親友の夫と一度だけの過ち……

親友の夫と不倫

人にはひとつやふたつ、誰にも言えずに墓場まで持っていきたい、持っていかなければならないことがあるのかもしれない。親友の夫とたった一回、過ちを犯した女性は、自分の心に封印をして生きていくつもりだという。

 

シングルマザーになって

マキコさん(42歳)は、31歳のときに結婚したものの妊娠中に夫の浮気が発覚、「オレ、本当は結婚もしたくなかったし子どももいらなかったんだよ」と言われて即刻、離婚した。

「つきあっているときも結婚してからもやさしかったんですけどね。妊娠したらとたんに冷たくなった。結婚するほど成熟していない男だったと割り切りました」

夫の両親が謝罪してくれて、慰謝料として500万円くれた。孫との面会も求められたが、金輪際、元夫の関係者とは会いたくないと拒絶。引っ越してたったひとりで子どもを育てていく覚悟を決めた。

「そのときに頼りになったのが女友だち。なかでも中学から親友のサトコは本当にめんどうを見てくれて。彼女も家庭と仕事で忙しいのに、出産時にも来てくれたんです」

産まれたのは男の子。現在、9歳になる。

「家が近いせいもあって、何かあったらいつでも言ってと言われ、サトコと同居しているお母さんが以前、よく保育園に迎えに行ってくれました。一時期、サトコに息子の食費を払っていたほどです」

マキコさんは正社員として働いているため、経済的には贅沢しなければ息子とふたりの生活はなんとかなる。ただ、時間的精神的な余裕がなかった。特に息子が小学校に入るまでは、どれだけサトコさん一家の世話になったかわからないという。

「サトコのところは早くに結婚して、すでに15歳と13歳の女の子がいるんですが、ふたりとも息子を本当の弟みたいに思ってくれている。ありがたいです、本当に」

親友と近所の仲良したちに助けてもらいながら、なんとかここまできたとマキコさんは言う。

 

たった一度だけど

昨年からマキコさんの息子ユウキくんが野球を始めた。休日にはキャッチボールにつきあわされていたが、マキコさんは運動が苦手。ついサトコさんにぼやくと、週末、サトコさんの夫が突然現れた。

「キャッチボールしようと思ってね」

真新しいグローブもプレゼントしてくれ、ユウキくんは大はしゃぎ。それ以来、時間を見つけてはサトコさんの夫が野球を教えてくれるようになった。

「いいのよ、うちは娘しかいないでしょ。夫も息子とキャッチボールをするのが夢だったらしいの。あの人、甲子園を目指していた野球少年だったんだって。夫がいないと私たちは女3人で好きなことができるしね」

サトコさんはそう笑って、快く夫を「貸し出して」くれた。

「申し訳ないとは思ったけど、サトコ夫婦のやさしさに甘えていました。ユウキが生き生きとキャッチボールをしているのを見ると、もし夫がいたらこんな情景が当たり前だったのかな、息子に悪いことをしたなと離婚した自分を責めたりもして。なんだかせつない気持ちでしたね」

ある日、息子が所属する地元チームが練習試合に出かけた。マキコさんも行く予定だったが疲労がたまって少し体調を崩したため、チームの友人の親が一緒に連れて行ってくれることになった。

「ひとりで家でゆっくりできるのは何年ぶりか。ありがたく息子を預けてのんびりしていました。そこへサトコの夫が現れたんです。息子がいないのを知っていて。いつかこういう日が来るんじゃないかと私にはどこか既視感がありました。お茶を飲んで、彼が買ってきてくれたケーキを食べて、当然のように関係をもちました。10年ぶりに男性の肉体を感じて、正直、溺れそうでした。だけどその後、ふたりで約束したんです。『もう二度としない。そしてサトコには気づかれないようにする』と」

それからもサトコさん夫婦とは普通につきあっている。彼と息子は、今もときおりキャッチボールをしたり、野球を観に行ったりしている。何もかも「あの日」以前のままだ。

「私はあの日をなかったことにすると最近、ようやく決意しました。それでもときどき思い出すし、恋愛のれの字もない日々で、うれしいような、だけど一方で深く眠っていた性欲の燃えかすに火をつけられたような複雑な気分です。自分が女であることだけは確認できましたけど」

サトコさんの顔を見るたび、本当は胸が痛む。彼に愛されているサトコさんを羨む気持ちもある。だが、それ以上に親友を失いたくない気持ちは強い。

「本当に間違いだった、過ちだったと思う。だけどあのとき、ああいう関係にならなければあとからもっと悲惨なことになったかもしれない。恋とか不倫とか、そういうことではないんです。だけどあのときたった一回、過ちを犯したことで今はなんとか自分を保っていられる。言い訳する気はないけど、大人の女にはそういうこともあるんじゃないかと思います」

人肌だからこそ癒やされる。いや、本当に心身ともに疲労や鬱々としたものを抱えたとき、人肌でしか癒やされないこともあるのかもしれない。
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