亀山早苗の恋愛コラム

“あの義父”が亡くなって、うっかりつぶやいた本音。その時見えた「自分の心の闇」と「夫のずるさ」

意外なときに意外なことを口走ってしまう。そんな経験のある人は少なくないかもしれない。実際には、無自覚のうちに心の奥底に押し込めた「恨み」や「憎悪」の気持ちがあるのかもしれない。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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口走ってしまった「心の声」

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自分でも意外なときに意外なことを口走ってしまう。そんな経験のある人は少なくないかもしれない。本当はそう思っていたわけじゃないと言っても後の祭り。実際には心の奥底に押し込めた「恨み」や「憎悪」の気持ちがあるのかもしれない。
 

夫とは理解しあっているつもりだった……

結婚して16年、14歳と12歳の子がいるマサエさん(45歳)。3カ月ほど前、闘病中だった夫の父親が亡くなった。

「だいぶよくなっていたので、きっと元気になると夫は信じていたみたいです。私はこの義父には昔、イヤな思いをさせられたことがあって、それからはあまり接触しないようにしていたんです。コロナ禍もあって見舞いにも行けなかったので渡りに船だと思っていました。本音では」

義父の具合が急変したと義姉から連絡が入り、1時間もたたないうちに亡くなったと再度連絡が来た。

「夫はその場に崩れるように座り込んで頭を抱えて泣いていました。慰めたかったけど、私は義父と聞くとかつてのことが思い出されて、困惑するしかありませんでした」

夫の実家は、マサエさんたちの家から1時間半ほど。結婚当初は月に1度は行っていたが、自分たちの生活も忙しくなり、だんだん間遠になっていった。

「妊娠して安定期に入ったころ、夫と一緒に行ったことがあるんです。すると義父は義母と夫がちょっと席をはずしたときに近寄ってきて、『お腹を触ってもいいか』と。イヤだったけどしかたがない、はいと言ったらお腹を触りながら胸を揉んだんですよ。思わず叫んで突き飛ばしてしまいました」

叫び声を聞きつけて、夫と義母がバタバタと戻ってきた。義父は「ひどい嫁だな」と怒りまくってリビングから出て行った。

「その場では何も言えなかったけど、帰宅してから夫に正直に話したんです。夫は『まさか』と黙り込みました。このことは誰にも言わないでほしいと言われたけど、私の話を夫が信じたかどうかはわかりません。子どもが生まれたときも義父は、こっそり私の手を握ったりしたんですよ。振り払いましたけど」

その後は義実家に行っても、常に子どもを抱いて過ごしたが、通りすがりにお尻を触られたことはあった。

そんなことから、義父が亡くなったと聞いても悲しみはわいてこなかった。もちろん、「よかった」と思ったわけでもない。だが夫に言ってしまったのだ。

「80歳超えているんだから、もういいじゃない」と。
 

夫との関係がぎくしゃくして

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夫は顔を上げてマサエさんを見つめた。

「おまえはオヤジを毛嫌いしていたもんな、と夫が言ったんです。毛嫌いするにはするだけの理由があると言ったら、『こんなときに言うな』と。どうせ私の言うことなどちゃんと聞いてくれなかったくせにという思いもあった。自分でも思った以上に義父や夫のことを恨んでいるみたいだと気づいたのは、そのときです」

四十九日に納骨をして帰ってきたその日、夫は「これからは子どもたちの親としての関係だけで過ごそう」と言いだした。マサエさんには意味がわからなかった。

「夫は深く傷ついたから、離婚したいのが本当だと。だけど子どもたちがいるからまだ離婚はしない。おまえとは話す気もない、と。私だってあなたに傷つけられた、お義父さんにもね、と言ったら夫はそっぽを向きました」

最初は驚いた彼女だが、共働きだから、夫が養育費さえきちんと払ってくれれば離婚を考えてもいいと思い始めた。子どもたちと夫は好きなときに会えばいい。

「数日後、いっそ離婚しましょうと言いました。すると夫はギョッとしたような顔をして。『おまえが謝ればすむ話だろう』と。私は自分でも意外なことを言ってしまったとは思ったけど、思わず本音が出ただけだと話したんです。夫は気持ちが弱っていたんでしょうね。傷口に塩を塗り込むなよと泣き出して。ずるいなと思いました。自分だけが被害者みたいに。私が何年我慢してきたと思っているんでしょう」

自分の心の闇も見えたが、夫のずるさもまた見えたと彼女は言う。夫は彼女からの離婚の申し出には無視を決め込んでいる。それ以来、夫婦間での会話もほとんどない。もう大きくなった子どもたちは当然、何かあったと察している。

「こんな生活が続くほうが、よほど家族それぞれの精神衛生によくないですよね。どうするのかはっきりしてほしいと夫にはまた話してみるつもりです」

マサエさんはすでに覚悟を決めているのか、毅然とした表情で言った。
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