呪術廻戦の魅力やネクスト鬼滅と呼ばれる所以とは
振り返ると2020年はコロナ禍の中でエンタメ業界は『鬼滅の刃』一色となったといえます。『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は歴史に残る大ヒットを記録する一方で、原作漫画も最終巻の発売を迎えるという離れ業はこの先もなかなかお目にかかれる出来事ではないでしょう。
2021年の後半にはテレビアニメとして続編の放送も決定していますが、その間にも新しい作品は次々と世に生み出されていますので、次なるヒット作にも注目が集まるのは必然です。今回はすでにネクスト鬼滅との呼び声のある『呪術廻戦』(じゅじゅつかいせん)をご紹介いたします。 『呪術廻戦』は芥見下々(あくたみげげ)さんによるバトル漫画で「週刊少年ジャンプ」で2018年に連載が始まり、2020年10月には人気のアニメスタジオである株式会社MAPPAが制作を担当するテレビアニメの放送がスタートしました。
現代を舞台に、人を襲う化け物である呪霊に対抗しうる力を求めて自らも特級呪物たる両面宿儺(りょうめんすくな)と同化することを選んだ主人公の虎杖悠仁(いたどり ゆうじ)が、内なる敵とも戦いながら呪術師を目指していくというストーリー。ジャンルとしてはダークファンタジーに分類されます。
呪術廻戦には過去のヒット作との共通点がある⁉
『呪術廻戦』の人気の高さを紐解こうとすれば、「週刊少年ジャンプ」発の数々のヒット作との共通点にすぐに気が付くはずです。分かりやすい共通点としては『NARUTO』や『僕のヒーローアカデミア』のようにプロを目指す学校に入学するところからスタートするところでしょう。この構成は読者や視聴者が自然な形で世界観の説明を受け、物語に入っていくためにはド定番の流れともいえますが、それゆえに外しにくい展開だと思います。学校を舞台にするという事で『NARUTO』、『ヒロアカ』との更なる共通点が自然な形で生まれていきます。
主人公の所属している学校のほかにも他校の存在があることで世界観を広げたり、学校同士の交流戦や対抗戦などのイベントを通じて多くのキャラクターを違和感なく登場させられると同時に、その魅力も掘り下げられるなどいいこと尽くめだといえるでしょう。 そして、上記の二作品と同様に、主人公に対して強く魅力的な先生がいてくれることも大きなポイントです。敵味方ともに認めるところの作中の最強キャラである五条 悟(ごじょう さとる)の人気はすでに海外にも多くのファンがいるほどです。
このように、少年漫画としてのアドバンテージを活かした造りは、これから『呪術廻戦』に触れようという人にも非常にとっつきやすい内容であることはお分かりいただけるでしょう。
テレビアニメの映像表現においても、『鬼滅の刃』同様の丁寧な作り込みが全編に冴えわたります。第1クールのオープニングでは本編とはまた違った印象的なルックを採用し、アクションとキャラクター描写で緩急をつけた映像はオープニングテーマの『廻廻奇譚』との一体感が素晴らしい仕上がりです。
バトルを中心としたアクションシーンでもアニメーションを作る上では、簡略化した表現方法が取れそうな場面においても、真っ向からアクションとリアクションを描いているのはアニメーション本来の動きの面白さを痛感させてくれます。
『鬼滅の刃』では12話において回転する室内での戦いの際に丹念に描かれたワンカットアクションが注目を集めましたが、『呪術廻戦』においては特に19話、20話のアクションシーンがテレビシリーズの作品としては異常な作り込みといえます。19話といえばアニメ『鬼滅の刃』でも作品評価のブレイクスルーが起こった話数という奇妙な共通点が生まれたのが興味深いところです。
また、『呪術廻戦』のキャラクター描写にはスタート時点から自信と余裕がうかがえました。本編がどんなにシリアスな展開だとしても、次回予告の前に「じゅじゅさんぽ」というショートコーナーを差し込んでくるあたり、原作人気の確かさを裏付ける構成といえるでしょう。
呪術廻戦は「ポスト鬼滅」となり得るのか
ただ、『呪術廻戦』が『鬼滅の刃』と同スケールでの盛り上がりを見せるかについては筆者もまだ冷静な見方をしています。その理由は作品のターゲット層にあります。『鬼滅の刃』は社会現象といえるほど幅広い年齢層でヒットしています。とりわけ低年齢層にも広く受け入れられたのは、少年漫画としての普遍的なストーリーテリングもさることながら、メインキャラクター達の程よい頭身の低さ、ついつい真似したくなる必殺技の存在など枚挙にいとまありません。
一方で『呪術廻戦』は「呪い」を最大のモチーフとして扱っているため、ダークファンタジーとしては高めの年齢層を狙ったハードな描写も多く見受けられます。バトルに関しても『ジョジョの奇妙な冒険』のスタンド能力や、『HUNTER×HUNTER』の念能力などと同様に分類される異能力系のバトルが魅力であり、相性や駆け引きが決め手のバトルは、そのしくみや展開の組み立て方を理解できる年齢層の方が楽しめる内容となっています。
社会現象ともなるヒット作となるには、ターゲット層を絞っているがゆえの枷があるといえます。
しかしながら、アニメ『鬼滅の刃』は原作漫画が全23巻あるうち、8巻までの内容を映像化した時点での記録的な大ヒットです。異例の盛り上がりであったことを忘れてはいけません。『呪術廻戦』もまだこれからの作品です。漫画、アニメともに今後の展開に大きく期待が持てると思っております。まずはファンが増えることこそが作品を応援し、育てる事につながりますので是非ともご視聴ください!