「格差婚」だから気を遣ったのに……
芸能界で「格差婚」というと、知名度・人気・収入などの要素で比較されることが多い。一般的には、古くさいが家柄・学歴・親の地位などが関係してくるのかもしれない。自分が上の「格差婚」をした女性は「さんざん気を遣ったのに、それでもうまくいかなかった」と肩を落とす。
家のことはあまり話さなかった
大学卒業後に入った会社で、同期の男性ヤスシさんに一目惚れしたノゾミさん(32歳)。ところが彼の配属先は関西で、なかなか会う機会はなかった。4年後、彼が東京本社に戻ってくるころには、ノゾミさんには友人との飲み会で知り合った恋人がいた。
「恋人とはつきあって1年くらいでした。7歳年上だったこともあって、頼りになるし落ち着いているし。ただ、ときどき上から目線になるのが気になってはいましたね」
ヤスシさんと再会して、同期と会うようになると、ノゾミさんはやはりヤスシさんのことが好きだと改めて思った。そしてその気持ちは止められなくなっていく。
「あるときみんなと別れてから、そっとヤスシのあとを追いかけたんです。ふたりだけで飲み直そうって。近くのお店で、『私はずっとヤスシが好きだった。つきあってほしい』とダイレクトに言いました。彼、驚いていましたね。『僕だってノゾミのことは好きだけど』と言いよどんで。実は関西に彼女がいると告白したんです。私にも彼氏がいる、お互いに相手と別れようよと私が意気込んでしまいました」
半年後、ふたりはそれぞれの相手と別れて晴れてつきあうようになった。
「うれしかった。ヤスシとはノリが合うし、何を大事に思っているかという価値観も似ていたんです。ふたりともどんどん盛り上がって、つきあって1年もしないうちに結婚しようと」
彼女が「今度の週末、うちの両親に会って」と言うと、彼も「いいよ」と即答。社会人になってから彼女はひとり暮らしをしていたので、彼が実家に来るのは初めてだった。
「最寄り駅で待ち合わせて家まで歩き、ここだよと言ったら彼、ドン引きしていました。うち、無駄に大きいんですよ。父方は代々医者で、母方は教育者や弁護士ばかりみたいな家系で。でも私はただの会社員だし、家が大きいのは父方がそのあたりの地主だったから。今もいくつかマンションを持っているんじゃないですかね」
門の前で早口でそんな説明をし、「でも私とは関係ないから」と彼に念押ししたのだが、彼はすでに気持ちがめげているように見えたという。
それでも結婚はしたものの
「うちの親はそれほど嫌みなタイプではないと思うんですが、それでも父は『あなたのお家はどういうお仕事を?』みたいなことは言っていましたね。彼のところはお父さんが早くに亡くなって、お母さんが女手ひとつでしっかり働いて彼と妹さんを大学まで出した。エライと思うんですよ。父も『それは立派なお母さんですね』と言っていました。でも彼は帰り際、『オレ、きみの家とは釣り合わないよ』と言い出して。そういうのがいちばんイヤだったので、私に家がついてくるわけじゃないし、私は医者を継いだわけでもないからって説得したんです」ノゾミさんの両親は、結婚式場での式を望んだが、彼女は「会費制のパーティーだけでいい」と自分たちの意志を貫き通した。
「せめて親きょうだいだけは別に席をもうけてと父が言うので、彼のお母さんと妹さん、うちの両親と兄と弟の8人で会食をしました。そこは父の行きつけだったので、彼一家からはもちろんお金を受け取る気はなかった。誘ったのは父ですしね。でも彼のお母さんは気を遣って、あとから数万円するような漆塗りの食器を送ってきたんです。ただ、間が悪いことに母は漆塗りのお皿やお盆が大好きでコレクションしている。なぜか曾祖母から受け継いだものまであるくらい。送られた食器へのお礼状は出したようですが、私が実家に行ったとき、『ほら、これよ』と見せただけでコメントはなし。気に入ってはいなさそうでした。彼はもちろんそんなことは知らないから、『すごく高いものをいただいたみたいで』とだけ言っておきました。結婚してふたりで暮らすようになれば関係ないし、と思ってた。私は漆塗りの目利きはできませんから」
そうやって無事に結婚はしたものの、ノゾミさんの両親はことあるごとに彼の母親や娘夫婦を招きたがった。彼女はヤスシさんに気を遣ってほとんど断っていたが、ときにはヤスシさんに直に招待する電話がいくこともあった。
「そうなると彼は断り切れませんからね、連れだって親が予約したレストランに行ったこともあります」
そもそも新居は、ノゾミさんの親が所有しているマンションの一室で広い3LDKだ。ただで住めるのはラッキーだと思ったノゾミさんに対し、ヤスシさんは抵抗を示した。
「これじゃ独立した家庭とは言えないって。でも東京の家賃は高いし、どうせ余っている部屋なんだからいいじゃないと私は思った。『やっぱり金持ちは違うな』と彼に言われて少しイヤな気がしましたね」
お金があるのは親だと彼女が主張しても、その恩恵を受けている以上、ヤスシさんはやはり肩身が狭かったのだろう。逆玉だと開き直れるほど、ヤスシさんは図々しい性格ではなかった。だからこそノゾミさんは好きになったのだ。
「気を遣えば遣うほど、彼は卑屈になっていく。決定的だったのは私がときどき父からお小遣いをもらっているのがバレてしまったこと。父は会うたび10万円くらいくれるんですが、私はいつものことだから気にもしていなかった。それを夫に見とがめられて。『やっぱりきみと結婚生活を続けていくのはむずかしい』と言われました。親と縁を切るからと言ったんですが、そういうことじゃないって」
結局、結婚生活は2年ともたずに破綻。ノゾミさんの父は「申し訳ない」と彼に200万円を差し出したが、彼は拒絶したという。
金銭感覚と親子関係があまりに乖離していると、歩み合う余地はないようだ。