亀山早苗の恋愛コラム

恐怖…自他共に認める「真面目な夫」が見せた“別人”のような異常性

「まじめな仕事に就いている代表」のような教師や警察官。だが世間のイメージを裏切る事件を起こしているのが気になる。本当ならまじめだったはずの人が、いったいどこで暴発してしまうのか……。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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酒もタバコもやらない、やさしくて真面目な夫が……

真面目な人

このところ、教師によるわいせつ事件が連発している。小学校の教師がSNSで知り合った女子高生に裸の画像を撮影させ、自分のスマホに送信させたり、やはり小学校教師の男性がSNSで知り合った男子中学生と会って、車の中で猥褻な行為をしたり。電車の中で女子中学生に体液をかけた疑いで逮捕された小学校教頭もいる。

また、子煩悩と評判の元警察官の夫が、妻の死体遺棄容疑で逮捕される事件も。離婚のトラブルによるものかと報じられている。

本来なら、「まじめな仕事に就いている代表」のような教師や警察官。だが世間のイメージを裏切る事件を起こしているのが気になる。職業によって犯罪が多い少ないというつもりはない。ただ、本当ならまじめだったはずの人が、いったいどこで暴発してしまうのか……。

 

まじめで家庭を大事にする夫

「元夫が、あるときから荒れ始めたんですよね」

そう言うのは、コズエさん(46歳)だ。29歳のとき、2歳年上の男性と結婚した。彼はまじめな仕事についているまじめなサラリーマンだった。

「私はその前の彼に浮気されてぼろぼろになったんです。そこで友だちが紹介してくれたのが2歳年上の人。まじめで浮気なんか絶対しない、酒もタバコもやらないと。会ってみたら本当にまじめでした。あちらもちょうど結婚を考えていたらしく、半年ほどつきあって結婚したんですが、結婚前には手さえ握ってきませんでした」

少し口べただが、根はやさしい人だともわかっていた。「結婚式は新婦のためのものだよね」と言って、コズエさんのお色直しは2度したいという希望もかなえてくれた。新婚当初、道端で猫を拾ってきたこともある。

「結婚して日常生活をともにするようになってから、本当にいい人なんだとよくわかりました。共働きだったのですが、彼は何も言わなくても家事をしてくれる。私が疲れていると、お弁当まで作ってくれたりするんです。私の友だちが来たときは、彼がキッチンに籠もりっぱなしで料理を作ってくれて。それがまたおいしくて、私の友人たちはみんな夫のファンになっていました」

一方で、自分の友人は家に呼ぼうとしなかった。みんながお酒を飲んでコズエさんに迷惑をかけると思ったという。

 

ストレス? 突然の“暴発”で警察に

その後、ふたりの子にも恵まれ、コズエさんは仕事に家庭にと忙しいながらも楽しい日々を送っていた。ところが結婚して10年ほどたったころ、夫が酒を飲んで帰宅するようになった。夫はそのころ部署が変わり、接待で飲めない酒も飲まなければいけない状況になっていたらしい。

「私は無理しないほうがいいと言ったのですが、まじめな人だから少しでもつきあわないといけないと思っていたみたい」

しばらくたったある日の深夜、警察から電話がかかってきた。夫が器物損壊罪で警察にいるというのだ。

「飛んでいくと、夫が警官とやりあっていました。あんな大声で叫んでいる夫を初めて見た。この人は私の知らないところでは、全然違う人間なのではないかとちょっと怖くなりました」

そのときは酔った上で、店のガラスドアを蹴破ったということでそのまま自宅に帰されたが、厚いガラスのドアを蹴り破るほど夫には何かストレスがあるのではないかと警察から助言を受けた。

「私は仕事のストレスばかり考えていたので、夫に『疲れてるのよ。少し休んだら?』と言ったんです。でも夫は『迷惑かけてごめん』と翌日からまた仕事に家事にとがんばっていた。なるべく夫を休ませようと私も家事や子どものことで負担をかけないようにしていたんですが」

その数ヶ月後、夫は窃盗罪で逮捕された。深夜の帰り道で、あるマンション1階に干してあった女性の下着を盗んだのである。余罪もあった。

「朝、いきなり警察がやってきて夫は連れて行かれました。罪状を聞いて情けなくてたまらなかった。夫はどこで逸脱してしまったのか……。その後、夫が『寂しくてつい』と言っていると聞いて、ものすごく違和感を覚えたんです」

夫は女性の愛情に飢えていたと警察で語ったらしい。それで女性を思わせる下着を盗んでしまったのだ、と。

「あんなにまじめでやさしくて、大人の夫が、どうしてこんなことをとばかり思っていました。理由が寂しかったから? 私たち、そんな冷たい関係ではなかったはずなのに」

初犯で、被害者とも示談になったことから、夫は執行猶予がついて実刑は免れた。だが夫は身元引受人を実兄に頼み、自宅に戻ることはなかったという。

「そのまま離婚届が送られてきました。一度だけ会って話したけど、夫はとにかく申し訳なかったと泣くばかりで、家族に迷惑をかけたくないから離婚してほしい、と。私自身、夫の『寂しかった』がひっかかり、どうしても夫を受け入れることができないと感じていました。いや、それ以上に頭が混乱したままだったのかもしれません」

すでにコズエさんは子どもたちを連れて実家に戻っていた。送られてきた離婚届にサインをして、夫に言われたとおり義兄へと送った。それしか方法がないと思いつめていたという。

「離婚届を出してから5年以上の月日が過ぎました。義兄とはときどき連絡をとりあっています。夫は今、小さな会社で堅実に働いているそうです。義兄の自宅からほど近いアパートにいるとか。私と子どもたちも、元の自宅とは別の場所に引っ越して静かに暮らしています。私はそのまま会社に勤めているし、子どもたちも特に父親のことで何か言われたりはしていないようです。新聞にも載らなかったくらいですから。でも今でも不思議なんです。どうして夫があんなことをしたのか。いつか夫に会って聞いてみたい。まじめで家庭的な夫に、どういう寂しさがあったのか。それだけがどうしても気になっています」

コズエさんの目にうっすらと涙がたまっていた。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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