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転職先選びの新基準としての「副業規定」について人材コンサルタントが解説

厚生労働省は、働き方改革実行計画(平成29年3月)を踏まえ、副業・兼業の普及促進を進めている。現行の法令の下で、働く人が安心して副業・兼業を行えるためのルールを明確化、それが「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(平成30年1月策定、令和2年9月改定)である。

直近の企業の対応事例では、情報サービス大手SCSKグループのSCSKニアショアシステムズ(以下SCSK)が、この7月から最大で月51時間までの副業を認める制度を導入している。同社の副業規定の特徴は、同業他社への就業を一律禁止とせず(許可制)、他社との雇用契約を結んだ副業も認めていることだ。

従来、企業が副業規定の導入に慎重な理由は、社員に求める秘密保持義務と競業避止義務(社員は企業の正当な利益を侵害してはならないこと)の違反が生じる可能性があるからである。しかし、今回のSCSKの場合、社員の副業・兼業が企業と社員双方にもたらすメリットを優先し、同業他社への就業を禁止しないという点で一歩踏み込んだ副業・兼業規定を導入したことに注目が集まっている。

SCSKのケースに限らず、今後も副業・兼業規定の導入は広がっていくであろう。転職を考える際にも、副業・兼業規定の内容と運用状況の実態を意識して転職先選びを行う人が増えることが予想される。なぜ今、副業・兼業規定に注目が集まるのか、その理由について人材コンサルタントが詳しく解説する。
 

「転職先は副業・兼業規定で選ぶ」は機が熟したか

副業・兼業規定の導入が増加傾向にあるとはいえ、その状況の全体像は把握しておくことが重要である。

日本商工会議所が発表した早期景気観測(2021年7月結果)によれば、正社員の副業・兼業規定に関する状況について、「積極的に推進している」と回答したのは、全体の1.7%にとどまっている(調査対象は、全国336商工会議所の会員2663企業で有効回答数は2076企業、回答率78.0%)。正社員の副業・兼業を「容認している」企業と合わせると、その割合は30.3%。

つまり、まだ7割の会社では現時点での正社員の副業・兼業を容認していないのが実態であり、このうち45%は「今後も検討する予定はない」という。副業・兼業規定の普及促進を進める厚生労働省の意図とは別に、この件に関して、世の中は完全に意見が二分していることがうかがえる。

副業・兼業規定を導入する企業のメリットには、優秀な人材の獲得や人材流出の防止がある。本来であれば、そのメリットをより多く享受できるのが、人材の獲得と流出に苦労している中小企業のはずである。しかし、そうしたメリットはわかっていても、実際に導入に至っていない現状には、おそらく将来的なメリットよりも目先のデメリットを優先的に懸念してしまう旨があるのだろう。

しかし、少なくとも副業・兼業規定を容認している企業は約3割あり、その数字が増加傾向にある以上、転職市場においても転職先候補の副業・兼業規定に注目する人は同様に増加していくのではないだろうか。

今後もさまざまな業界で大手有名企業の導入事例がニュースをにぎわすようになり、例えばIT業界のように人材獲得の面で特に競争の激しい業界では、社員にとってよりメリットが大きい「柔軟な副業・兼業規定」の導入が加速していくことが予想される。「転職先は副業・兼業規定で選ぶ」には、完全に機が熟したとはまだいえないかもしれないが、現在発展途中であることは十分に確認できる。
 

副業・兼業規定で差がつく、社員の能力開発

これまで転職の3大理由は、「待遇や評価への不満」、「仕事内容への不満」、そして「職場の人間関係への不満」であった。しかし、今後はこれら3つに加えて4つ目の理由として、「副業・兼業規定への不満」が加わる可能性はないだろうか。

社員にとって、なぜ今の時代、副業・兼業が大切になってきたのだろう。本来、副業・兼業をしたい人が掲げる主な理由は、「社内では得られない知識・スキル・人脈の獲得」「本業以外の新たな収益源を得られる」「離職せずとも、自分がやりたい仕事に挑戦し、自己実現を追求できる」というものだった。

それが、人生100年時代を迎え、一つの会社で定年まで勤めるのではなく、転職や早期退職、起業などが将来のキャリアの選択肢として現実化してきた。実際、「柔軟な副業・兼業規定があれば、社員は退職後(早期退職や定年を含む)の次なるキャリアへの準備ができる」という考え方は、企業と社員双方にとってもメリットが大きく、身近な問題としてとらえる人が増えてきたのではないだろうか。

つまり、副業や兼業は才能があるからできるもの、もしくは時間の余裕があるからやるものではなく、会社を辞めた後の将来に備えるために、誰もが実践的にその練習を重ねておくべきことにすらなっているのかもしれない。いうなれば、副業・兼業は今やサラリーマンのたしなみといってもいい時代が来ているのである。

会社によっては、社員の能力開発(例えば各種研修へ参加するなど)に時間と資金などを提供し、社員個人が成長するチャンスを提供してくれる場合もある。そうした会社では、機会をうまく利用して、将来のキャリアに備えてきた社員もいるであろう。しかし、ほとんど全くそうした機会がないまま、日々の業務をこなすことにあたっている人もいるに違いない。

つまり、こうした能力開発の有無が個人の能力格差を作っている場合もあるのだ。その点では、社員が取り組む副業や兼業を会社が認め、それを支援するという動きは、能力開発と同じような意味を持つのかもしれない。このように考えると、会社の副業・兼業規定は、企業の差別化にとって重要な要素の一つとなり、今後、転職市場でも注目をさらに集めるようになるのではないだろうか。
 

会社は考えてくれない、人生100年時代への備えは「副業・兼業体験」

社会全体としてみれば、社員の副業や兼業はオープンイノベーションや起業の手段としても有効である。さらに、都市部に一極集中が起きている現状にも変化をもたらす可能性があり、都市部の人材が地方でも活かされ、地方創生につながることも期待できる。

多様な働き方に向けて、日本の転職社会もようやく機が熟してきた。企業の副業・兼業規定の導入ペースがもっと上がってくるよう、これから転職を考える人には、ぜひとも会社の副業・規定に注目していってほしいものである。

究極的には、会社はあなたの将来を考えてはくれない。未来は自分の手でつくるモノである。まずはできるところから小さくてもいいので、副業・兼業のアイデアを考え始めてみてはいかがだろうか。

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