子どものいない人生、納得してきはずだけど
子どもを持つか持たないかは個人の選択。だが、もちろん持ちたくても持てない人もいる。どこかの時点で諦めて、夫婦だけで楽しく暮らしていこうと決めたものの、年齢を重ねると新たな寂しさも募ってくると語る女性がいる。
原因不明のまま妊娠せず
29歳のときに同い年の男性と2年の交際を経て結婚したアツコさん(52歳)。結婚したら子どもができるのは当然だと思っていた。
「ところが2年たってもできない。慌てて検査したけど、夫も私も特に問題はない。人工授精も試しましたが効果なし。2年くらいがんばったんですが、『もういいか、自然に任せよう』ということになりました。私も仕事を続けていて忙しかったので、なんとなく不妊治療だけにのめりこむことができなかったし、無理矢理子どもを授かろうとすることに少し抵抗もあって」
気づいたら40歳は目の前。どうしようかとつぶやいたら、夫は「オレはふたりきりで暮らすのもいいと思う。お互いに仕事がんばって、一緒に休暇とってあちこち行って。そういう生活もあるよ」と言ってくれて。両方の両親からは「孫はまだか」という話もありましたけど、それぞれ自分の親に「できないんだからしょうがない」と宣言した。
「子どもができないと悪いことをしているような気持ちにさせられる。それがつらかったですね」
独身ならいざ知らず、結婚しているのに子どもがいないと、人は不用意に「子どもは?」と尋ねてしまうものなのだろう。子どもがいない夫婦が罪悪感を覚えるような世の中はおかしい。
「それからはふたりの生活を楽しめることは何でもしよう、と。保護猫を飼ったり、自転車を買ってサイクリングしたり。夫は陶芸を習いに行き、私は昔から憧れていたドラムを習い始めました」
子どものいない夫婦とネットでつながり、3組ほどで会食したこともある。どの夫婦も落ち込んだままではなく、夫婦で楽しめることを常に探していた。
「みなさん夫婦仲がいいんです。うちもそう見えたらいいねって言いながら帰ってきました」
子どものいない家庭があってもいいのだと、徐々に自分を納得させていった。
孫のできた友人からの言葉に傷ついて
ふたりだけの生き方に満足していたはずのアツコさんだが、最近、ちらほらと孫ができた友人の話が聞こえてきた。「ひとりは20歳で結婚した高校時代の友人。子どもも早めに結婚したので、すでに孫がふたりもいる、と。もうひとりは大学時代の友人で、彼女も卒業と同時に結婚したので最近、孫ができたそうです。大学時代の友人とはグループLINEをやっているので、彼女は孫の写真ばかりあげています。私ももちろん祝福の言葉を送りましたが、なんだかちょっともやっとしますね」
友人たちの子どもの話、子どもの写真などにひそかに苦しんでいたアツコさん、みんな子どもが大きくなってようやく「自分たちの話」ができるようになったと思ったら、今度はいっせいに「孫の話」に流れていく。それが当然の流れだと思いながらも、「子どもや孫の話がでるたび、疎外感を覚える一生」になるのだなと改めて感じている。
「気を遣ってほしいわけじゃないんです。でも、世の中の主流の人生からははずれてしまったような、ちょっとした寂しさはありますね」
その分、充実した夫婦関係を得られていると自分を慰めているけれどと、アツコさんはふっと笑みを見せた。
人生において、欲求が強いのは悪いことではないだろう。だが、努力してもお金を積んでも、何もかも手にすることができるとは限らない。
「何に優先順位を置くかということでしょうね。たまたま私は子どもが最優先ではなかったから、不妊治療も中途半端にしてしまった。本気で子どもがほしかったら他にも方法はありました。でもそれを求めなかったのは自分。わかってはいるんですが、やはり友人たちが子どもだ孫だと言っていると、ふっと気持ちが沈む。無い物ねだりをしてもしかたがないんですけどね」
家族が多ければ幸せというわけではない。人と比べても意味がない。大人だからそんなことはわかっているけど、もやっとする。もしかしたら、生きるというのはそういうことの連続なのかもしれない。