亀山早苗の恋愛コラム

「不倫は不貞行為」だが…夫の不倫相手に“敢えて”慰謝料を請求しなかった妻の本音

不倫が不法行為であれば、妻または夫から不倫相手に対して慰謝料を請求することができる。ここでは、あえて「夫の不倫相手の女性に慰謝料を請求しなかった妻」に話を聞くことができた。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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不倫は本当に「誰かを傷つける恋」なのか

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「不倫は不貞行為」である。そしてこの「不貞行為」が民法709条に触れる場合、「不法行為」となり、慰謝料が発生する。民法709条は、不法行為による損害賠償請求に関する条文であり、慰謝料を含め多くの損害賠償請求の根拠となっている。つまり、不倫が不法行為であれば、妻または夫から不倫相手に対して慰謝料を請求することができるというわけだ。

もちろん、不法行為に当たらないこともある。たとえば不倫相手が独身だと信じていた場合、あるいは夫婦関係が破綻していた場合などがそれに当たる。

あえて「夫の不倫相手の女性に慰謝料を請求しなかった妻」に話を聞くことができた。

 

熨斗をつけてくれてやると思った

「夫が不倫をしてくれてよかったとさえ思っています。もちろん、私にとって楽しい話ではなかったけど、離婚する理由ができたので」

そう言って笑顔を見せるのは、アケミさん(40歳)だ。29歳で5歳年上の男性と結婚、現在9歳になる娘がいる。夫の不倫がわかったのは3年前だ。

「目に入れても痛くないほどかわいがっている娘がいても、不倫をする男はするんですよ。夫の不倫がわかったのは、相手の女性がいきなり家にやってきたから。うち、オートロックのマンションなんですが、下でインターホン越しに『私、あなたのダンナさんとつきあっているんですが』と言う女性がいて。まあ、なんとなく予想はついていたので、入ってもらって部屋のカメラ付きインターフォンで対応したら、若い女性でした。『いつからつきあっているの?』『1年になります。奥様が離婚に承諾してくれないと言うので』『うちでは離婚の話は出ていませんよ』というやりとりがあり、彼女はいきなり泣き出して……。かわいそうになって家に入れたんです。同じような会話があったんですが全部、録音しました。彼女は29歳。夫はいろいろウソをついていたようです。子どもはいないとか、妻は何の能力もない女だとか。うちには子どもがいるし、私は家でピアノを教えていると言ったら彼女、呆然としていました」

それでも最後には、「奥様を傷つけて申し訳ありません。でも私は彼を愛しているんです」と叫んで帰っていったという。かわいそうだった、とアケミさんは顔をしかめる。

「彼女が帰ってから考えたんですが、私、別に傷ついていませんでした。夫に対して、それほど情熱がなかったということでしょうね。モヤモヤしていたことがはっきりしたから気持ちはむしろすっきり。さて、どうやって離婚しようかなと考えたのを覚えています」

夫を憎むとか嫉妬するとかいう感情はいっさいわかなかった。だからこのまま婚姻を続けていてもかまわなかったのだが、彼女のことを考えると離婚してもいいと思ったのだそう。

「熨斗をつけてくれてやるって感じですかね。不倫がいけないのは一般常識だと思うんですが、私はもし本気で恋愛したのなら、それはそれでしかたがないと思うタイプ。夫の心まで縛ることはできませんから。だけどどうせならもっといい女に惚れてほしかった。いきなり不倫相手の自宅を訪ねて、妻にケンカを売るような女性ではなくて」

そんな女性を選んだ夫に失望した。夫とはすでに娘の親としての関係でしかなかったから、アケミさんは夫を取られたとも感じなかった。

 

略奪と言われてしまう彼女への思い

夫の心が自分にないなら、追う必要はいっさいないとアケミさんは思った。強い女性である。

「強いわけじゃないんですよ。夫婦って男女の感覚がなくなってきても、人としての信頼とか家族としての愛情が強まるものでしょ。でも私は夫をあまり信頼していなかったんだと思う。娘をかわいがってはいるけど猫かわいがりなんですよね。家の中のことは私に任せっぱなし、おそらく過去にも浮気はしていると思う。そういう中で、私は少しずつ夫に関心をなくしていったんだと思います。いつか離婚は避けられないと感じていたから、チャンスは意外と早く訪れたと感じた程度でした」

離婚したら、不倫相手の彼女は夫との結婚を望むのだろうか。周りからは略奪愛と言われてしまうのだろう。そう思ったら、自分より11歳年下の彼女が不憫になったという。わざわざ夫を選ばなくてもいいのに……と。

アケミさんは、彼女を呼んで3人で話し合った。ふたりが望んでいるなら、私は離婚する。今住んでいるマンションとじゅうぶんな養育費をもらえれば、彼女に慰謝料は請求しない、生活費もいらないと告げた。夫は上目遣いでアケミさんを見たが、彼女のほうは嬉し泣きしていた。

「家のローンは夫が払う、養育費は月に5万円、さらにこの先、私立校へ行ったときは入学金や学費も出すというのが条件。夫が同意したのできちんと公正証書を作りました」

夫はたいした出費ではないと思ったのかもしれない。だがローンと養育費で15万円だ。夫と彼女はどこへ住むつもりだったのか。

「夫はそういうところが少し抜けているというか(笑)。私は離婚届を書いたときほっとしました。あとから彼女が本当に申し訳ありませんでしたと謝ったけど、『あなたが謝る問題ではない』と言いました。それは私の本音。だって夫の不倫で私は傷ついていないんですから」

夫がいなくて困ることは何もない。娘は会いたいときに父親に会えばいい。こういう淡々とした妻に、夫は恐怖心を抱くのかもしれない。

離婚が無事に成立したのは昨年の暮れ。その後、夫は彼女の実家に転がり込んだらしい。この夏、夫はその家を出たと電話を寄越した。

「それでも私の気持ちは、だから何という感じでした。娘の父親として最低限の敬意は払いますが、彼の言葉で私の心が揺れることはありません」

信頼していなかった夫の裏切りは、妻にとって何の影響ももたらさない。家があれば、あとは自分で働いて何とかする。そんな女性が増えていけば夫婦関係はもっと変わっていくかもしれない。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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