夫の単身赴任先のアパートで見たものは……
夫の転勤が決まったものの、子どもの学校のことを考えれば家族で引っ越しはできない。そんな場合は不本意ではあっても、単身赴任となりがち。ひとり身になれば夫は気が緩み、ついつい独身気分になりやすい。
一緒に移り住むことはできない
友人の紹介で出会い、4年の交際を経て、29歳のときに同い年の彼と結婚したユキさん(41歳)。10歳と6歳の子がいる。
「2年前、夫の関西転勤が決まったときは悩みましたね。上の子はもう小学生だったから、転校したくないと言う。なにより私も仕事をしていて、関西方面の支社に転勤できるかどうか聞いたけどむずかしい、と。夫の仕事で家族が生活を変えなければならないのも変だなあと。夫も『子どものことを全面的にユキに押しつけることになるのは心苦しいけど、オレは単身赴任でもいいよ』って。一緒に行くこともできないけど、夫がいないと確かにすべて私に負担がかかる」
そのとき名乗りを上げてくれたのが、夫の異母妹・マリナさんだ。夫の両親は離婚しており、父親が再婚した相手との間に産まれたのが彼女。
「当時、30歳だったマリナは離婚したばかり。子どももいなかったので、再就職が決まるまで手伝うと言ってくれたんです。マリナと私、なぜか気が合ってずっと仲良くしていたのでありがたかった」
マリナさんは昼間アルバイトをし、夕方からユキさん宅に来て子どもたちのめんどうをみてくれることになった。
「子どもたちもマリナのことが大好きだったので、とても喜んでいました。夫は『オレがいなくなっても、誰も寂しがってくれないんだろうな』といじけていたくらい。『浮気しないでよ』と言ったらするわけないだろって笑っていた。そんな夫を私は信じていたんです」
今まで夫の浮気など考えたこともなかった。だが、離れて生活するとなると気になる。結婚しているのだから、夫を信じよう、信じたい。ユキさんはそう思っていた。
なかなか帰ってこられない夫
赴任先では仕事が相当忙しかったようで、夫はなかなか帰宅できない。子どもたちは、なんとか週に1度、テレビ電話で父親と話す状況だった。ある週末、ユキさんはサプライズで夫の住む、勤務先の借り上げマンションに行ってみた。結婚記念日だったのだ。
土曜日なのに出社した夫は夜8時くらいに帰宅した。
「待ちくたびれて来ちゃった」
ユキさんがそう言うと、夫は笑顔を見せ、妻の作った料理をうれしそうに食べたという。
「赴任して4か月くらいは本当につらそうでしたね。新しい仕事、新しい人間関係、新しい環境。慣れるのが大変そうで」
その後は、夫が帰宅したりユキさんが行ったり。ときには子どもたちを連れていくこともあったが、昨年春からはコロナ禍で、なかなか会えなくなった。
「でも夫の顔を見たいと思って、夏頃、行ってみたんですよ。そうしたら冷蔵庫になぜかコンビニのスイーツがあって。夫が酔って買ってきたのかなあと思っていました」
夫の様子に不審な点はなかったので、ユキさんもわざわざ聞くようなことはしなかった。ところがそれ以来、夫の部屋のあちこちに首を傾げざるを得ないことが増えていく。
「洗剤の買い置きを探して洗面台下の収納部分を見たら、化粧水の瓶があったんです。男女兼用みたいな化粧水だったので、疑惑ですけど、かなり怪しいなとは思いました」
そのときユキさんは、自分が持ってきたハンドクリームを洗面台に置いて帰った。すると次に来たとき、その横にブランドもののハンドクリームがあった。
「これは宣戦布告ですよね。夫に『これは何』と聞くと、一瞬、目が泳いだものの『取引先の化粧品会社の人がサンプルでくれたんだ』と。よく見ると確かにサンプル。ふうん、夫の浮気相手は化粧品関係、もしくはPR関係に勤める女かと推察しました」
金曜夜の新幹線で行ったときは、冷凍庫にタッパーに入った手作りの肉団子を見つけた。やはり、とユキさんは思った。彼女が行くのは土曜日。だから金曜夜に、夫は浮気相手の痕跡を消すはずだと予想したのだ。
「遅くに帰ってきた夫は、私を見てぎょっとしたような顔をしていました。『明日じゃなかったんだ』と。私は、『夜食でも食べる? 私もお腹すいちゃったのよね』と冷凍庫を開けました」
ユキさんはタッパーをテーブルに置き、着替えて戻ってきた夫に「これはなあに?」と聞いた。すると夫は、「飲み屋のママが持っていけってうるさくてさ」とさらり。
「いろいろ言い訳するものですよね。なんだか私、それを聞いてバカバカしくなって、翌朝、夫が寝ているうちに帰ってきちゃいました」
帰宅して義妹のマリナさんに話しながら、怒りが再燃してきたという。
「マリナが、父も浮気者だったよって言うんです。異母兄妹ですから、父親は同じ。『ユキちゃん、甘やかしちゃダメよ』と励まされて。でも離れているから、怒っても自分が疲弊するだけなんですよ。面と向かってケンカできない物理的距離がある」
その後、夫がときどき帰宅するようになったのだが、あたりさわりなく、どちらからも肝心なことには触れない状況が続いている。
「どうやら夫、今年の夏前には帰京するようです。ここで夫の浮気相手を特定してはっきりさせたほうがいいのか、知らん顔して東京での生活を再出発させたほうがいいのか。この先のことを考えたら、一度はけじめをつけたい気もするんですけどね。ケンカになっても、彼の本心、家族をどう思っているのかについては話し合っておきたい」
だがマリナさんは、それに反対しているという。マリナさんが離婚したのは、夫の浮気を彼女が咎め、責め続けたからだ。
「疑惑だったらほじくらないほうがいいというのがマリナの考え方。私は迷っています」
疑惑を深掘りして証拠を探し出すのか、問題視しないようにするのか。むずかしい選択肢かもしれない。