちこち出かけられるので便利なんです」
週に1度は自費でPCR検査も受けてきたし、感染対策には人一倍、気をつかってきた。職域接種を受けられる環境にもなく、1度目のワクチン接種の予約がようやくできたところだ。
だが1カ月ほど前、3年つきあっている4歳年下の恋人に「マユコはばい菌だから」と言われたという。
「彼は職域接種でもう2回、済んでいるんです。自分が接種したら、急に会うのを避けるようになった。早く打てよとうるさくて。でも早く打つ術なんてなかったんです。たまには会おうよと言ったら、『ばい菌だからなあ』って。あまりにも非科学的な言い方だと思わず責めてしまいました。冗談だよって言ってたけど、今、言っていい冗談じゃないですよね」
マユコさんはプリプリ怒りながらそう言った。そもそも、細菌とウィルスの区別もついてないような男に言われる筋合いはないと、さらにマユコさんは怒り、以来、彼との音信は途絶えたままだ。
「3年もつきあってきて何をしているんだろうと思います。人間関係って脆いですよね。打った人が打たない人を差別するのも、打たない人が打った人を悪くいうのも、どちらも世間ではびこっていますけど、そんなことで悪口言い合うのはやめようよ、と思います」
接種を決めるのはその人自身。誰にも接種を強要はできないし、打つなと言う権利もない。
結局、タブーになってしまった
そう言うのは、共働きでふたりの子を育てているカナさん(38歳)だ。夫とは会社が違うが、それぞれが職域接種でワクチンを打つことができた。ところが周りのママ友たちは、みな状況が違う。
「今年の春くらいには、いつごろ打てるかなとか様子を見たほうがいいんじゃないとか、上の子、下の子、それぞれのママ友さんたちも話していたんですよ。だけどその後、私は職域で打てたとか、他のママはダンナさんの職域で家族も打てたとか、そういう話がいろいろ出てくるにつれて状況が変わっていった。あるとき、ひとりが『でもさ、だいたいあのワクチン、やばいよね』と言い出して……。打たない人たちはうなずき、打った人たちは何言ってるのみたいな雰囲気になって」
それ以来、ママ友たちの間でワクチンの話題が出ることは激減した。それどころか、今までなにげなく世間話をしていたのに、どこかみんなよそよそしくなっているという。
「ワクチンの話題を出すとギクシャクするけど、それ以外は今まで通りでいいと私は思っていたんですけどね、ママ友たちのLINEグループでもなんとなく会話が減っているし、否定派の人を排除したグループが新たに立ち上がったりもしてる。きっとその逆もあるんでしょうね」
カナさんがいちばん親しかった友人も、「なんか打つのが面倒になったから様子見している」と言い出した。それはそれでいいんじゃないと答えたものの、「あなたは打つ派なのよね」と妙な目つきで見られたという。
「打つ派とか打たない派とか、派閥作ってどうするの?と思います。ただ、その友人は『マスクをしているほうが体に悪い』と言い出しているので、そうなるとちょっとした立ち話でも会いづらい。もっぱらLINEを使い、ワクチン以外の話題でやりとりしていますけど」
新型コロナによって、それまで表面化してはいなかったさまざまな問題が浮き彫りにされていると言われてきたが、ワクチンの話題は人との関係を分断しているようだ。誰もが経験したことのない未知の状況の渦中にある今だからこそ、人と人とが思いやりをもたなくてはいけないのにうまくいかないものですねと、カナさんはため息交じりに言った。