亀山早苗の恋愛コラム

ある日突然、夫が急死…義母からの電話で知った許せない「夫の秘密」

人間、明日はどこでどうなるかわからないもの。配偶者が、あるいは自身が明日、突然命を落とすこともありうる。そのとき、秘密を知ってしまったら……。どこに恨みをぶつけたらいいのかわからないと言う女性がいる。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

恋愛ガイド

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急死してわかった夫の秘密

夫の隠し子

人間、明日はどこでどうなるかわからないもの。配偶者が、あるいは自身が明日、突然命を落とすこともありうる。そのとき、秘密を知ってしまったら……。どこに恨みをぶつけたらいいのかわからないと言う女性がいる。

 

突然の連絡だった

「結婚して7年、ひとり娘が5歳だった1年半前、夫が急死しました。本当にいい人だったんです。だからあんな秘密を抱えているとは思いませんでした」

そう話すのはシオリさん(39歳)。友人の結婚パーティーで知り合った同い年の彼と2年つきあい、30歳になる直前に結婚した。共働きで家事も分担、子どもが生まれてからも協力しあって暮らしていた。

「夫は率先して家の中のことも子どものこともやるタイプ。料理だって彼のほうがうまかったし掃除も上手だった。そして何より、娘と私に愛情をたっぷり注いでくれました」

何があっても夫がいれば大丈夫。シオリさんはいつもそう思っていたそう。ケンカひとつしたことがなかったというから、どれほど仲がよかったかわかろうというものだ。

毎日が楽しかったのに、ある日突然、「夫の死」という崖から突き落とされたような衝撃を覚える。

「朝、いつもと同じように私と娘を抱きしめて会社に出かけて行ったんです。娘を保育園に預けて出社したとたん、携帯に警察から電話がかかってきて……。夫は勤務先の最寄り駅で倒れ、階段を転げ落ちたそうです。事件かと思われたんですが、急性大動脈剥離でした。階段を転げ落ちてケガもしていましたが、転落する前にほぼ即死に近いような状態だったらしくて……。丈夫な人だったし、その年も3ヶ月前に健康診断を受けて問題がなかったのに」

その後のことは、ほとんど覚えていないとシオリさんは言う。夫の会社の人が手伝いに来てくれ、あわただしく通夜と葬儀が営まれた。悲しむ余裕さえなかったそう。不穏な空気を感じた娘が泣いてばかりいたのがせつなくてたまらなかった。

「私、まったく涙も出ませんでした。実感がなさすぎて泣けなかった。でもお骨を抱いて家に帰り、疲れた娘が眠ってしまったとき、急にこみ上げてくるものがありました。そこからどうやってまた会社に行けるようになったのかも覚えていないんですが」

夫は地方出身のため、実家に埋葬はできないし、するつもりもありませんでした。お墓を買うかどうかの決断ができないまま、遺骨は今も自宅に置いてあります。このままずっと夫と一緒に暮らしてもいいなと思っています」

悲しみの行き場はなかった。

 

義母からの連絡

夫が亡くなって1ヶ月ほどしたころ、義母から連絡があった。死亡診断書がほしいという。なぜ義母がそれを必要とするのか尋ねても言葉を濁す。さらに強く聞くと、「いずれわかることかもしれないから」と義母は話してくれた。

「夫には外に子どもがいたんです。しかもその子、娘と同い年、男の子でした。夫にはもうひとつ家庭があったようなものでした。すぐには信じられなかった。義母は遠慮しながらも、『あなたには知られたくないって言ってね。でもふだんはあちらに生活費も渡していない状態だから、自分に万が一のことがあったらお金を分けたいんだ。おかあさんを受取人にして生命保険に入っておくから、それをあちらの家に渡してほしい』と彼は言っていたそうです。そう聞いても信じられなかった。夫は私には生命保険に入ってないって言ってたんですよ。入院保険だけは入っていましたが……」

夫の死に追い打ちをかけるようなショックだった。夫は「もうひとつの家庭」の息子を認知していなかった。それを聞いても「かわいそう」と思えず、夫の子ではないのではないかとさえ思っていた。

「夫の生活をずっと監視していたわけじゃないし、ときどき出張もあったし、会社に泊まると連絡があったこともありました。そういうときの多くは、もうひとつの家庭に行っていたんでしょうか。どうやってふたつの家庭を行き来していたのかわかりません」

その後、義母とゆっくり話す機会があり、そもそも夫が彼女とつきあい始めたのはシオリさんたちが結婚して1年ほどたったころだったと聞いた。義母が言うには「ひょんなことからそういう関係になって、彼女にすがりつかれて別れられなかった」とのことだった。

「それを聞いたとき、ちょっとわかるなあと思いました。夫と私は対等な関係だったと思いますが、夫は弱い人を見ると助けずにはいられない。捨て猫がいたら知らん顔はできないタイプなんです。夫から好きになったわけではない、女性にすがりつかれてそういう関係をもってしまったんだと。まあ、義母もそう思わせようとしたのかもしれませんが」

信じられない、少しわかる、それでも許せない。その3つの感情がシオリさんの中でせめぎ合い、苦しんだ。

「受取人は義母なのだから、好きなようにすればいい。最終的にはそう思いました。それが夫の遺志なのだから私にとやかく言う権利はありませんしね。金額がいくらかも知りません。相手の女性は私に会いたがっているという話も聞きましたが、それは拒否しました」

相手女性からすると死後認知を求めることもできるものの、そのあたりは義母がうまく話してくれたようでおおごとにはならなかった。

夫の死から1年半。娘も来年から小学生になる。夫の社宅を出て、今は賃貸アパート暮らしをしながら子育てをしてきたシオリさん。いくらかの貯金があったとはいえ、生活は決してラクではない。今後のことを考えると、「夫がなぜ私を受取人にした生命保険に入っていなかったのか」が気になってきた。

「時間がたつにつれ、保険のことは本当だったのか、もうひとつの家庭も実在するのか。なんだかわからなくなってきています。落ち着いたらもう一度、義母と連絡をとって相手の女性に会ってみてもいいかもしれないとも思うようになっていて……。結局、夫の死をまだ受け止めきれないんですよね」

少し疲れた表情でシオリさんはそう言う。何を信じたらいいのかわからない。それでも今日もきちっと化粧をして出社する。そうしないと自分を保てないと、シオリさんは寂しそうにつぶやいた。
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