アフターピルが薬局で買えるようになる? ピル市販薬化の議論・経緯

ピル市販化の動き

日本では医師による処方が必要なピル。海外では薬局やスーパーで安く買える国も少なくありません

緊急避妊薬の市販化の話題は、2020年10月8日に開かれた内閣府・第5次基本計画策定専門調査会(第7回)の資料『第5次男女共同参画基本計画の策定に当たっての基本的な考え方(案)』で 言及されています。資料内には「避妊をしなかった、または避妊手段が適切かつ十分でなかった結果、予期せぬ妊娠の可能性が生じた女性の求めに応じて、緊急避妊薬に関する専門の研修を受けた薬剤師が十分な説明の上で対面で服用させることを条件に、処方箋なしに緊急避妊薬を利用できるよう検討する」という記述があります。

ここ数年、診療のオンライン化の議論のなかで、遠隔診療でアフターピルを積極的に出せるようにする・しないという議論が続いてきました。3~4年前からは、OCT化(市販化)を許可する薬のひとつに、アフターピルを含めようという議論も一部にはありました。しかし医師会を中心とした業界団体の強力な反対もあり、いずれもあまりうまく進んではこなかったというのが実情です。
 

海外では安く市販されているピル……未成年には無償提供される国も

アメリカやヨーロッパ、また東南アジア各国などの多くの国では、低用量ピルやアフターピルが薬局やスーパーのドラッグストアで市販化されており、手軽に入手できる環境が整っています。
 
市販化が進む海外各国では、アフターピルの商品数も豊富で価格も安いです。各国の所得差・物価差を念頭に置いたとしても、日本の感覚でおよそ数百円から数千円程度の負担で入手することができます。アメリカ、ドイツ、カナダなどでは、おおよそ1500~2500円で販売されています。また、イギリスはアフターピルを含め避妊はすべて無料ですし、ドイツやフランスはピルが未成年に無料で提供されるというようなケースもあるようです。

一方で、今の日本ではアフターピルは種類も少ない上に1万円前後と値段も高く、医師の処方が必須です。現在日本で認可されているアフターピル「ノルレボ錠」は1錠1万5000円前後。2019年3月には、ジェネリック医薬品である「レボノルゲストレル錠」が発売開始されましたが、6500~9000円程度とまだまだ高額です。服用が必要な状況になった場合、女性は決して低くない時間的・経済的負担を強いられます。
 

アフターピルが日本ではなかなか市販薬化されないのはなぜ?

ではなぜ日本は医療的にも進んでいる先進国にも関わらず、諸外国とここまで大きな差があるのでしょうか? 背景には複雑な利権や政治的な理由もあると思います。

例えば、診察や処方なしにピルが買えるようになれば、窓口としての病院の収入源は当然減ることになります。アフターピルは1万6000円程で販売されていますが、現在は初診料やピルの原価を差し引いた分が病院の収益となる仕組みです。市販化され価格が安くなることは、医療業界団体にとっては容認しがたい面があるかもしれません。
 
さらに言えば、日本の産婦人科では「人工中絶」の費用が大きな収入源となっている側面もあります。日本の人工中絶数は年間で7~16万件。中絶に必要な費用は15~30万円が相場といわれており、患者の自己負担です。アフターピルの普及により人工中絶数が大きく減少することになれば、この構造も大きく変化する可能性があるでしょう。
 
また、政治的な理由もあるでしょう。アフターピルがより普及することをよしとする医師も大勢いますが、日本はまだまだ避妊やピルに関して保守的な考え方が蔓延している社会です。普及に賛成してしまうと医師会などの主要メンバーに選ばれなくなるというような懸念を感じ、表立って意見が言いにくいと感じる医師も少なからずいるはずです。
 
アフターピルを手軽に買えるようにすべきという産婦人科医も多いと伺っています。これは中絶により女性が受ける身体的・精神的苦痛やリスクについて診療の中でよく理解されているからでしょう。一方で、それらを知りながらも業界団体内部で反対の声を上げ続ける産婦人科医もいるというのが現状なのです。
 

ピル市販薬化で薬局で買えるようになった場合のメリット・デメリット

ピルの市販薬化に伴い考えられるメリット・デメリットを挙げてみましょう。

■メリット1. 病院受診の必要がなくなり負担が減る
ピルを処方してもらうためだけに、病院に行く必要がなくなります。例えば受診可能な時間が、勤務時間や子どもの世話などと重なり、それらを調整しないと受診できない女性も、薬局なら休み時間にちょっと寄って購入することも可能になります。時間的にも経済的にも、負担が減ります。
 
■メリット2. 地方医療にとってもセーフティーネットになる
地域によっては、気軽にアクセスできる産婦人科医が少ないケースや、あったとしても都心部より近所の人目を気にして受診がしにくいといったケースは少なくありません。薬局でアフターピルが入手できるようになれば、そういったハードルを下げられる可能性もあります。地方医療にとってもセーフティーネットになるかもしれません。
 
■メリット3. より確実な避妊ができるため、男女ともにメリットになる
アフターピルの普及は女性のこととして語られがちですが、男性にとっても大いにメリットがあります。計画的な妊娠、避妊を考えているのは女性だけではないでしょう。コンドームで避妊できる確率は100%ではありません。コンドームを使用していても、破れたり外れたりするなど予期せぬ避妊の失敗は、身近なことだと思います。また、万一失敗してしまった場合でも、薬局で購入できるのなら、女性の受診は必要なく、パートナーの女性のために男性が購入することもできるでしょう。
 
■デメリット1. 乱用の問題
手軽に買える分、利用者によっては乱用の問題が出てくる可能性があります。市販化されたとしても、アフターピルがあるからと適切に避妊せずに性交渉をしないことなどを、男女ともに正しく理解する必要があります。

■デメリット2. 薬局での販売時間の問題
市販化される場合でも、薬剤師の勤務する時間帯でしか購入できないといった制限はあります。限られた時間帯でしか購入できないとなると、「市販薬化されたから勤務前や勤務後に購入すればいいだろう」と考えていたら、薬局内にピル自体は置かれているのに購入できず、効果が得られるタイムリミットを過ぎてしまったといった問題も起こるかもしれません。これらについても周知される必要があるでしょう。
 

アフターピル市販化の展望……議論再燃も先行きは不透明なのが現状

性暴力のような犯罪でなくても、例えば飲酒後に避妊せずに性行為をしてしまった場合や、コンドームによる避妊が失敗してしまった場合など、女性は望まぬ妊娠の可能性にさらされるリスクが少なくありません。相手に好意を寄せていて性行為は合意のものであっても、行為の後で後悔するケースもあるかもしれません。医師に根掘り葉掘り聞かれなければピルの処方を受けられないというのは、今の時代にはもやは合わないのではないでしょうか。

いくつかの報道にもありましたが、医師会などの業界団体はこれまで「(店頭販売するとしても)薬剤師はピルの話はチンプンカンプン」「性教育を優先すべき」「日本では誰も買わない」「犯罪を助長する」「時期尚早」というような、あまり理由と呼べない理由で市販化を断固反対してきたように思います。それが現在、政府の意向で突如議論が再燃している印象です。アフターピルの市販化問題をかねてから主張してきた団体も多く、ここへきてその声が政界に届き始めたという見方もできるでしょう。
 
とはいえ、今後どうなるかは、全く不透明です。他メディアでも報じられているように、産婦人科医会は反対の声明を出しています。また、値段が安価になるのかも全くわかりません。薬局販売に踏み切られたとしても、市販薬になってももし1万円ほどの費用のままであれば、困ったときに購入したくても、ハードルが高いと感じる人もいるでしょう。
 
個人的には政治的ポーズに終始せずに、議論が再燃したこの機会に、ぜひアフターピル の市販化を進めていただきたいと思っています。
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