出会ってはいけない人に出会ってしまって

事実は小説より奇なり

事実は小説より奇なりという。実際、ドラマのようなできごとは存在する。「出会ってはいけない人」にあまりにも偶然出会ってしまったとき、どうしたらいいのだろうか。

 

父を奪われて母子家庭に

「私は父の記憶がほとんどないんです」

ユキコさん(36歳)はそう言う。5歳になるころ、父は突然いなくなった。

「母に聞いても長い間、教えてもらえませんでした。そのうち、それは聞いてはいけないことなんだろうと私も認識するようになったんです」

看護師だった母は、一生懸命に働いてひとりっ子のユキコさんを育ててくれた。病院の寮に住んでいたので誰かがめんどうを見てくれたが、それでも子ども心に寂しさを覚えたことはある。

「高校生のころ、母が倒れました。長年の疲労が蓄積されていたんでしょうね。私は母と同じ看護の道を進もうと決め、ある病院付属の看護学校に合格したんです。母は私が看護師になるのを楽しみにしてくれましたが、卒業間近に亡くなりました」

亡くなる数日前、母はつらそうな呼吸をしながら、父のことを話してくれたという。それによれば、ユキコさんの父は、ある女性と恋に落ちて家を出ていった。相手も既婚者だったが子連れで駆け落ちしたのだそう。

「よほど愛し合っていたんだろうね、腹いせに離婚には応じるまいと思ったけど、だんだんバカバカしくなっていって、あなたが小学校に入るころ離婚したのよと母は涙ながらに話してくれたんです」

ユキコさんの父親を奪った女性について、母は何も知らないと言い張った。知らないはずはないと彼女は思ったが、それ以上、母につらい記憶をよみがえらせるのは酷だとあきらめた。

「ただ、母は父の不在について私に話すことができてほっとしたんでしょうね。本当に静かに苦しまずに逝きました。父に知らせる術はなかったし、当時は探すつもりもありませんでしたから、私ひとりでそっと母を送り出したんです。ただ、心のどこかで父を奪った女性への憎しみが巣くったのは事実です」

母に負けない看護師になる。それを胸に彼女はがんばった。

 

心惹かれる人に出会って

ユキコさんが30歳のとき、勤務する病院に、同世代の男性が運ばれてきた。仕事中に事故があり、腰椎骨折の大けがをしていた。

「私が担当だったのですが、我慢強くて思いやりのある患者さんでした。患者に恋をするなんてあってはならないと思っていたし、実際、皆無だったんですが、その人だけは別でしたね」

3ヶ月の入院期間中、ユキコさんは彼といろいろ話をしたという。彼は事故後、当時つきあっていた恋人にフラれていた。

「しかもメッセージ1通で別れを言い渡されて。そのメッセージも見せてくれましたが、2年もつきあって結婚を視野に入れていたというわりには冷たい文章でしたね。気の毒すぎて私が涙ぐんでしまったほどです」

彼はそんなユキコさんを見て、「でも僕はフラれてよかったのかも。ユキコさんがこんなに気の毒がってくれるんだから」と冗談を言って笑わせてくれた。

「退院してからも、彼は毎週通院してきました。時間が合えばランチをしたりしていましたが、あるとき彼から『つきあってほしい』と言われて……。彼のことをあきらめられずにいたけど自分からは言えなかったからうれしかった」

彼は仕事に復帰して、前にも増して仕事に情熱を燃やしていた。彼女もまた、熱心に仕事や勉強に打ち込んでいたので、なかなか通常のカップルのようにしょっちゅう会えなかったが、それでもふたりは真剣につきあっていたという。

「2年ほどつきあったところで、彼から両親に会ってほしいと言われたんです。彼の実家は遠方だったので、この際、旅行がてら少し休みをとろうと楽しみにしていました。ところが行く直前、彼から『オヤジが調子が悪いから延期してほしいと言ってきた』と」

その後、重要かつ重大な話があると呼び出されたユキコさんは、衝撃的な事実を知ることになった。

彼の父親は、ユキコさんの父親だったのだ。つまり、彼の母は、ユキコさんから父を奪った女性ということになる。彼の両親が再婚で、彼は母の連れ子だという話は聞いていた。彼が親に結婚の話をし、ユキコさんのフルネームを言ったとたん、父の様子がおかしくなったのだという。

「母の意向で、私は両親が離婚してからは母の苗字に変えたんです。小学校に入るときは母の苗字になっていました。あまりどこにでもある苗字ではないので、父はもしかしたらと思ったのかもしれません。彼は両親のなれそめを“再婚であること”しか聞かされていなかったようです。改めて父から『実は』と聞かされたそうです」

探そうとも思わなかった失踪した父親が、彼の義父になっていたとは。こんな巡り合わせがあっていいものか、どう考えたらいいのかとユキコさんは悶々とした。

彼と結婚したら、父を奪った女性が義母となる。母を思い出すたび、彼女への憎しみが炎のように燃え上がるのを感じていたから、それは耐えられないことだった。

「彼のことは本当に好きだった。だけど一方で父を奪った女性、母と私を捨てた父には嫌悪感と憎悪が捨てられない。彼に率直にそう伝えました。彼、私と同じくらい苦しそうでしたね」

何ヶ月も話し合ったのち、お互いのためにと別れることにした。もし偶然、どこかで再会することがあれば、そのときまた考えようとも話した。

「その後、私は勤務先も変わったし、今のところは再会していません。きっと再会しないでいい相手なんだろうと思っています。結局、私は父には会いませんでした。彼とのこととは別に会っておけばよかったのかもしれないと最近になって思うようになりました。あの時点では会うつもりもなかったけど」

彼とのことも父とのことも、なかなかすっきり気持ちの整理がつかないと彼女は静かな口調で言った。

離婚や再婚が増えると、こういう思いもかけないことが起こり得る可能性が高くなるのかもしれない。


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