亀山早苗の恋愛コラム

負け犬? 49歳の夫が突然「移住したい」と言い出した理由に妻は…

人生を変えたい。誰もがそう思うことがあるかもしれない。仕事を変える、居住地を変える。思い切って起業する。独身ならいざ知らず、家庭があれば家族の意見も異なるだろう。夫が移住したいと言い出したら、妻はどうしたらいいのだろうか。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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移住を考える夫、反対する私……家族はどうなる?

現実逃避

人生を変えたい。誰もがそう思うことがあるかもしれない。仕事を変える、居住地を変える。思い切って起業する。独身ならいざ知らず、家庭があれば家族の意見も異なるだろう。夫が移住したいと言い出したら、妻はどうしたらいいのだろうか。

 

夫の気持ちもわかるけれど

結婚して都内に住んでいるユミコさん(46歳)。結婚して16年、14歳と10歳の子どもがいる。夫は先日、49歳になったばかり。

「コロナ禍でふたりとも在宅勤務になって家にいるとき、突然、夫が『移住して新たな人生を送らないか』と言い出したんです。夫は北関東出身で大学から東京、私は生まれも育ちも東京です。でも夫が移住先として考えているのは四国か九州だという。最初は夢物語だと思っていたんですが、通勤が再開した9月になってもその話をたびたび蒸し返すんですよね」

夫は会社の派閥争いに巻き込まれ、今はあまりいい立場にいないらしい。だが給料は悪くないし、なにより大手企業にいるのは安心感が強い。

「私が中堅企業で働いているので、このコロナ禍で会社は大丈夫かと危機感に襲われました。夫には少なくともそういう心配はない。まだまだ子どもの教育費もかかるし、今のままでいいと私は思っています。これから両方の親の介護問題も出てくる。遠くに行ってしまったら親たちだって寂しいでしょうし」

だが夫は納得しない。50代になったら気力も体力も衰えて、もうしたいことができなくなる。決意するなら今しかないと食い下がるのだ。夫がそれほど真剣に、そしてしつこく話を持ち出すにはそれなりの理由があるのだろうとユミコさんは感じている。

「夫が言ったんです。『そんなに東京の暮らしがいいか? 人間として正しい生き方なんだろうか』と。そう言われると、慣れ親しんだ土地だから何も考えずに暮らしているだけ。私自身は便利だから東京が好きですが、子どもたちはアレルギーがあるし、塾などに行かずに伸び伸び暮らさせてやりたいと思うことはある。だけどあまり現実的じゃないんですよね。どこかに移住してどうやって暮らすのか、仕事はどうするのか、子どもたちの教育はどうなるのか。もし子どもが東京の大学に行きたいと言ったら、新たな仕事をしながら学費は出せるのか。疑問だらけです」

妻は冷静に現実を考えていた。

 

生きることの意味とは

それでも夫は引き下がらない。週末ごとに気になる県のアンテナショップなどを巡って移住の相談を続けている。最近では離島もいいなと言い始めた。

「上の娘は、地方暮らしに興味がないようですが、下の息子は夫の提案に興味津々。海の近くで暮らして漁師になりたいと言い始めています。夫は自給自足に近い生活をしながら、WEB関係の仕事をしていけると思っている。知り合いも友だちもいない場所で、今さら暮らしていけるはずがない。移住するなら定年後でもいいでしょうと私は思うんですよね」

ところが夫は定年後では何もできないと言い張る。地方に移住して、もう一旗揚げたいという野心もあるようだ。

つい先日、夫の大学時代の友人が、九州のとある島で暮らしていると情報を得てきた。連絡をとっていろいろ尋ねているらしい。

「いろいろな生き方があるし、夫がこれが最後のチャンスだと思うのもわかるんです。だけど私に言わせれば、環境を変えたときのメリットデメリットがはっきりしない。子どもたちにとっては、今後の人生を考えたときに選択肢が減るのではないかとさえ思う」

夫は大学時代の友人を訪ねて、一度、島に行ってみるという。自分に何ができるのか、メリットデメリットをよく考えてきてほしいとユミコさんは夫に告げた。

「夫がもし会社を辞めて移住するという選択をするなら、私はやはり東京に残りたいですね、娘と一緒に。ふたりとも会社を辞めて移住先で失敗、やはり帰りたいとなったら、経済的にも完全に我が家は崩壊します。だからせめて私が勤め続けていたほうがリスク分散にはなるかと……」

ユミコさんは、夫の移住には「ここではないどこかに逃げたい」という気持ちがあるのではないかと疑っている。

「いろいろあって夫は疲れているんだと思います。いきなり移住ではなくて、少し会社を休んで好きな場所でゆっくりしてきてもいいのではないかと。だけど私がその提案をしたとき、『きみはオレが負け犬だと思ってるのか』とちょっと気色ばんだんですよ。図星だから怒ったのかなと思うけど、それ以来、夫の核心を突くようなことは言えないなとも感じました」

夫ひとりの問題ではない。家族の将来、特に子どもの将来が関わる問題だ。おざなりにはできないし、どんなに準備してもしすぎることはないはずだ。

「まったく違う環境で人生をやり直すというとかっこいいけど、一方で同じ場所でがんばるという選択肢もある。どちらがいいとか悪いとかじゃないけど、どうも夫が甘く考えているような気がしてならないんです」

妻は夫に従わなければいけないわけでもない。だからユミコさんは、夫と別居や離婚となっても経済的に精神的に、やっていけるかどうかシミュレーションを重ねているという。飛び出していきたい夫と、地道に現実を重ねたい妻、この距離は埋まるのだろうか。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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